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音楽の父の、温もりに充ちた、はなむけの歌。 [before 2005]

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あぁ、11月が終わってしまう。勢い、2015年も終わってしまいそうで、ちょっと焦りつつ、感傷的にもなる。もちろん、師走が残っているものの、もうゆく年を思うような... そんな11月、最後の日曜、従妹の結婚式へ... ウーン、何だろう、めでたいのだけれど、新婦側、送り出す寂しさもあり、どこか感傷的(新婦の父は涙... )。てか、これこそが門出の初々しさか... どこか不安な心持もありながら、今、まさに新たな人生の一歩が踏み出されるという感動。振り返れば、人生のあらゆる場面が、この初々しさに彩られていた気もする。いや、人が生きて行くとは、こういうことなんだなと、今さらながら、嫁ぐ従妹の後ろ姿に教えられたような... そうかぁ... そうなんだなぁ... 結婚式ばかりでなく、人生にまつわる、あらゆるセレヴレイションを、今一度、見つめ直したくなる。
ということで、久々に結婚カンタータを引っ張り出してみた。クリティーネ・シェーファーのソプラノで、ラインハルト・ゲーベル率いるムジカ・アンティクァ・ケルンの演奏による、バッハの結婚カンタータ(Deutsche Grammophon/459 621-2)を聴く。

東アジアを巡り、近現代の作品が続いた後でのバッハ... ウーン、やっぱり、還って来たなという感じがして、ほっとする。いや、東アジアの作品がつまらないとか、現代音楽は聴き難いとか、そういうことではなくて、東アジア、近現代という、バッハから彼方にある音楽を聴いたからこそ、バッハという存在を改めてじっくりと味わえるのか... そもそも、東アジアだって、近現代だって、みなバッハのこどもたち。だからこそ、音楽の父には、揺ぎ無く安心感があって... さらには、結婚カンタータという、ハッピーな音楽を聴く喜びも!ということで、シェーファーが歌うのは、バッハの2つの結婚カンタータ、210番、「おお佳き日、待ち望んだ時」(track.1-10)と、202番、「しりぞけ、もの悲しき影」(track.11-19)。そして、教会カンタータから、51番、「全地よ、神にむかいて歓呼せよ」(track.20-24)という、ソプラノ・ソロのためのカンタータ、3曲。ソプラノの明るい声によるカンタータは、バッハにしてやわらかで、花々しく、芳しく、これから、冬、本番を迎えることを忘れそうな雰囲気で包む。
そんな、1曲目、210番、「おお佳き日、待ち望んだ時」(track.1-10)。始まりの、やわらかにして鮮やかなレチタティーヴォ・アッコンパニャートから惹き込まれる!いや、なかなかドラマティック... とはいえ、そこはバッハ、イタリアのバロック・オペラとは一線を画す、実直さに裏打ちされて、味わい深くもあり、何とも印象的な幕開け。続く、ほのぼのとしたアリア(track.2)の穏やかなメロディー... 派手に飾ることはなくとも、佳き日をふんわりと表現して来る妙。ちょっと切ないトーンも過る瞬間もあって、それがまた新郎新婦の初々しさを見せるようであり、何とも愛おしい。単にめでたいばかりでない、新たな門出をやさしく送り出すような等身大の音楽は、まさにバッハだなと... 2曲目、202番、「しりぞけ、もの悲しき影」(track.11-19)の始まりは、まるでヴァージン・ロードを花嫁とその父がしずしずと進む情景が浮かび、映画のワン・シーンを思わせるかのよう。期待と緊張が綾なす静かな音楽の中に、オーボエが歌い出し、ふわーっと光が差し込むも、ソプラノが歌うメロディーは、どこか不安げで... この甘酸っぱさが、まさに結婚式だなと、しみじみしてしまう。そこからの、愛らしいアリアの数々!
バッハの音楽は、時として宇宙を思わせる壮大さを感じる一方で、どの作曲家よりも、人々の心の機微に寄り添うようなところがある。そして、結婚カンタータには、よりそうしたものが感じられるのか... 同時代の、大きな宮廷に仕えたバロックの巨匠たちとは違う、ローカルな存在であったバッハなればこその音楽というのか、宮廷での華麗なるロイヤル・ウェディングのために書かれた作品ではない、おそらくバッハの親しい人たちの結婚式のために書かれた結婚カンタータなればこその、得も言えぬ親密さ... 新郎新婦を温もりで包むようなその音楽は、結婚式の定番(って、一昔前の定番?)、メンデルスゾーンの結婚行進曲の華麗さ、ローエングリンの婚礼の合唱の賑々しさこそ無いものの、真心からの祝福を感じ、滲み出るような感動を引き出す。
そこから、一転、華麗なる教会カンタータ、51番、「全地よ、神にむかいて歓呼せよ」(track.20-24)!いやー、こういうゴージャスなサウンドもバッハなのだなと、久々に聴くと、目が覚める思いがする。何より、バッハという作曲家が持つ幅に、改めて、感服。規模が大きくなったオーケストラを華麗に鳴らし切り、ソプラノはイタリアのバロック・オペラを彷彿とさせるコロラトゥーラを繰り出し、パワフルですらある。おもしろいのは、これほど豪奢でありながら、ソプラノのソロ・カンタータであること... たったひとりのソプラノだけで、これだけ聴き応えのある音楽を展開して来るバッハの底力が凄い。何より、その輝かしさに魅了される!
という、3つのソプラノ・ソロのためのカンタータを聴かせてくれた、シェーファー。愛らしさと品性を兼ね備え、艶やかさも孕む、しっかりとした歌声は、見事。表情豊かなレチタティーヴォ、それぞれに魅力的なアリア、威厳に充ちたコラールと、器用に歌いこなし、バッハの幅を丁寧に引き出す。そして、ゲーベル+ムジカ・アンティクァ・ケルンの、活き活きとした演奏!結婚カンタータでの親密さから、51番の豪奢さまで、瑞々しく、鮮やかに響かせて、聴き入るばかり。彼らならではの息衝くサウンドに触れていると、バッハがまるで、今、生きているようにすら感じられるから、凄い。遠い昔の音楽であるはずなのに、こうも近くに感じられる、不思議なリアル感... この、時代を超越する感覚こそ、バッハならではか...

J.S.BACH: HOCHZEITSKANTATE, etc.
SCHÄFER/MUSICA ANTIQUA KÖLN/GOEBEL


バッハ : カンタータ 第210番 「おお佳き日、待ち望んだ時」 BWV 210
バッハ : カンタータ 第202番 「しりぞけ、もの悲しき影」 BWV 202
バッハ : カンタータ 第51番 「全地よ、神にむかいて歓呼せよ」 BWV 51

クリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)
ラインハルト・ゲーベル/ムジカ・アンティクァ・ケルン

Deutsche Grammophon/459 621-2




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