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文学を交響曲というフォーマットで読む。ダンテ交響曲... [before 2005]

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第九の季節に、第九のこどもたちを聴く?そんな展開なのか... 声楽を伴う交響曲を聴いて来ております。それにしても、作曲家それぞれに声楽の扱い方の度合いがあって、興味深い。声を交響楽の素材として扱う、交響楽そっちのけで歌ってしまう、交響楽な部分と歌の部分を組み合わせてハイブリットな交響曲を生み出す... そこには、本来、掟破りだからこそ、何でもできてしまうおもしろさがあるのかも。マーラーやショスタコーヴィチの交響曲を改めて振り返ると、より自由に、番号ごとに、声を用いていることに、感心してしまう。いや、最もカッチリとした、時に厳めしい「交響曲」という形に声を持ち込むことで、作曲家たちは、ある種の自由を得るのかもしれない。場合によっては、逃げ場所となる?声楽を伴う交響曲の存在を見つめ直すと、なかなかおもしろい。
さて、クレルヴォ交響曲合唱交響曲「鐘」に続いて、またまた個性的な作品を取り上げてみる。レオン・ボットスタインの指揮、ロンドン交響楽団の演奏、ロンドン・オラトリー・スクール・スコラの合唱で、リストのダンテ交響曲(TELARC/CD-80613)を聴く。

リストというと、極めて19世紀的な、華麗なるヴィルトゥオーゾのイメージが強いのだけれど、作曲家として改めて見つめると、また違った印象を受けるように思う。その作品の多くが、文学にインスパイアされ、泰西名画のような重厚さとドラマティックさを持ち、ちょっと仰々しい?いや、そうしたあたりも、極めて19世紀的なのだけれど... という、リストの作風に影響を与えたひとり、作家としても活動していた、マリー・ダグー伯爵夫人(1805-76)。リストの愛人にして、後にワーグナーの妻となるコジマの母なのだが、文学と音楽の愛人関係というのが、何か、19世紀の文化を象徴しているようで、興味深い。憧れに似た感情すら見受けられる、ロマン主義の音楽の、文学への眼差し... そのインスパアされっぷりは、ある種、愛であったように感じる。ならば、リストの作品ほどロマン主義を体現している音楽は無いのかもしれない。そして、そのリストが、愛する人に薦められて読んだ、イタリア・ルネサンスの詩人、ダンテ(1265-1321)。その代表作、『神曲』にすっかり魅了されたリストは、『神曲』の壮大なる世界を交響曲として響かせようと構想を練り、やがて、ダンテ交響曲(track.1, 2)を完成させる。
大作、『神曲』の、地獄篇と煉獄篇を題材に、2つの楽章からなる交響曲を編んだリスト。いやー、ゴジラでも始まりそうな、トロンボーンとテューバの物々しい吹奏で幕を開ける1楽章、地獄。風雲急を告げるようなドラマティックな音楽が続き、地獄の苛烈な環境が描き出されるのか、嵐の只中に放り込まれたような感覚を味わう。が、そこに、幻を見るような、ミステリアスで美しい音楽が立ち現れ... 『神曲』の登場人物、悲恋の果てに殺されたフランチェスカ・ダ・リミニを描く中間部は、地獄に在って、夢見るようで、芳しく、魅了されるのも束の間、また地獄の恐ろしい形相に呑み込まれて、1楽章が閉じられる。そこから、一転、穏やかな表情を見せる、2楽章、煉獄(track.2)。天国にも地獄にも行けない迷える魂が漂う煉獄の、厭世的な気分が何とも言えず... もどかしいような、居心地の良いような、不思議な音楽が織り成される中、その最後で、天国から美しい声が降って来る。地獄篇、煉獄篇、そして天国篇からなるダンテの『神曲』だが、リストはワーグナーの忠告を入れ、天国を音楽で描くことをやめる代わりに、少年合唱(ないし、女声コーラス)が歌うマニフィカトを2楽章の後半に挿み、煉獄から天国を見上げる、という形で、天国篇をカヴァー。そうして響く、少年合唱のピュアな表情は、まさにヘヴンリー!天国の光がこぼれて落ちて来るよう。どうもリストの管弦楽作品というのは、劇画調で、場合によっては、ヤリ過ぎ感もあるのだけれど(ま、そこがツボなんだが... )、ダンテ交響曲は、やわらかな天国の光に包まれて、静かに終えるのが絶妙。地獄の激しさも、フランチェスカの恋情も、やがて浄化され、天国へ導かれるような最後は、印象的。
という、ダンテ交響曲の後で、やはりイタリア・ルネサンスの詩人、タッソ(1544-95)の人生を綴る交響詩「タッソ、悲嘆と勝利」(track.3)が取り上げられるのだけれど、こちらは、リストらしい華やかさと見栄を切るような音楽を展開して、その解り易いロマンティシズムにグっと来てしまう。特に、最後... 生前は評価されなかったタッソが、その死後に賞賛される勝利!この胸空く締め括りは、リストならでは... で、これは、ある種のルサンチマン?リストの管弦楽作品には、何か、実社会で成し遂げられなかったものを、オーケストラの大音響に乗せて、晴らすようなところがあって、気になる。いや、ロマン主義というもの自体が、挫折を基盤としているようにも感じられて。華麗なる19世紀のイメージの裏にある無念が、この作品に籠められているのかも...
という、古典文学からリストを捉えたボットスタイン。イタリア・ルネサンスでまとめるという、このマエストロらしい、マニアックさ。そこにしっかりとした説得力を持たせ、丁寧に音楽を紡ぎ出すあたりは、さすが... さらに、ロンドン響ならではのスタイリッシュさが作用して、リストのケレン味をすっきりと鳴らし切り、瑞々しいサウンドを生み出す妙。イタリアの明朗さ、古典文学の風雅さが思い掛けなく活き、ロマンティックでありながら、リストにして、どこかクラシカルな表情を見せるのがおもしろい。そうして浮かび上がる、リストの真実?文学への深い敬意と、芸術に対する真摯さに、静かな感動を覚える。

LISZT: DANTE SYMPHONY / TASSO
BOTSTEIN / LONDON SYMPHONY ORCHESTRA


リスト : ダンテ交響曲 S.109 *
リスト : 交響詩 「タッソ、悲嘆と勝利」 S.96

レオン・ボットスタイン/ロンドン交響楽団
ロンドン・オラトリー・スクール・スコラ(少年合唱) *

TELARC/CD-80613




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