SSブログ

メルヘンとムジークドラマ、フンパーディンクという結実。 [before 2005]

4509945492.jpg
12月24日です。イエス様が生まれてしまう!って、あっという間に過ぎてしまうものですね、師走。このスピード感に気疲れしております。ところで、先日、シェイクスピア劇の死の場面だけを集めて、ひとつの舞台作品を創ってしまう。というニュースを目にし、ふと思う。こういうの、クラシックでもやってみたらおもしろいのでは?今の時期などは、クリスマスの場面を集めて、ラモーのオペラ・バレみたいに、レビューっぽくまとめたら、なかなか素敵なものになりそうな予感。『ラ・ボエーム』の2幕とか、『くるみ... 』とか、クリスマス・オラトリオとか、いろいろを巧みにつないで... いや、その昔、パスティッチョなる寄せ集めは当たり前のようになされ、人気を集めていたのだから、21世紀のクラシックにも、そんな心意気があってもいいように感じる。しかし、オリジナルの壁を壊すのは難しいか?クラシックは、かつてのやわらかさを取り戻せると、より輝けるように思うのだけれど...
さて、クリスマス・イヴ、外しません、クリスマスの定番オペラ!いや、第九ばかりでないですよ、年末... ということで、ドナルド・ラニクルズの指揮、バイエルン放送交響楽団の演奏、ジェニファー・ラーモア(メッゾ・ソプラノ)のヘンゼルと、ルート・ツィーザク(ソプラノ)のグレーテルで、フンパーディンクのオペラ『ヘンゼルとグレーテル』(TELDEC/4509-94549-2)を聴く。

こどもの頃、絵本で馴染んだ物語を、今、改めてオペラとして聴く... 正直に言うと、ちょっと微妙な感じがする。グリム童話が原作となると、こども向け?ウーン、そこがもどかしいところ... 2幕の幕開けでグレーテルが歌うのは、ドレミファソッ、ラファミッレッドッ(disc.1, track.12)。音楽教室のCMで、こどもたちが楽しそうに歌っていたあのメロディー(ドイツ民謡がオリジナル... )。フンパーディンクが紡ぎ出したメロディーは、どれもキャッチーで、こどもたちを魅了するだろう、楽しく、易しいものばかり。当然ながら、華麗なるコロラトゥーラなんてあり得ない。じゃあ、『ヘンゼルとグレーテル』は、大人にとって、つまらないのか?いやいやいや... 楽しく、易しいメロディーを支えるオーケストラ・サウンドが、思い掛けなく、凄い!グイグイ、惹き込まれてしまう。
1854年、ドイツ、ケルン近郊のジークブルクで生まれたフンパーディンク(1854-1921)。ケルン音楽院で学び、その後、奨学金を得てイタリアに渡ると、ナポリ滞在中のワーグナーと知り合い、バイロイトで『パルジファル』の初演の準備に参加(1880-81)。この、ワーグナーの音楽に直に触れた経験が、フンパーディンクの作品に、ワーグナーの音楽DNAを注入。ワーグナー風に終わるのではなく、その語法をしっかり咀嚼し、自らのものとしたフンパーディンクの音楽は、ワーグナーの影響下にある他の作曲家とは一線を画す本物感があるように思うのだけれど... で、『ヘンゼルとグレーテル』(1893)。まず、序曲からして、堂に入っている。それは、ドイツ・オペラ切っての名序曲と言っても過言でないはず... 始まりのホルンの吹奏は、ドイツ・オペラの伝統を感じさせつつ、やがてスケールの大きなロマンティシズムに包まれて、ワーグナーを受け継ぐ音楽というものを強く印象付けられる。そうして、幕が上がれば、民謡なども引用したキャッチーなメロディーを、豊かなオーケストレーションで支え、瑞々しい情景を描き上げる。すると、グリム童話のメルヘンが、童話という枠を越えて息衝き出し、より深く惹き込まれ... このあたりに、フンパーディンクの確かな技量と鋭い感性を見出し、感心してしまう。
特に、序曲をはじめとする管弦楽曲の充実は、オペラから独立させてもいいくらい!1幕と2幕の間奏曲、魔女の飛行(disc.1, track.11)は、ローゲでも出て来そうな音楽(『ヴァルキューレ』、3幕の魔の炎の音楽に似ているような... )で、ミステリアスにしてスペクタクル。2幕の終わり、夢のパントマイム(disc.1, track.17)は、まさに夢見るようにファンタジックで、イマジネーションは膨らみ、童話であることを忘れるほどの雄弁さ(どこか、ジークフリートのラインの旅を思わせる?)。一方、魔女をやっつけてのお菓子のワルツ(disc.2, track.13)の豪快さは、ティル・オイレンシュピーゲルやオックス男爵のワルツの気分を先取って、リヒャルト・シュトラウスのよう... ワーグナーに留まるのではなく、そこから先をも見据えるか。ワーグナーを受け継ぎながらも、メルヘンというワーグナーとは違う方向性を示し、ワーグナーの陶酔的な世界に陥らず、十分に豊かなオーケストラ・サウンドを実現するバランス感覚は、なかなか凄いことだと思う。侮れ難し、フンパーディンク!
そんなフンパーディンクを、活き活きと聴かせてくれる、ラニクルズ、バイエルン放送響。まず以って手堅い布陣なのだけれど、その安定感から繰り出される瑞々しさには、大いに魅了されるばかり。無理のない、ラニクルズらしい音楽運びと、ドイツのオーケストラなればこその、しっかりとしたサウンドが相俟って、フンパーディンクの魅力はさらに輝くようで... いや、改めてその魅力に驚かされたり... そこに、表情豊かな歌手たちのすばらしいパフォーマンスが乗っかって、音楽的な充実と、童話の楽しさが、いい具合にハーモニーとなり、聴く者をやさしく包み込む。この感覚、ちょっと他では味わえないかも。だからこそ、クリスマス?楽しさと、壮麗さとが、器用に結ばれて、最後はハッピーな心地にさせてくれる。

HUMPERDINCK
Hänsel und Gretel
Larmore ・ Ziesak ・ Behrens ・ Weikl ・ Schwarz
RUNNICLES

フンパーディンク : オペラ 『ヘンゼルとグレーテル』

ペーター : ベルント・ヴァイクル(バリトン)
ゲルトルート : ヒルデガルト・ベーレンス(ソプラノ)
ヘンゼル : ジェニファー・ラーモア(メッゾ・ソプラノ)
グレーテル : ルート・ツィーザク(ソプラノ)
魔女 : ハンナ・シュヴァルツ(メッゾ・ソプラノ)
眠りの精 : ローズマリー・ジョシュア(ソプラノ)
露の精 : クリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)
テルツ少年合唱団

ドナルド・ラニクルズ/バイエルン放送交響楽団

TELDEC/4509-94549-2




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。