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シベリウス、青春が迸る英雄譚。 [before 2005]

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さて、年末、第九ばかりじゃ、飽きてしまう?そこで、何か他に年末なレパートリーはないかと探っている今月... 前々回、何でもありのごった煮的な音楽に、何はともあれ大団円な『魔笛』はどうかなと、取り上げてみたのだけれど、今回は、第九の「合唱付き」という形に立ち返って、声楽を伴う交響曲に注目してみる。で、注目して、つくづく感じるのが、コロンブスの卵というか、掟破りそのものであった第九という存在。交響曲という純音楽=抽象の世界に、詩=具体的なイメージが持ち込まれるという矛盾を生み出したその存在は、正直、もどかしい。けれど、シンフォニックな上に、コーラスだ、ソロだと、大いに盛り上がるところは、まさに年末!ベートーヴェン、晩年における、このブッチャケ感は、楽聖の懐の大きさ、そのものかもしれない。でもって、そんなベートーヴェンを受け継ぐ作品は、思いの外、いろいろありまして... という、声楽を伴う交響曲のひとつ...
今年、というより、昨日、12月8日、生誕150年を迎えたシベリウスの作品から、エサ・ペッカ・サロネンが率いたロスアンジェルス・フィルハーモニックの演奏、ヘルシンキ大学合唱団、マリアンナ・ロールホルム(ソプラノ)、ヨルマ・ヒュンニネン(バリトン)のソロで、シベリウスのクレルヴォ交響曲(SONY CLASSICAL/SK 52563)を聴いて、メモリアル・イヤーを祝う!

1889年、ヘルシンキ音楽院(現在はシベリウス・アカデミー... )を卒業したシベリウスは、ベルリン、そして、ウィーンへと留学。ドイツ―オーストリアという、19世紀の音楽のメインストリームの只中で、ロマン主義を吸収しつつ、フィンランドの古来の文化をも見つめ直す機会を得て、その個性を醸成してゆく。という、2年の留学を経て、生み出されたのが、帰国の翌年、1892年に初演された、ここで聴く、クレルヴォ交響曲。フィランドの叙事詩、『カレワラ』から、英雄、クレルヴォの物語を題材に、ソプラノ、バリトンのソロ、男声コーラスを大胆に用い、5つの楽章からなる交響曲を織り成す。となると、交響曲とはいうよりは、オラトリオのようであり、場合によっては、オペラにすら聴こえる楽章も... そうした性格もあり、7番まであるシベリウスの交響曲には数えられない。そういう点で、習作的な作品とも言えるのかもしれない。何より、愛国的な題材、英雄譚、男声コーラスの大活躍と、若い!シベリウス、26歳の時の作品... 26歳だからこその向こう見ずさ、後の交響曲の洗練とは一線を画す大胆さが生む、躍動的なドラマは、「若さ」あってこそであり、「若さ」なればこその輝きが眩しい!
という1楽章、導入部... ウィーンで、ブルックナーの3番の交響曲の演奏に触れ、大いに刺激を受けたシベリウス青年。とのことだが、そのあたりが素直に音楽として表現されており、その素直さが、ちょっと微笑ましくもあり... もちろん、すでにシベリウスらしさは感じられ、フィンランドのフォークロワもそこはかとなしに香り、『カレワラ』の神秘的な世界へと、聴き手を誘う。続く、2楽章、クレルヴォの青春(track.2)では、よりシベリウスらしいと言うべきか、フィンランドの自然を思わせる牧歌的な情景が広がり... 一方で、クレルヴォの悲運を予感させるのか、どこか仄暗くも展開しつつ、ウィーン仕込み?世紀末的なロマンティシズムが湧き上がるところもあって、後のシベリウスとは一味違う魅力も放つ。そこに、この交響曲を特徴付ける、歌が登場...
3楽章、クレルヴォと彼の妹(track.3)では、朴訥とした男声コーラスが歌い出し、ギリシア悲劇のコロスのように、クレルヴォとその妹の出会いについて語る。続いて、クレルヴォと妹が登場。まるでオペラのようなやり取りがなされ... いや、これはすでに楽劇... 叙事詩の雄大な世界観を響かせつつ、兄妹であることに気付かず、男女が結ばれるという禁忌が犯される劇的な展開!って、ジークムントとジークリンデか?そもそも、クレルヴォの存在が、ジークフリートに似ており、ワーグナーの『リング』に重なってしまう。いや、この作品、交響曲ではなく、楽劇でも良かったのでは?3楽章の最後、兄妹であることを知ったクレルヴォの狼狽を歌う力強いメロディーなど、アリアでないことがもったいない。どこか映像的な瑞々しさを見せる4楽章、戦いに赴くクレルヴォ(track.4)を挿んで、最後、終楽章、クレルヴォの死(track.5)では、再び男声コーラスが登場。その後の顛末が語られるのだけれど、それは、シュプレッヒ・ゲザング(話すように歌う... )のようで、より力強いイメージを作り出す。そして、オーケストラによる、ワーグナーを思わせるダイナミックな音楽で盛り上げて、クレルヴォの葬送が描き出されるフィナーレ... いやー、交響曲であることを忘れてしまうドラマティックさ!圧倒される。
という、クレルヴォ交響曲を、シベリウス・アカデミーの卒業生(つまり、シベリウスの後輩... )、サロネンと、ロスアンジェルス・フィルの演奏で聴くのだけれど、いい意味で、彼らのイメージを裏切るのか... 近現代を得意とするマエストロの明晰なアプローチ、アメリカのオーケストラの明るく晴れやかなテイストを越えて、よりエモーショナルに、それでいて仄暗い物語の気分を丁寧に綴り、鮮烈にして重みのある音楽を聴かせる。そこに、ヘルシンキ大学男声合唱団の、勇壮なコーラス!シベリウスの多くの合唱作品を初演した歴史を持つ、名門だけに、揺ぎ無いものが感じられ、さらに、真っ直ぐな歌声が印象深く... クレルヴォの物語を表現するには、これ以上ないのかも。そして、クレルヴォを歌うヒュンニネン(バリトン)、その妹を歌うロールホルム(ソプラノ)の2人も瑞々しく、全てが相俟って、叙事詩の世界は見事に息衝く!

SIBELIUS: KULLERVO ・ ESA-PEKKA SALONEN

シベリウス : クレルヴォ交響曲 Op.7

マリアンナ・ロールホルム(ソプラノ)
ヨルマ・ヒュンニネン(バリトン)
ヘルシンキ大学男声合唱団
エサ・ペッカ・サロネン/ロスアンジェルス・フィルハーモニック

SONY CLASSICAL/SK 52563




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コメント 1

サンフランシスコ人

サンフランシスコ交響楽団の次の音楽監督....

http://www.sfcv.org/music-news/san-francisco-symphony-announces-new-music-director-and-eight-creative-advisors

エサ=ペッカ・サロネンに決定....
by サンフランシスコ人 (2018-12-07 07:15) 

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