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19世紀、バッハ覚醒、 [before 2005]

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"20th-CENTURY BACH"に刺激され、改めて「20世紀」と「バッハ」を考えてみる。と、20世紀はバッハの世紀だったように思えて来る。バッハという作曲家を、これほどリスペクトした世紀は他にない。それは、洋の東西を問わず、ジャンルすら超えて、ジャック・ルーシエはジャズにし、"everything's gonna be alright"ではR&Bに取り込まれ、シュヴァイツァー博士からレクター博士まで、様々な人々が愛したバッハ。一方で、なぜそれほどまでに「バッハ」だったのだろうか?破壊的な革新が続いた20世紀の音楽シーンの反動だろうか?音楽の概念すら揺らぐほど多様化した時代だからこそ、音楽の父というアイコンは輝きを放ったのかもしれない。
そんな、バッハの世紀の端緒とも言えるだろう、メンデルスゾーンによるバッハのリヴァイヴァルにスポットを当てた興味深い録音... クリストフ・シュペリング率いる、ダス・ノイエ・オーケスターの演奏、コルス・ムジクスのコーラスで、1841年、ライプツィヒ、聖トーマス教会におる演奏を再現した、メンデルスゾーン版、マタイ受難曲(OPUS 111/OPS 30-72)を聴く。

バッハ(1685-1750)が、ライプツィヒ、聖トーマス教会のカントル(音楽監督)に就任して4年目、1727年に初演されたマタイ受難曲。現在ではバッハを代表する傑作として認知されるこの大作も、バッハの死とともに一度は忘れ去られてしまう。が、初演から一世紀を経た頃、1823年、ライプツィヒ生まれの早熟の天才、メンデルスゾーン(1809-47)に、クリスマス・プレゼントとしてそのスコアが贈られたことで、状況は静かに動き出す。当時、14歳だったメンデルスゾーン少年は、マタイ受難曲に深く魅了され、その復活を願うように... その6年後、20歳となったメンデルスゾーン青年は、早くもそれを成し遂げる。1829年、メンデルスゾーンの指揮によるベルリンでの蘇演は大成功。マタイ受難曲は各地でも取り上げられ、バッハ・ルネサンスが始まる。
さて、ここで聴くメンデルスゾーン版は、1829年のベルリンでの蘇演のものではなく、その12年後、1841年、バッハがカントルを務めた聖トーマス教会での演奏のために用意された版。ライプツィヒ、ゲヴァントハウス管のカペルマイスターとして活躍していたメンデルスゾーンも30代となり、その音楽もより成熟し深化していた頃だけに、アレンジとはいえ、そこには極めて充実した音楽が存在している。バロックの時代の作品を、ロマン主義の時代に巧みに落とし込み、オリジナルを大切にしながらも、より瑞々しいサウンドを実現する... オリジナルならば3枚組となる長大さを、器用に刈り込んで、2枚組の長さとし、ドラマの密度を上げる... 音楽の父、バッハを代表する傑作に手を加えるなんて、今からすると、ちょっと憚れるところもあるのだけれど、見事にやり切り、それどころか、より魅力的にすら響くから、さすが!バッハという偉大な存在に向き合いながら、凌駕しかねないような力量を見せる、優等生、メンデルスゾーンの底力を思い知るアレンジ。自らの個性で描き直すのではなく、18世紀のオリジナルを丁寧に紐解きながら、繊細に19世紀のフォーマットに結び付けてゆく絶妙さ!今、改めて触れてみると、近寄り難いイメージすらあったマタイ受難曲が、思いの外、聴き易く、いや、俄然、惹き込まれて驚いた!
アレンジではあるけれど、オリジナルへの深いリスペクトを感じる1841年、メンデルスゾーン版... だからこそ見えて来る新しい表情だったり、より深い心理だったり、どこか解説的なところもあるかもしれない。メンデルスゾーンという際立った才能が持つ視点が加わることで、より詳らかとなるところもあって、まったく興味深い。特に印象的なのが、バッハのサウンドに漂うロマンティックさ... 19世紀の作曲家の手に委ねられたことで、内包していたものが思い掛けなく鮮やかに浮かび上がり、音楽はよりスムーズに流れ、魅せる!で、何より、ドイツ音楽のDNAとしてのロマンティックを見出し、単に19世紀的な現象としてではなく、ドイツに脈々と流れる感性としてのロマン主義に新鮮な思いがする。それでいて、バッハからメンデルスゾーンへ、しっかりと受け継がれている点にも感慨を覚え、メンデルスゾーン版、マタイ受難曲に、音楽史の大きな流れすら見るよう。
そして、この特殊な版を取り上げたクリストフ・シュペリング+ダス・ノイエ・オーケスター!彼らの実直な演奏が、バッハ/メンデルスゾーンにぴたりとはまる。ピリオドとして19世紀前半のサウンドを再現しつつ、バロックの音楽を奏でるというのは、なかなか一筋縄には行かなかったように思うのだけれど、無理することなく、じっくりとイエスの受難の物語を描き出し、作品全体を落ち着きで包む。そこに、コルス・ムジクスによる麗しいコーラスが、メンデルスゾーン版の瑞々しさを際立たせ、ヨッヘンス(テノール)の福音史家を始めとする歌手たちはしっとりと歌いつなぎ、バッハのメロディーの美しさを引き立てる。そうして紡ぎ出された1841年、メンデルスゾーン版、マタイ受難曲は、何とも切なげで、沁みる!

BACH Matthäus-Passion chorus musicus das neue orchester christoph spering

バッハ : マタイ受難曲 〔1841年、メンデルスゾーン版〕

福音史家 : ヴィルフリート・ヨッヘンス(テノール)
イエス : ペーター・リーカ(バス)
アンゲラ・カジミェルチェク(ソプラノ)
アリソン・ブローナー(アルト)
マルクス・シェーファー(テノール)
フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ(バス)
コルス・ムジクス(コーラス)
クリストフ・シュペリング/ダス・ノイエ・オーケスター

OPUS 111/OPS 30-72




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