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イタリア風、フランス流を巧みに結ぶ、ルベルのバロック。 [before 2005]

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生誕150年、サティブゾーニカリンニコフ... 没後200年、パイジェッロと来て、さらに、さらに時代を遡り、バロックへ... ヴェルサイユで活躍した音楽家一家の出身、ヴァイオリニストにして作曲家、生誕350年のメモリアルを迎える、ルベル。で、今、改めて、この人の音楽的背景、歩みを辿ると、フランス・バロックがさらに展開してゆく頃の興味深い景色が見えて来て、おもしろい!ヴェルサイユという、他に類を見ない規模の宮廷が生み出す独特な音楽環境があり... 一方で、パリという、民間の力で主導され大きく育つことになる音楽マーケットの存在があり、まったく異なる2つのフィールドが、フランスの音楽に様々なケミストリーをもたらすのか。フランスらしさと、外から持ち込まれる新しさがせめぎ合いつつ、織り成される感覚の豊かさ!
という、豊かなフランス・バロックに触れる1枚、アンドリュー・マンゼのヴァイオリン、ヤープ・テル・リンデンのヴイオラ・ダ・ガンバ、ダニエル・エガーのチェンバロで、ルベルのヴァイオリン・ソナタ集(harmonia mundi FRANCE/HMU 907221)を聴く。

ジャン・フェリ・ルベル(1666-1747)。
父、ジャンは、ルイ14世の礼拝堂の歌手を務め、リュリによるバレエではダンサーとしても活躍。姉、アンヌ・ルネは、宮廷で歌手として活躍し、王室礼拝堂の楽長、ドラランド(1657-1726)と結婚。と、音楽一家に生まれたジャン・フェリ。当然、音楽に囲まれて育ったのだろう、早くからヴァイオリンの才能を開花させ、8歳にしてルイ14世、太陽王(在位 : 1643-1715)の御前で演奏。幼いヴィルトゥオーゾに、王はもちろん、リュリ(1632-87)をも驚かせたのだとか... やがて、リュリが取り仕切るパリの王立音楽アカデミー(後のオペラ座... )の首席ヴァイオリニストを務め、さらにヴェルサイユの「王の24のヴァイオリン」(王直属のヴァイオリン属によるコンソート... )に加わり、目敏いパリっ子たち、慇懃なヴェルサイユの面々、両方から支持を集めることに... そして、1716年には王立音楽アカデミーの楽長となり劇場を沸かせ、1726年には宮廷作曲家の称号も得て、フランス楽壇を代表する存在に... そんなルベルの音楽を特徴付けるのが、フレキシブルさのように感じる。
リュリの登場で大きく花開いたフランス・バロックだったが、やがて太陽王の権威を飾る道具として、堅苦しいものに... そうしたところから、どう新たな音楽を展開するか?ここで聴くルベルのヴァイオリン・ソナタ(1713年に12曲のセットで出版。内、ここでは8曲が取り上げられる... )は、まさにそうした時代の象徴のような作品に思える。始まりの8番のソナタの1楽章、冒頭の深刻な表情は、イタリアの初期バロックのオペラを聴くようなドラマティックさがあって、惹き込まれる... かと思うと、ふとメランコリックな表情が過り、そこにフランス風を見出して... イタリア風とフランス風が交差し、思い掛けないケミストリーを生む。徹底してフランス音楽の優位性を主張していたリュリの時代は過去となったフレキシブルさ!そもそも、「ソナタ」という形式がイタリアのものであって、ヴァイオリン・ソナタを切り拓いたイタリアのヴィルトゥオーゾ、コレッリ(1653-1713)の痕跡はあちらこちらで見受けられる。5番のソナタ(track.4-7)の、明るく、軽快なあたりは、イタリアそのもの!ヨーロッパ中で人気を集め、大きな影響を与えたコレッリの新しいヴァイオリンの音楽は、フランス・バロックの伝統の中で育ったルベルにとって、ワクワクさせられるような輝きを放っていたのだろう。そうしたものがこぼれ出す音楽にも思える。
もちろん、フランスらしさもしっかりとある。太陽王の時代を思わせる古雅に彩られた6番のソナタ(track.8-11)、1番のソナタの終楽章、ミュゼット(track.15)の、キャッチーな優雅さはフランスならではで魅了される。それでいて、全体がふんわりとフランスのトーンで包まれているようで... チェンバロの繊細な響きには、ロココを見出すところもあり、ヴィオラ・ダ・ガンバによる深い響きには、ルネサンス以来の古雅を感じ、イタリアのセンスを引き込むヴァイオリンも、常にフランス的な上品さが漂い... それぞれの楽器が、それぞれのフランスらしさで綾なすことで、ニュートラルな魅力も生まれるのか、9番のソナタ(track.19-22)の瑞々しく落ち着きのある佇まいは、どこかバッハを思わせて、ルベルの鋭敏なバランス感覚は、バッハのユニヴァーサルさに通じるのか... イタリア風、フランス流を巧みに結びながら、やわらかな音楽を紡ぎ出す心地良さが魅惑的。
で、そのやわらかさを絶妙に響かせるマンゼ、テル・リンデン、エガー。ピリオドの名手が揃っているだけに、この3人のアンサンブルが生み出す音楽というのは、文句無しに魅了される。マンゼのヴァイオリンの真っ直ぐなサウンドを、深く丁寧にサポートするテル・リンデンのガンバ。静かだけれど、しゃなりしゃなりと装飾を施すエガーのチェンバロ。マンゼの盛り立てに回りながらも、端々でキラリと光る通奏低音が見事。それでいて、マンゼも強く出るようなところなく、通奏低音と丁寧な対話を試みる。この丁寧さが、ルベルの時代のフランス・バロックの気分にぴったりなのだなと... 美しいアンサンブル...

REBEL ・ VIOLIN SONATAS ・ MANZE, EGARR, TER LINDEN

ルベル : ヴァイオリン・ソナタ 第8番 ニ短調
ルベル : ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ニ長調
ルベル : ヴァイオリン・ソナタ 第6番 ロ短調
ルベル : ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ長調
ルベル : ヴァイオリン・ソナタ 第3番 イ短調
ルベル : ヴァイオリン・ソナタ 第9番 ヘ長調
ルベル : ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ト短調
ルベル : ヴァイオリン・ソナタ 第4番 ホ短調

アンドリュー・マンゼ(ヴァイオリン)
リチャード・エガー(チェンバロ)
ヤーブ・テル・リンデン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)

harmonia mundi FRANCE/HMU 907221




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コメント 1

サンフランシスコ人

リチャード・エガー.......サンフランシスコのフィルハーモニア・バロック・ オーケストラの音楽監督に....

http://www.sfcv.org/music-news/richard-egarr-named-next-leader-of-philharmonia-baroque

Richard Egarr Named Next Leader of Philharmonia Baroque
By Janos Gereben,
January 17, 2019
by サンフランシスコ人 (2019-01-19 06:28) 

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