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東海岸、ニューヨークの夜を紡ぐ、不安の時代... [before 2005]

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いやはや、暑いですね。夏です。暑いのが当たり前、とはいえ、温暖化時代の夏の暑さは、ちょっと... 言葉を失う... そんな夏も、何とかして楽しく(?)乗り切ろうと、音楽でヴァカンスを試みるという妄想... 若干、暑さで、イカれちまったようなところもあるかと思いますがアメリカ大陸を縦断して、さらに、アメリカ西部からメキシコ、キューバへと巡って、音楽で旅して来たアメリカ... 大西洋を渡っての音楽の、ヨーロッパとはまた違う在り様に、興味深いものを感じ、クラシックの広がりを、改めて感じ入る。ヨーロッパのコピーのようで、けしてそうではない、アメリカという空気の中で育まれた音楽の、どこか自由で捉われない表情に、惹き付けられる。
そんな、どこか自由で捉われない音楽... カナダのヴィルトゥオーゾ、マルク・アンドレ・アムランのピアノをフィーチャーしての、ドミトリー・シトコヴェツキーの指揮、アルスター管弦楽団の演奏で、バーンスタインの2番の交響曲、「不安の時代」と、ボルコムのピアノと大オーケストラのための協奏曲(hyperion/CDA 67170)。アメリカの音楽にして、より個性的な2作品を聴く。

まずは、1949年に初演されたバーンスタインの2番の交響曲、「不安の時代」(track.1-18)。交響曲とは言うけれど、ほとんどピアノ協奏曲、それも変奏曲の形を取っていて、フランクの交響的変奏曲のアメリカ版?そんなイメージもあるだろうか... そして、この作品に欠かせないのが、W.H.オーデンの詩。第2次大戦が終結して2年、1947年に発表された長編詩、『不安の時代』に綴られた、戦争の傷が癒えない時代の若者たちの不安と孤独に深く共感したバーンスタインは、この長編詩を交響曲として仕立て直す。その始まりは、ニューヨークの3番街のバー。そこに居合わせた4人の対話が、変奏として繰り広げられ、夜は更け... やがて、4人は、そのひとりが住むアパートの一室に移動し、即席のパーティーで盛り上がり... そこでは、ジャズが流れ(track.17)、都会の刹那を鮮やかに捉えて、印象的。が、そんな楽しい時間もすぐに過ぎ、夜が明ければ、またそれぞれの日常へと帰ってゆく... 思いの外、W.H.オーデンの詩を忠実に展開しながらも、そこから喚起されるイマジネーションの豊かさに、バーンスタインの詩への共感がジンジンと伝わって来る。若き音楽家の鋭敏な感性が、同時代を鋭く切り取った詩に触れてスパークする感覚は、不安の時代、倦怠に包まれたニューヨークの一夜にも、鮮烈な印象をもたらし、単に音楽を聴く以上のインパクトをもたらしてくれる。それはまるで、インディペント系の映画を見るかのよう。「交響曲」とは謳いながらも、捉われることなく、映像的な瑞々しさに彩られ、惹き込まれてしまう。
というバーンスタインの個性的な交響曲の後には、個性を極める作曲家、ボルコム(b.1938)の、1976年に初演されたピアノと大オーケストラのための協奏曲(track.19-21)が取り上げられるのだけれど... いやはや、ボルコム... この作曲家をどう捉えるべきか、毎度のことながら、戸惑いを覚えてしまう。コラージュの先駆者、アイヴズ(1874-1954)の継承者?多様式主義の大家、シュニトケ(1934-98)のアメリカ版?いや、そういった次元を遥かに超えて、まるでカメレオンのように、様々に擬態する謎の作曲家... ピアノと大オーケストラのための協奏曲の始まりは、フランスのジャズの巨匠、ジャック・ルーシェのアレンジによるバッハを聴くような感覚なのだけれど、そういうひとつのイメージに落ち着くはずがなく、場末感ムンムンのメロディーが現れるかと思えば、擬古典主義風になったり、"ゲンダイオンガク"みたいな晦渋なサウンドが差し挟まったり、粋なラグタイムに乗っ取られたり、先が読めない音楽が繰り広げられる。でもって、真骨頂は終楽章(track.21)!ヤンキー・ドゥードルやら、何やら、景気の良いマーチが、あっちから、こっちから、やって来て、大騒動を引き起こしながらも、センチメンタルにも染まって、これって、何かのギャグ?いや、ギャグとしか思えない... それを、「ピアノと大オーケストラのための協奏曲」と銘打って、大真面目にやってしまうのだから、自由過ぎる... いや、これが乙!
そんな音楽も、至極、淡々と弾き上げるアムランのピアノが、また乙でして... 現代を代表するヴィルトゥオーゾらしい、超絶技巧を物ともしない正確無比なタッチでもって、スラップスティックをきっちりと鳴らして生まれる、独特のアイロニー。一方、バーンスタインの「不安の時代」では、その映像的な音楽を丁寧に捉え、巧みにストーリーを紡ぎ出し、オーケストラとのナチュラルなやり取りから、瑞々しいサウンドを生み出してゆく。同じ20世紀、アメリカであっても、まったく異なる音楽を響かせるバーンスタインとボルコム。その幅を前にして、臆することなくピアノに向かうアムランの姿勢に、改めて感心させられる。そんなアムランを、絶妙にサポートするシトコヴェツキー、アルスター管もまたすばらしく。ピアノの少し硬質な響きを、より色彩的なサウンドで包んで、2つの個性的な作品の魅力を、さらに引き出す。そうして際立たされる、アメリカの音楽の自由で捉われない精神... ヨーロッパとは違う可能性を見出し、新鮮な刺激を与えてくれる。

BERNSTEIN THE AGE OF ANXIETY BOLCOM PIANO CONCERTO
MARC-ANDRÉ HAMELIN ・ ULSTER ORCHESTRA / DMITRY SITKOVETSKY


バーンスタイン : 交響曲 第2番 「不安の時代」
ボルコム : ピアノと大オーケストラのための協奏曲

マルク・アンドレ・アムラン(ピアノ)
ドミトリー・シトコヴェツキー/アルスター管弦楽団

hyperion/CDA 67170




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