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モーツァルト、最期の年、人間味に溢れる『魔笛』。 [before 2005]

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さて、12月です。2015年も、残すところ、あと、ひと月... となると、第九の季節です。しかし、年の瀬に、第九を持って来た日本人のセンスというのは、まったく以って、見事だなと、つくづく感じてしまう。逆を言うならば、クラシックのレパートリーで、これほど日本人の感性を捉えた音楽は、他に無いのかもしれない... 日本特有の年末感と、第九の相性を改めて考えてみると、なかなか興味深い。一方で、第九ばかりじゃ、飽きてしまう?そこで、年末のクラシックに、あと少し幅をもたせるレパートリーがあったなら... そんなレパートリーを探して、いろいろ聴いてみようかなと。いろいろ聴いて、年末感を盛り上げてみようかなと。で、第1弾、『魔笛』!
ジョン・エリオット・ガーディナー率いる、イングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏、モンテヴェルディ合唱団のコーラス、ミヒャエル・シャーデ(テノール)、ジェラルド・フィンリー(バリトン)らによる、モーツァルトのオペラ『魔笛』(ARCHIV/449 166-2)を聴く。

モーツァルトの最後のオペラ、『魔笛』を、久々にじっくりと聴いてみると、モーツァルトの迷走っぷりに、ちょっと驚かされる。そういうオペラだという認識はこれまでもあったけれど、改めて聴いてみると、余計に感じるのか... まるで、こども向けのようなやさしいメロディーに彩られるかと思えば、夜の女王のアリア(disc.2, track.8)のように、アクロバティックなコロラトゥーラが繰り出される。それでいて、それぞれの幕切れでは壮麗なコーラスが歌われて、ひとつのオペラの中に、あらゆる種類の音楽が混在するかのよう... 何より、そのストーリーだ。救出劇だと思って聴き進めれば、次第に儀式めいて、善と悪は入れ替わり、何が何だかわからん内に、恋人たちは結ばれ、感動的な大団円。全曲を聴き終えて、一呼吸置いてから振り返ると、狐に抓まれたような感覚にもなる。1791年、モーツァルトは、死の9ヶ月前、『魔笛』の作曲を始めるのだが、その最中、プラハから、ハプスブルク家の新しい皇帝の即位を祝うためのオペラ、『ティートの慈悲』の委嘱を受け、想定外の多忙に陥る。そういう混乱の中で生まれた『魔笛』には、モーツァルトの最期の年の錯綜がそのまま反映されているように感じられ、またそこには、モーツァルトの人生そのものが反映されているようにも思え、どこか切なくて、感慨深い。
という『魔笛』、ファンタジックな序曲を聴いていると、こどもの頃のワクワクした心地が蘇り... 幕が上がれば、タミーノに怪獣が襲い掛かろうとしていて(disc.1, track.2)、のっけからテンションは高め。が、怪獣はあっさり倒されて、お調子者のパパゲーノが登場。改めて聴いてみると、パパゲーノが歌うメロディーというのは、どれもキャッチーで、フム・フム・フム(disc.1, track.10)や、パ・パ・パ(disc.2, track.27)なんて、こどもたちが聴いたら大喜びのはず... で、パパゲーノの歌ではないのだけれど、モノスタトスたちが歌うナンバー(disc.1, track.16)を基にした、「魔法の鈴」という、こども用にアレンジされた歌の存在を、つい先日、知り、『魔笛』の懐の大きさに、今さらながら脱帽。いや、最後のオペラにして、こうもやさしい音楽へと還って行ったモーツァルトの心境とは、どんなものだったのだろう?一方で、ナポリ楽派に負けない華麗さを放つ夜の女王の2つのアリア(disc.1, track.8/disc.2, track.8)があって、ベートーヴェンを思わせる力強い幕切れのコーラス(disc.1, track.18/disc.2, track.28)があって、タミーノのアリア、「何と美しい絵姿だろう」(disc.1, track.6)のリリカルさ、ザラストロのアリア、「この聖なる聖堂には」(disc.2, track.10)の荘重さには、ロマン主義を予感し... で、このごった煮感が、『魔笛』の魅力かなと... モーツァルトの最後のオペラにして、この取っ散らかり様... いや、このあたりに、モーツァルトの不器用な人生が重なり、『魔笛』の全ての瞬間に、愛おしさすら感じてしまう。
で、そのごった煮を際立たせるような、ガーディナー+イングリッシュ・バロック・ソロイスツ。彼らならではの、モーツァルトの音符をひとつも疎かにすることの無い生真面目さと、そうありながら、活き活きとした表情を紡ぎ出す巧みさ... いやー、見事!そうして、多忙を極める中、取っ散らかった音楽を展開してしまうモーツァルトの真実が炙り出され... だからこそ、『魔笛』に生まれる思わぬ人間味が強調され、共感を誘うのか。そして、シャーデ(テノール)の明朗な歌声が鮮やかにはまるタミーノ、表情豊かなフィンリー(バリトン)による人間味に溢れるパパゲーノ、超然としながらも華々しいジーデン(ソプラノ)が歌う夜の女王と、粒揃いの歌手たちによるパフォーマンスは、どれもすばらしく... そこに、クリアなモンテヴェルディ合唱団によるコーラスが盛り上げて、ダイナミックさと感動を引き出す。すると、『魔笛』から年末感が感じられ... そんな音楽に触れていると、勇気付けられもし... 何だか、いい年を越せそうな気がして来る。

MOZART
Die Zauberflöte
JOHN ELIOT GARDINER


モーツァルト : オペラ 『魔笛』 K.620

ザラストロ : ハーリー・ピータース(バス)
夜の女王 : シンディア・ジーデン(ソプラノ)
パミーナ : クリスティアーネ・エルツェ(ソプラノ)
タミーノ : ミヒャエル・シャーデ(テノール)
パパゲーノ : ジェラルド・フィンリー(バリトン)
パパゲーナ : コンスタンツェ・バッケス(ソプラノ)
弁者 : デートレフ・ロート(バス)
モノスタトス : ウーヴェ・ペパー(テノール)
夜の女王の第1の侍女 : スーザン・ロバーツ(ソプラノ)
夜の女王の第2の侍女 : カローラ・グーバー(メッゾ・ソプラノ)
夜の女王の第3の侍女 : マリア・ジョナス(アルト)
第1の童子 : アンドレアス・ディートリヒ(ソプラノ)
第2の童子 : ヤン・アンドレアス・メンデル(ソプラノ)
第3の童子 : フローリアン・ヴェラー(ソプラノ)
モンテヴェルディ合唱団

ジョン・エリオット・ガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

ARCHIV/449 166-2




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