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チェコ・アヴァンギャルドから、ハンガリー「前衛」へ、 [before 2005]

シルバーウィーク、真っ只中。みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
こちらは、相変わらず、国民楽派。そして、今日もまた... いや、今日は国民楽派のその先の展開を見つめてみようかと思うのだけれど、その前に... どうも「シルバーウィーク」という響きに慣れなくて。5月のゴールデン・ウィークと対になる、とはいえ、ゴールドにシルバーですか、何と安直な!「マイ・ナンバー」もそうだけれど、近頃、日本で作られる言葉は、どうも軽くて、フワフワしていて、気持ちが悪い。例えば、アメリカの「社会保障番号」と並べてみてください、「マイ・ナンバー」を... いや、横文字に限らず、新しくできた市の名前が"ひらがな"とかも、何か力が抜けるものがあって... 今の日本の気分なのかな?何でも"軽く"済まそうとする... つぶさにあらゆることを見つめると、今の日本って、そう"軽く"してもいられないように思うのだけれど...
さて、話しを戻しまして、国民楽派のその先へ!シュテッフェン・シュライエルマッハーのピアノで、第1次、第2次、両大戦間のチェコの音楽を見つめる、"CZECH AVANTGARDE 1918-1938"(MDG/613 1158-2)と、ハンガリーの「前衛」を代表するリゲティの仕事を俯瞰するシリーズから、ジョナサン・ノットの指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、リゲティの代表作を網羅した"THE LIGETI PROJECT II"(TELDEC/8573-88261-2)の2タイトルを聴く。


チェコ・アヴァンギャルド、新しい時代のハッピー!

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第1次大戦が終結した1918年、チェコ・スロヴァキアが独立!念願の国民国家の成立により、国民楽派も役割を終えたか?そこに花開く、アヴァンギャルド!シュライエルマッハーが取り上げるのは、チェコにおける近代音楽の先駆者、ヤナーチェク(1854-1928)に、その教え子、ハース(1899-44)、その同世代、マルティヌー(1890-1959)、シュルホフ(1894-1942)から、20世紀生まれのブリアン(1904-59)、イェジェク(1906-42)と、チェコの新しい時代を担う、若い作曲家たちばかり。だからか、"CZECH AVANTGARDE 1918-1938"から聴こえて来るサウンドというのは、何とも言えず若々しく、場合によっては、青いようなところもある。けど、それが、当時のチェコ・スロヴァキアの気分だったのだろう。新しい時代が放つ、ハッピー感!
サティ風でミニマルっぽいハースの組曲(track.1-5)には、ラグタイムが混ざり込み(track.3)、ジャズの影響を大きく受けた作曲家、シュルホフの5つの音画(track.7-11)では、フォックストロットに始まり、楽しく軽い音楽に彩られる。が、3つ目(track.9)、無音が続いて、CD壊れた?!となる。いやいや、ケージに先行する、無音の音楽... ダダイストでもあったシュルホフの一面が浮かび上がる。でもって、ここが、"CZECH AVANTGARDE 1918-1938"の最も尖がった瞬間かも。「アヴァンギャルド」とはいえ、下手に尖がることはなく、1920年代を象徴する、ジャズやタンゴ、あるいはダダと、ヨーロッパで一世を風靡した新しいお洒落なものが屈託無く取り込まれて、キャピキャピしている。それは、独立を果たした解放感なのだろうか?19世紀的な重苦しさは微塵も無く、フワフワと不思議なテイストを生む。で、おもしろいのは、このフワフワに、チェコのフォークロワを思い出すこと... ドヴォルザークのスラヴ舞曲で爆ぜていた楽しいリズムや、スメタナの『売られた花嫁』での楽しい騒動の延長線上にある「アヴァンギャルド」。近代主義を気取りながらも、根っこにあるチェコ気質が、ポジティヴで明るい近代主義を生み出すのだと思う。シュライエルマッハーのタッチも、そうしたあたりを素直に捉えて、チェコにおけるアヴァンギャルドを微笑ましく、愛らしく響かせて。絶妙にくつろいだ空気感がとても心地良い。
しかし、このハッピーなアヴァンギャルドは、ナチスの登場で暗転する。1938年、ズデーテン地方がドイツに割譲され、翌年には、チェコ・スロヴァキアが解体、チェコはドイツに併合され、ナチスの恐怖政治がやって来る。チェコのアヴァンギャルドは退廃芸術の烙印を押され、マルティヌー、イェジェクはアメリカに亡命し、共産党員だったブリアンは捕えられた。そして、ナチス支配の最大の悲劇は、ホロコースト... ユダヤ系のハース、シュルホフは強制収容所で命を落とす。その後を知ると、"CZECH AVANTGARDE 1918-1938"から聴こえて来る新しい時代のハッピー感は、酷く切ないものに...

CZECH AVANTGARDE 1918-1938

ハース : 組曲 Op.13
イェジェク : ブガッティ・ステップ
シュルホフ : 5つの音画 Op.31
ブリアン : ワルツ
イェジェク : バガテル集
ヤナーチェク : アンダンテ
ヤナーチェク : 無題
ヤナーチェク : メロディ
ヤナーチェク : 13の小品 から 3曲
マルティヌー : Par T.S.F (On Radio Waves) H.173 bis
マルティヌー : Instruktivní duo pro nervózní H.145
マルティヌー : ミニチュアのフィルム H.148
イェジェク : エクアトリアル・ラグ

シュテッフェン・シュライエルマッハー(ピアノ)

MDG/613 1158-2




戦後「前衛」、ハンガリー、リゲティの歩んだ道...

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リゲティというと、映画『2001年、宇宙の旅』(1968)の印象が強い。まるでこの映画のために書き下ろされたような、トーン・クラスターで表現されるスペイシーなサウンドは、現代音楽に通じていなければ、サウンド・トラックとして疑わないだろう。が、紛れも無く、リゲティの音楽作品。そんな、『2001年... 』で印象的に鳴り響いた、アトモスフェール(track.2)と同じ、トーン・クラスターによる、まさにリゲティな作品、ロンターノ(track.1)。その前段階にあるアパリシオン(track.3, 4)。さらにトーン・クラスターが新たな展開を見せたサン・フランシスコ・ポリフォニー(track.5)を取り上げて、リゲティの歩みを、代表作から俯瞰する、ノット、ベルリン・フィル。"THE LIGETI PROJECT II"から聴こえて来る音楽は、まさに戦後「前衛」の響き... 豊潤なる西洋音楽の伝統をかなぐり捨てて、無機質とも言える音響を鮮烈に綾なす。だからこそ、宇宙空間を表現するのにうってつけだったのだろう。生命に充ち溢れる大気圏内の世界とはまったく異なる、遠い星々の光が散らばる闇の世界としてのリアルな宇宙。そんなイメージを呼び起こすリゲティの音楽は、如何にして生まれたのだろう?今、改めてリゲティ(1923-2006)の生涯を見つめ、その複雑なナショナリティと、過酷な前半生を追えば、腑に落ちるものがある。
ハンガリー語を母語としているリゲティだが、ルーマニア、トランシルヴァニア地方の生まれである。しかし、ルーマニア人ではない。ユダヤ系である。ユダヤ系ハンガリー人。だから、ナチスがバルカンに進出すれば、強制収容所に送られた。リゲティ自身は生還できたものの、この悲劇で、父や弟を失っている。その後、ブダペストに出て、コダーイやヴェレシュに付いて学び、ハンガリー国籍を取得。が、ハンガリー動乱(1956)が起こると、今度は西側、オーストリアへと亡命、ドイツ語圏から世界を舞台に活躍して行く。まさに、20世紀の歴史を体現するような生涯... 戦後「前衛」の一翼を担った無機質かつ鮮烈なサウンドは、時代に翻弄され、死を目前としたからこそ辿り着いた表現なのかもしれない。一方で、生をつぶさに見つめる音楽も生み出したリゲティ... "THE LIGETI PROJECT II"の最後に取り上げられるルーマニア風協奏曲(track.6-9)は、ハンガリーの国民楽派のライフ・ワークとも言える民謡収集から生まれた作品。バルトークのルーマニア民俗舞曲を思い起こさせるも、よりフォークロワの色を強めて、活きの良い音楽を繰り広げる。その表情の豊かなこと!生がぱぁっと弾けるよう。
そんな、死と生の両極を鮮やかに捌いたノットの鋭敏な感性と、ベルリン・フィルのスーパー・オーケストラっぷりに感服。トーン・クラスターはシャープに磨かれて、スタイリッシュにすら響き、そうして生まれる見事なスペイシーさに惹き込まれる。かと思うと、ルーマニア風協奏曲(track.6-9)での、丁々発止のスリリングさは、まさにフォークロワ!改めて、ベルリン・フィルの器用さに魅了される。

THE LIGETI PROJECT II
LONTANO ・ ATMOSPHÈRES ・ APPARITIONS
SAN FRANCISCO POLYPHONY ・ CONCERT ROMÂNESC

リゲティ : ロンターノ
リゲティ : アトモスフェール
リゲティ : アパリシオン
リゲティ : サン・フランシスコ・ポリフォニー
リゲティ : ルーマニア風協奏曲

ジョナサン・ノット/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

TELDEC/8573-88261-2




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