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スペイン・ルネサンス、やわらかな祈り... [before 2005]

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キリスト教、イスラム教、ユダヤ教と、3つの宗教が織り成して紡がれた、中世、イベリア半島の文化。音楽もまた、それぞれに個性を持ちながら影響し合い、西欧とは違う多様性を育んだ。そこからまた、西欧に影響をもたらし、ピレネー山脈越しに持たれた音楽的交流は、間違いなく音楽史に刺激を与えた。が、キリスト教国、スペインの成立を受けて、イスラム教、ユダヤ教が追放され、イベリア半島の多様性は失われてしまう。そこに持ち込まれたのが、フランドル楽派の音楽... 新生スペインの音楽は、西欧からルネサン・ポリフォニーを移植し、大きく発展。ルネサンスの流儀をしっかりと消化すると、西欧でも活躍する作曲家を誕生させる。
そうした時代、イサベル女王が築いた礎の上に黄金時代を到来させたスペインへとトリップする2枚組... ポール・マクリーシュ率いる、ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズの、"MUSIC FOR THE DUKE OF LERMA"(ARCHIV/471 694-2)を聴く。

カスティーリャ王国とアラゴン王国の連合、レコンキスタの完遂、アメリカ大陸の植民地化により、強大な国家となったスペインは、神聖ローマ皇帝の皇子を婿に取ったことで、西欧でも大きな力を持つことに... イサベル女王の孫、カルロス1世は、スペイン王にして神聖ローマ皇帝となり、かつてないほどの強大な権力を握る。そして、その息子、フェリペ2世(在位 : 1556-98)は、やはり広大な植民地を保有していたポルトガルを併合(1580)し、アフリカからアジアまで、その支配領域を広げ、「世界帝国」として、スペインは黄金時代を迎えた。が、アルマダの海戦(1588)でイングランドに敗北したことを切っ掛けに、世界情勢の潮目は変わる。という、スペインの曲がり角、フェリペ3世(在位 : 1598-1621)の時代、スペインの総理大臣を務めたのがレルマ公、フランシスコ・ゴメス・デ・サンドバル(1552-1625)。ここで聴く、"MUSIC FOR THE DUKE OF LERMA"、レルマ公のための音楽の、そのレルマ公がその人... そして、ルネサンス期、音楽においても黄金時代を築いたスペインの音楽の集大成が、この"MUSIC FOR THE DUKE OF LERMA"に、見事に網羅されている!
1617年、国王、フェリペ3世も列席した、レルマ公の御膝元、レルマにある聖ペドロ神学校教会での聖体の秘跡を再現する、"MUSIC FOR THE DUKE OF LERMA"。マクリーシュならではの、音楽史のある瞬間を切り出して来るコンセプトに基づきながら、より広がりのある音楽風景を展開する巧みさに唸らされる。グレゴリオ聖歌を配して、聖体の秘跡の儀式を形作りながら、カベソン(ca.1510-66)、ゲレーロ(1528-99)、ビクトリア(ca.1548-1611)という、スペイン・ルネサンスにおける巨匠たちの音楽をふんだんに盛り込み、その巨匠たちに大きな影響を与えたフランドル楽派の作曲家たち、カルロス1世に仕えたゴンベール(ca.1495-ca.1560)、フェリペ2世に仕えたフィリップ・ロジエ(ca.1561-96)らの音楽も挿み、ルネサンス・ポリフォニーのスペインにおける華々しい展開を聴かせる。一方で、イタリアではバロックの幕が切って落とされていた17世紀、"MUSIC FOR THE DUKE OF LERMA"からは、ルネサンスを脱する新しい流儀もあちらこちらから聴こえて来て興味深く... ポリフォニーが整理され、ホモフォニックな瞬間も現れて、特に、オルガンの壮麗な響きを伴い、力強い音楽を繰り出すビクトリアのマニフィカト(disc.1, track.24)などは、圧巻。新たな時代が、鮮やかに浮かび上がる。
また、そうした歌の合間に、楚々と繰り出される器楽のみによる演奏が絶妙で、オルガン、器楽アンサンブルなどが、聖体の秘跡の厳かな中に、ぱっと色を添えて生まれる新鮮さが何とも言えず... ハープ独奏での、カベソンの第4旋法による"alternatim fabordones"(disc.1, track.14)などは、詩篇に挿まれて、単旋律の重々しい歌声とのコントラストが、ハープのアルカイックな美しさを引き立てて忘れ難く、まるで祈りの言葉に天が応えるような展開に、浮世離れした美しさを見出す。それから、2枚目、冒頭、聖体行列での、コンソートによる5つの器楽演奏(disc.2, track.1-5)が味わい深く... 同族の楽器がポリフォニーを綾なして生まれる、温もりのある響きは、ルネサンスならではのもの。その後の器楽作品では味わえない、独特のやさしさに癒される。一方で、最後、歌手たちの退場の場面、管楽器の吹奏によるゴンベールの"Mon seul"(disc.2, track.14)の、晴れやかさたるや!それまでに無く、華やかなサウンドが、聖体の秘跡の最後を高らかに彩る。
しかし、見事に再現して来るマクリーシュ... 単に音楽を聴くのとは一線を画す、一連の儀式が厳かに進められるあたりには、もどかしさを感じなくもないのだけれど、音楽ではなく、儀式のペースに慣れて来ると、そこに漂う神々しさを感じ。儀式が進めば、その神々しさに包まれて、不思議な浮遊感を味わうような... そして、ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズ、男声によるコーラスは、グレゴリオ聖歌が多いせいもあって、骨太な印象を受けるのだけれど、それがまた、思いの外、真摯に聴こえて、「祈り」が強調される。そんなコーラスに寄り添う器楽アンサンブルは、ひとつひとつの楽器が丁寧に鳴らされて、卒なく綾なして、ふんわりとした雰囲気を生み出す。という、「祈り」とふんわりとした雰囲気が、淡々と再現する1617年の聖ペドロ神学校教会での聖体の秘跡... 威圧的ではない、心地良い神々しさが、沁みる。

MUSIC FOR THE DUKE OF LERMA
PAUL MCCREESH


1617年、聖ペドロ神学校教会における聖体の秘跡を再現する音楽

ポール・マクリーシュ/ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズ

ARCHIV/471 694-2




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