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民族主義が近代主義の扉を開けて、 [before 2005]

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中東欧の国民楽派の音楽を巡る。ということで、チェコ、ハンガリーの音楽を聴いて来て、民族主義によるクラシックにおけるケミストリーに、これまでになく興味を覚えてしまう今日この頃... 単に民族主義に留まるのではなく、民族主義が近代主義の扉を開く鍵となっているのが、おもしろいなと... 西洋音楽史が連綿と紡がれて来て、重く圧し掛かり始めた伝統を、打ち破る手段としてのフォークロワ。民謡収集を経て形作られたバルトークの独特な音楽は、その象徴かなと。洗練を極めた芸術音楽に、プリミティヴが新しい活力を与えるという意外性。音楽史は、行きつ戻りつしながら、より大きな飛躍を獲得して来たのだなと、感慨を覚える。
さて、20世紀に入り、民族主義が近代主義の扉を開けて、国民楽派も新たな次元へ進化した頃の音楽... クリストフ・フォン・ドホナーニが率いたクリーヴランド管弦楽団の演奏で、バルトークの弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽、マルティヌーの弦楽四重奏と管弦楽のための協奏曲、ヤナーチェクのカプリッチョ「挑戦」(DECCA/443 173-2)の3曲を聴く。

ヤナーチェクのカプリッチョ「挑戦」(track.8-11)の初演が1928年、マルティヌーの弦楽四重奏と管弦楽のための協奏曲(track.5-7)の初演が1932年、バルトークの弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽(track.1-4)の初演が1937年... どれも、第1次大戦後の作品となる。つまり、チェコもハンガリーも独立(1918)を果たし、19世紀に始まる民族主義の努力が達成された後の時代となるわけだ。そうした時代に、民族主義から近代主義の扉が開かれたことは、なかなか興味深い。そうして、より深まったフォークロワとアカデミズムの融合... 1曲目、バルトークの弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽(track.1-4)は、特にそのことを強く印象付けられる。ハンガリーに留まらなかったバルトークの民俗音楽研究... この作品では、ガムランの影響も指摘されるわけだけれど、そうしたものも含め、様々な国、地域の素材で織り成されていることを感じつつ、それらがはっきりと元の姿を見せること無く、バルトークによるひとつのヴィジョンの下、しっかりと統合され、近代音楽として、シャープに展開されるのが魅力的。一方で、近代音楽にありがちなバーバリスティックさは影を潜め、洗練された響きを実現し、民族調なのだけれど都会的?フォークロワが見事に昇華されてのスタイリッシュがクール!
続く、マルティヌーの弦楽四重奏と管弦楽のための協奏曲(track.5-7)は、より都会的というべきか... チェコを出て、パリで活躍したマルティヌーならではの、時代の先端を行く擬古典主義に彩られた音楽は、軽やかで、色彩が躍る、楽しげなもの。大都会、パリの明るさと、まだまだ若々しかったモダニスムのポジティヴさをすっかり吸収し、故郷など忘れてしまったかのような音楽を繰り広げるのだが... いやいや、よくよく聴いてみると、そのカラフルさには、マルティヌーが育ったモラヴィア地方特有のトーンを見出すようで、弦楽四重奏が牽引役となって軽やかに刻まれるリズムには、チェコの民俗舞踊が浮かび上がるよう。古典主義に帰り、モダニスムを気取りつつも、フォークロワが息衝くおもしろさ。そして、マルティヌーと同じモラヴィア地方の出身、モラヴィア地方の独特な感性を象徴する存在、ヤナーチェクのカプリッチョ「挑戦」(track.8-11)が最後に取り上げられる。左手ピアノと管楽七重奏による... という奇妙な編成が、ヤナーチェクのモラヴィア色をより強めるのか。飄々と吹かれる金管楽器の鮮やかにして、どこか仄暗いトーンが印象的。そこに、左手のみによるピアノ(第1次大戦で右手を失ったオタカル・ホフマンのために作曲された... )が加わり、時にクラシカルに艶やかに、時に擬古典主義的に軽やかに、不思議な味わいを生み出す。近代主義のドライさと、民族主義の人懐っこさが、他には探せないような甘辛感を生み出す。ウーン、やっぱりヤナーチェクは尖がっている。あらゆるイズムを突き抜けている。
という、ハンガリーとチェコの3人の作曲家を取り上げたドホナーニ。バルトークはともかく、マルティヌー、ヤナーチェクに関しては、他では聴けないマニアックさ。なのだけれど、国民楽派の進化系にして、合奏協奏曲的な性格を持つ3曲を揃えて来るセンスは冴えている!一方で、三者三様の音楽でもあって、それぞれの魅力をきちっと引き立たせながら、充実した演奏を繰り広げるあたりは、さすがのマエストロの仕事ぶり。それに応えるクリーヴランド管の演奏もすばらしく。弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽での、どこか都会的に響く鋭敏さ、弦楽四重奏と管弦楽のための協奏曲での、ポップかつヘヴィーでもあるキッチュ感、オーケストラの管楽セクションと、ジョーンズのピアノによるカプリッチョ「挑戦」は、エキセントリックなおもしろ味を訥々と響かせて乙。久々に聴いてみると、エッジを効かせつつの、安定感のあるクリーヴランド・サウンドに魅了される。そうして浮かび上がる、第1次大戦後、自らの足で歩み始めた中東欧の新しい時代の瑞々しさ!

BARTÓK: MUSIC FOR STRINGS, PERCUSSION AND CELESTA, etc.
Dohnányi/Cleveland Orchestra

バルトーク : 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 Sz.106
マルティヌー : 弦楽四重奏と管弦楽のための協奏曲
ヤナーチェク : カプリッチョ「挑戦」 〔左手ピアノと7人の管楽器奏者による〕 *

クリストフ・フォン・ドホナーニ/クリーヴランド管弦楽団
ジョエラ・ジョーンズ(ピアノ) *

DECCA/443 173-2




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