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音楽に空気感を見出す。アメリカ西部からメキシコへ... [before 2005]

もう、かなり前、N響アワーだったと思うのだけれど、N響のオーボエ奏者(茂木さんじゃなかったと思う... )の人が、ヨーロッパ・ツアーでの経験を話していたのが印象に残っている。オーボエの鳴りが、日本にいる時よりもスムーズで、この楽器が、ヨーロッパの空気感の中で生まれたことを実感したのだとか... 音楽というものは、空気を震わせて我々の耳に届く。普段、そのことを意識することはないのだけれど、空気によって変わる響きもある、というのが、とても新鮮に感じられた。ならば、音楽そのものにも、空気は影響を与えるのではないだろうか?様々な地域の音楽を聴いていると、空気感が生み出すトーンも、あるような気がする。例えば、アメリカの音楽を聴いた時に感じるドライさ... そこから南下して、中南米に入って行くと、音楽にも湿度が増すのか...
ということで、デイヴィッド・ジンマンが率いたボルティモア交響楽団による、コープランドの作品集(argo/440 639-2)と、エサ・ペッカ・サロネンが率いたロサンジェルス・フィルハーモニックによる、レブエルタスの作品集(SONY CLASSICAL/SK 60676)。アメリカ西部からメキシコへ、そして密林の奥へと分け入って... 空気感からアメリカを辿ってみる?


保守性、革新性、突き抜けてドライなアメリカのモダニズム、コープランド。

4406392.jpg
アメリカ西部を舞台にした2つのバレエ、『ロデオ』(track.1-4)と、『ビリー・ザ・キッド』(track.7-14)に、ラテンを絶妙に切り取って響かせるエル・サロン・メヒコ(track.5)、キューバ舞曲(track.6)... 20世紀、アメリカを代表する作曲家、コープランドの代表作をさっくりとまとめながら、ちょっと旅するような気分を引き出す、ジンマン、ボルティモア響のアルバムからは、まさに空気感を捉えた音楽が響き出す。そして、その空気感に、改めて興味深いものを感じる。キャッチーなメロディーを繰り出し、アメリカ西部やメキシコ、キューバの情緒を素直に聴かせるコープランド。その音楽はとても保守的に思えるのだけれど、ヨーロッパの伝統的なサウンドとは一線を画し... コープランド独特のすっきりとしたサウンドを繰り出して、その見通しの良さが保守性を覆すようでもあり... 時に、その見通しの良さが、具象をキュビスティックに展開、抽象をも引き込んで、コープランド流のモダニズムへと昇華する。この捌けたセンスが、最高にクール!どんなにコテコテな素材を用いても、常にスタイリッシュに仕上げて来る妙。キャッチーなだけではチープだろうし、モダニズムだけではヘヴィーかもしれない... が、それらを屈託なく結び、飄々とひとつの音楽を紡ぎ出せてしまうのは、アメリカ人ならではの感覚のように思う。ヨーロッパ人が七転八倒して革新をもたらしたのとは違う、あっさりと革新を遂げ、そのことに頓着しないコープランドの姿勢が生む、おもしろいドライさ!こんなところに、コープランドという作曲家を育んだ、アメリカの空気感を感じずにはいられない。
そんなコープランドを奏でる、現代のアメリカの音楽家たち。ジンマンの明晰なアプローチに、ボルティモア響のシャープな響きが、コープランドの音楽にすっかり共鳴して、ちょっとクラシック離れした印象すら受けるところも... クラシックの理屈っぽさはすっかり抜け落ちて、雲ひとつない晴れ渡る大空を突き抜けて行くようなサウンドに、何とも言えない気持ちの良さを覚える。しかし、すっきりし過ぎるほどにすっきりとしている。またそれが、おもしろい。何より、アメリカの空気感というものを強く意識させられる。ひとつひとつの楽器がフレッシュに際立ち、そのフレッシュさを見事に束ね、活かし、鳴り出す、驚くような瑞々しさは、コープランドの音楽の魅力を結晶のように透き通らせて圧倒的。ヨーロッパとは違う空気の中で生まれ、育まれた音楽がここに存在しているのだなと、感慨を覚えつつ、その在り様に、大いに惹き込まれる。

COPLAND: RODEO/EL SALON MEXICO/DANZON CUBANO
BILLY THE KID ・ Zinman/Baltimore Symphony Orchestra

コープランド : バレエ 『ロデオ』 から 4つのエピソード
コープランド : エル・サロン・メヒコ
コープランド : キューバ舞曲
コープランド : バレエ 『ビリー・ザ・キッド』

デイヴィッド・ジンマン/ボルティモア交響楽団

argo/440 639-2




プリミティヴにも、キャッチーにも... メキシコ流モダニズム、レブエルタス。

SK60676
コープランド(1900-90)のひとつ年上となる、メキシコの作曲家、レブエルタス(1899-1940)。メキシコの地の素材を取り入れながら、独自のモダニズムを展開したあたりは、コープランドによく似ているのかもしれない。が、そのサウンドは、明らかに違う。アメリカの素材とメキシコの素材の違いというだけでない、空気感の違いがあるように思う。サロネン、L.A.フィルによるアルバムの、扉として取り上げられる、センセマヤ... レブエルタスと言えば、この作品なのだけれど、コープランドのすっきりとしたサウンドを聴いてからセンセマヤを聴くと、じっとりと謎めくプリミティヴさに慄いてしまう。キューバのアフリカ由来の民間信仰を背景としたギリェンの詩、「蛇を殺すための歌」に基づくセンセマヤ。蛇を殺す?何ともおどろおどろしいのだけれど、それをしっかりとモダニズムで鳴らすレブエルタスの巧みな音楽作り(不協和音に、ポリリズム!)のおもしろさ... モダニズムがプリミティヴに変換されるおもしろさは、ストラヴィンスキーの『春の祭典』に通じるのかもしれない。
一方で、メキシコ文化の人懐っこさ、民衆的なキャッチーさをも取り込むレブエルタス。オチョ・ポル・ラディオ(track.2)の、マリアッチを思わせる調子の良さは、コープランドのエル・サロン・メヒコをより砕けた感じでまとめた風で、魅力的。ガルシア・ロルカへの賛歌(track.7-9)では、ヨーロッパの最新モードにも目敏い、レブエルタスの姿が垣間見える、メキシコ流の擬古典主義が繰り出され... メローでありながらも、少し奇妙なサウンドで彩って、おもしろい。真面目な小品、1番(track.11)、2番(track.12)では、さらに小気味の良い擬古典主義が印象的で、メキシコ独特の、カラフルなのだけれど、ちょっと毒のあるようなテイストが、器用にモダニズムに落し込まれ、絶妙。プリミティヴなだけでない、都会的なあたりも悪くない。
そんなレブエルタスを聴かせてくれた、サロネン、L.A.フィル。いつもながらの明晰さはもちろん、音符の間に漂う湿度まで拾い上げるようなサロネンの指揮ぶり... サロネンにきっちりと応え、縦横無尽にサウンドを繰り出すL.A.フィルの高いパフォーマンス... センセマヤのイメージもあって、一見、ダークな印象もあるレブエルタスなのだけれど、多彩な作品を取り上げることで、より色彩豊かなレブエルタス・ワールドを楽しませてくれる。そうして浮かび上がるのは、メキシコ流の密度の高いモダニズム、そこから生まれる豊かな表情。さり気ないあたりに、ぎゅっと旨味が凝縮された音楽は魅惑的だ。

SENSEMAYÁ ・ THE MUSIC OF SILVESTRE REVUELTAS
LOS ANGELES PHILHARMONIC ・ ESA-PEKKA SALONEN

レブエルタス : センセマヤ
レブエルタス : オチョ・ポル・ラディオ *
レブエルタス : 『マヤ族の夜』
レブエルタス : ガルシア・ロルカへの賛歌 *
レブエルタス : 窓
レブエルタス : 真面目な小品 第1番 *
レブエルタス : 真面目な小品 第2番 *

エサ・ペッカ・サロネン/ロサンジェルス・フィルハーモニック
ロサンジェルス・フィルハーモニック・ニュー・ミュージック・グループ *

SONY CLASSICAL/SK 60676




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