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ラフマニノフ、人生を綴る鐘の音。 [before 2005]

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さて、着々と年末感が高まっております。でもって、クラシックの世界は、第九まみれに... そうした中、第九に代わる作品はないかと、フラフラしている今月なのでありますが、第九に代わる作品なんて、そうあるもんじゃないなと、つくづく思う今日この頃。やっぱり、第九は、希代の作品なんだわ。交響曲として、けしてブリリアントとは言えない仕上がりではあっても、ブリリアントでないからこそ、底知れぬ懐の大きさを実現し得るマジカルさ... オー・フロインデと呼び掛けるところからして、もうね、ズルい気がしてしまう。けど、第九に留まっているばかりでは進歩が無い、突き進むよ!ということで、声楽を伴う交響曲シリーズ(って、いつの間にかシリーズ化... )、シベリウスに続いての、ラフマニノフ。は、もはや、「伴う」ではなく、ズバリ、合唱交響曲!
ウラディーミル・アシュケナージの指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏、プラハ・フィルハーモニー合唱団らによる歌で、ラフマニノフの合唱交響曲「鐘」を中心に、ラフマニノフの珍しい声楽作品を集めた1枚(EXTON/OVCL 00087)を聴く。

交響曲に「合唱付き」という大胆な飛躍をもたらした第九(1824)だが、それから1世紀を経て、ラフマニノフが生み出したのは、もはや「合唱付き」なのではなく、合唱そのもの、"合唱交響曲"(1913)。いや、声楽を伴う交響曲を探っていると、おもしろい作品にいろいろ出くわして飽きさせない。第九自体がそうであるように、本来、相容れない交響曲と声楽を強引に結び付けることで、思い掛けない飛躍が生まれるのは、何だか科学実験のよう。前回、聴いた、クレルヴォ交響曲が、楽劇のようなドラマティックさを放ったように、声楽が加わることで、おもしろ味はグっと増すのか... で、ここで聴く、合唱交響曲「鐘」(track.5-8)が、まさにそうした作品。第1次大戦(1914-18)が目前となり、ロシア革命(1917)が迫る中、ラフマニノフにとっては束の間の安らぎとなっただろう、1913年のローマ滞在中に作曲されたこの作品。イタリア的、とまでは言えなくとも、何か朗らかなものに包まれて、カラフル。交響曲らしく、4つの楽章からなるも、合唱のみならず、ソプラノ、テノール、バリトンという3人のソロも加わり、交響曲のイメージを越えた音楽を展開。で、歌われるテキストは、エドガー・アラン・ポーによる鐘をモチーフとした詩(ロシアの象徴主義の詩人、バリモントによるロシア語訳... )を用い、4つの楽章、それぞれにおける鐘が、象徴的に、人生のそれぞれの場面を彩るという、なかなか凝った仕上がり。で、結構、年末感あり...
その始まり、1楽章(track.5)は、こども時代の鐘。いや、鐘というより、鈴なのだけれど、ソリの鈴が楽しげに響くあたりは、ちょっとクリスマスっぽく、今の季節にぴったり!続く、2楽章(track.6)は、婚礼の鐘。ソプラノの官能的ですらあるロマンティックな歌が盛り上がる中、やがて、厳かなコーラスが聴こえて来て、その後ろで、教会の鐘だろうか、静かに鳴り響く。そして、3楽章(track.7)は、警鐘... すでに、革命へと向かう緊張感を孕んでいた帝政末期のロシアの姿を浮かび上がらせるような力強い音楽が繰り広げられ、パワフルでエモーショナル!プロコフィエフの『アレクサンドル・ネフスキー』の氷上の戦いを思わせる激しさに、グイっと惹き込まれる(ラフマニノフも、こんな風に荒ぶるんだァ... )。で、終楽章(track.8)は、弔いの鐘。ゴォォン、ゴォォンと、沈鬱な鐘が響くところに、バリトンの歌に導かれ、重々しいコーラスが続く。それは、弔いでありながら、どこか最後の審判のような雰囲気も漂い、時折、ディエス・イレが聴こえたりと、オカルティック?この作品の象徴主義からの影響を強く感じ、興味深い。が、最後は、ラフマニノフらしいロマンティックさに包まれ、美しい追憶の内に終わる。
さて、ラフマニノフというと、ピアノのイメージが強い(亡命後、ピアニストとして活躍したことが大きいのか... )。が、思いの外、オールマイティな作曲家でもある。オペラに、教会音楽に、室内楽、もちろん交響曲もあって、隙が無い。しかし、そうした姿は、なかなか伝わり難い... というところに、風穴を開けたかったか、アシュケナージ... このアルバムでは、合唱交響曲「鐘」に留まらず、ラフマニノフの合唱のための作品を、広がりを以って取り上げる。3つのロシアの歌(track.1-3)、カンタータ「春」(track.4)という、オーケストラ伴奏による作品に、アシュケナージのピアノ伴奏で、6つの合唱曲(track.9-14)も取り上げられ、ピアノばかりではない、ラフマニノフの歌の魅力を丁寧に押さえるのが好印象。何より、ピアノ作品の華麗さとは一味違う、ロシアの大地に根差した息衝くサウンドがとても魅力的で、ピアノばかりでないラフマニノフを、しっかりと堪能させてくれる。
という、アシュケナージの思いが伝わる好演は、チェコ・フィル(録音時、2002年は、アシュケナージが首席指揮者を務めていた... )に、プラハ・フィルハーモニー合唱団と、ロシアではなく、チェコによるところがおもしろい。で、ロシアの外から捉えることで、力まずに、ラフマニノフの魅力がナチュラルに引き出されるようで... チェコ・フィルならではの手堅さが、しっかりとしたラフマニノフ像を構築しつつ、彩りの鮮やかなサウンドが、ロシアのファンタジックな世界を息衝かせ、魅了される。そして、プラハ・フィルハーモニー合唱団の丁寧なハーモニーが、ラフマニノフの合唱の魅力を鮮やかに響かせて、すばらしく。一方、ソリストには、ロシアのベテランが起用され、レヴィンスキー(テノール)の伸びやかさ、レイフェルクス(バリトン)の雄弁さは、見事。そして、全てが相俟って、ラフマニノフの声楽作品の再発見を促してくれる。

ラフマニノフ : 3つのロシアの歌/カンタータ「春」/合唱交響曲「鐘」/6つの合唱曲
ウラディーミル・アシュケナージ(指揮) チェコ・フィルハーモニー管弦楽団


ラフマニノフ : 3つのロシアの歌 Op.41
ラフマニノフ : カンタータ 「春」 Op.20 *
ラフマニノフ : 合唱交響曲 「鐘」 Op.35 ***
ラフマニノフ : 6つの合唱曲 Op.15

ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
マリーナ・シャーグチ(ソプラノ) *
イリヤ・レヴィンスキー(テノール) *
セルゲイ・レイフェルクス(バリトン) *
プラハ・フィルハーモニー合唱団

EXTON/OVCL 00087




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