SSブログ

日本、音、絶景、弦楽四重奏で巡って... [before 2005]

WPCS10426.jpg
クラシックにおける東アジアを聴いて来た今月... オリエンタリズムを越えて、実際にアジアを旅し、自らの感性でアジアを響かせた欧米の作曲家たち。西洋音楽を受け入れた東アジアから、欧米へと渡り、最新の音楽を学びつつ、自らの音楽を摸索した日本、中国の作曲家たち。かつてはあり得なかった、作曲家たちの、大陸、大洋をものともしない移動が、新たな音楽を生み出すケミストリー... アジアと欧米の距離を一気に縮めた20世紀の交通革命は、音楽にも大きな影響を与えたわけだ。改めて、音楽の、その背景にあるものの、存在の大きさを噛み締める。そして、今や、インターネット交響曲(YouTubeシンフォニー・オーケストラのために、タン・ドゥンが作曲した... )の時代。我々を取り巻く世界が、これからの音楽にどう作用して行くのか、興味津々。てか、インターネット交響曲ぐらいで驚きたくないのだよね... もっともっと、先を見据えた音楽を聴いてみたい!
さて、東アジア、まだまだ聴くべき作品はいっぱいあるとは思うのだけれど、この辺で一区切り。で、その最後に、5人の日本の作曲家による弦楽四重奏曲... ロータス・カルテットによる演奏で、"LANDSCAPES"(TELDEC/WPCS-10426)を聴く。

始まりは、矢代秋雄の弦楽四重奏曲(track.1-4)。1955年、コンセルヴァトワールの卒業作品として作曲されたその音楽は、矢代ならではのシャープなモダニズムに裏打ちされ、この後で繰り出される"ゲンダイオンガク"とは一味違う。バルトークを思わせる1楽章に始まり、2楽章(track.2)にはユーモラスな表情が浮かんで、続く、3楽章(track.3)では、映画音楽のようなヴィヴィットさが魅力的で、ブリテンの音楽を思い起こす。そして、終楽章(track.4)の軽やかな音楽は、バルトーク的なアグレッシヴさを見せつつ、フランス仕込みの洒落たモダニズムが薫り、日本離れした音楽が繰り広げられるのか。いや、フローラン・シュミットがこの作品を絶賛したとのことだが、卒業作品なんて安易に呼べない充実度に、脱帽。弦楽四重奏という、ある意味、西洋音楽の極致とも言える編成を、見事に捌き、何ら遜色の無いモダニズムを悠然と響かせる。それどころか、矢代が影響を受けた近代音楽の先達たち(この作品では、バルトークを始め、ヒンデミット、プロコフィエフからの影響を作曲者自身が語っている... )の音楽よりも、さらに洗練された印象すら受けるから凄い。で、こういう極め方が、とても日本的だなと... そして、これこそが矢代芸術だなと... その、磨き抜かれたモダニズムに、感服。
という感じで始まる"LANDSCAPES"。矢代秋雄(1929-76)、武満徹(1930-96)、三善晃(1933-2013)という、戦後に活躍した世代から、戦後生まれの、西村朗(b.1953)、細川俊夫(b.1955)という、まさに今活躍している現役世代まで、弦楽四重奏で戦後の日本の音楽を追う。となると、矢代の後は、ズバリ、難解な"ゲンダイオンガク"。取っ付き難い?ま、それを否定はしないのだけれど、単に取っ付き難いばかりではない、そこはかとなしにこぼれ出す詩情が、思い掛けなく魅力的でもあって... 武満(track.8)、細川(track.7)の同名の作品、ランドスケープIから採られているタイトル、"LANDSCAPES"にある通り、あるいは、ジャケットにある雪景色そのままに、日本の自然が紡ぎ出す、峻厳で、静謐な風景が、戦後「前衛」以後の抽象によって描き出される。また、抽象だからこそ、よりヴィヴィットな風景が浮かび上がるようでもあり、日本という環境の中で育まれ、紡ぎ出されるサウンドを意識させられるのか... ナショナリティが希薄な現代音楽の世界に在っても、どこかで「日本」が響いて来る?それこそ、旨味のようになって、「日本」が効いて、抽象から味わいが生まれるかのよう。
で、のっけから目が覚めるような鮮烈で聴く者を圧倒する、西村朗の2番の弦楽四重奏曲、「光の波」(track.5, 6)。それは、暗雲から放たれる雷光のようであり、あるいは、山奥で目にしてしまった狐火のようでもあり、仄暗く、おどろおどろしい中に、鋭い弓捌きで生まれるヴィヴィットさは、ジャパン・ホラーに孕む緊張感を思い起こさせる。続く、細川俊夫のランドスケープI(track.7)は、邦楽器を思わせる響きを弦楽器から引き出し、ジャケットの雪景色を思わせる、凍てつくような空気を創り出し、たまらない。続く、武満徹のランドスケープI(track.8)では、雅楽を思わせる色彩が弦楽四重奏から聴こえて来て、そこから紡がれる繊細な表情は、晩秋か、早春か... 細川の峻厳なランドスケープの後で、絶妙なうつろいとなる妙。最後は、コンセルヴァトワールの矢代の後輩にあたる、三善晃の3番の弦楽四重奏曲、「黒の星座」(track.9)。冒頭の艶やかな響きに、矢代同様、フランス仕込みを感じつつ、脱西洋の厳しい表情も加わり、ポエジーと武骨が綾なすおもしろさ...
そんな風景の数々を聴かせてくれた、ロータス・カルテット。いやー、水際立ったすばらしい演奏!弦楽四重奏という、最小限の編成から、ひとつひとつの風景を雄弁に描き上げ、その思い掛けないスケール感に、息を呑むところも... 丁寧かつ、鋭敏なタッチから繰り出される壮大さは、シンフォニックにすら感じられ、圧倒される。それを実現し得る、4人の奏者の見事なバランス。誰かが中心になるのではない、4人の奏者それぞれが、それぞれの音を的確に鳴らし切り生まれる発色の良さ、だからこその明晰さ。これが、まったく以って痛快で、作品、ひとつひとつの魅力を、鮮やかに引き立たせる。すると、"ゲンダイオンガク"にある、ある種の重苦しさは消え、難解を越えて、音そのものが聴き手に飛び込んで来るよう。それは、作品を聴くというより、何か、ヴァーチャルな感覚を喚起し、刺激的。そう、まさに"LANDSCAPES"。5人の作曲家による5つの風景に触れれば、どこか旅するようでもあり、瑞々しい体験をもたらしてくれる。

ランドスケープ ロータス・カルテット

矢代 秋雄 : 弦楽四重奏曲
西村 朗 : 弦楽四重奏曲 第2番 「光の波」
細川 俊夫 : ランドスケープ I 〔弦楽四重奏のための〕
武満 徹 : ランドスケープ I 〔弦楽四重奏のための〕
三善 晃 : 弦楽四重奏曲 第3番 「黒の星座」

ロータス・カルテット
小林 幸子(ヴァイオリン)
茂木立 真紀(ヴァイオリン)
山崎 智子(ヴィオラ)
斎藤 千尋(チェロ)

TELDEC/WPCS-10426




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。