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20世紀、バッハの世紀、 [before 2005]

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バッハって何だろう?キース・ジャレットのニュートラルな平均律を聴いて、いろいろ考えさせられる。バッハが生きた時代、「バロック」という枠組みから見つめたバッハ像は、まったく以ってローカルであって、モードの先端からは一歩も二歩も遅れていたことは否めない。それどころか、バッハは自ら進んでオールド・ファッションに傾倒していたところすらあって... 平均律の24も繰り出されるフーガの執拗さを考えると、対位法の玉手箱やァ!であって、それはもうルネサンス... となると、バッハの音楽はルネサンスのリヴァイヴァルであったか?しかし、ルネサンスそのものを再現するには至らず、"ルネサンスっぽい"ものに留まり、もどかしい。いや、このもどかしさが確信犯的なものであったとするなら?18世紀前半における擬古典主義?この、聴き手を煙に巻くような時代感覚のブレこそ、バッハの音楽にユニヴァーサルな可能性を与えているように思えてならない。
そして、そのユニヴァーサルを増幅させる、未来のアレンジで聴くバッハ。「未来」と言っても、我々のではなく、バッハにとっての... 20世紀の音楽家たちがモダン・オーケストラのためにアレンジしたバッハ作品... 小澤征爾が率いたボストン交響楽団による、"20th-CENTURY BACH"(PHILIPS/432 092-2)。これをバッハが聴いたら、どんな風に思うだろう?

近代音楽の巨人、ストラヴィンスキー(1882-1971)に、12音技法の発明家、シェーンベルク(1874-1951)、その弟子、ヴェーベルン(1883-1945)、「モダン・オーケストラ」を形作った巨匠、ストコフスキー(1882-1977)に、世界のオザワを育てた教育者、斎藤秀雄(1902-74)。20世紀、様々な国から、様々なポジションから、「バッハ」を見つめ、生まれたアレンジによる1枚、"20th-CENTURY BACH"。20世紀仕様のバッハ、という視点、なかなかおもしろい。一方で、"20th-CENTURY BACH"に収められた多様なアレンジに触れると、20世紀におけるバッハ信仰の盛り上がりに興味深さを覚える。もちろん、それ以前にもバッハのリヴァイヴァルはドイツ語圏を中心にいろいろなされていたけれども、20世紀における「バッハ」の広がりは、圧倒的なのかも。また、個性際立つ面々が、それぞれのやり方で「バッハ」に挑み... そうしたチャレンジを受けとめてしまうバッハの音楽の大きさも凄いなと。そう、これがバッハのユニヴァーサルさ!音楽の父というのも伊達じゃない。
さて、"20th-CENTURY BACH"、その始まりは、ストコフスキーのアレンジによるトッカータとフーガ。いやー、鼻から牛乳なくらいの定番、なものだから、あの強烈なメロディーが、どうもギャグっぽく感じられてしまうのだけれど、こうして改めて接してみると、やっぱり凄い音楽だなと... で、その凄さを、思いの外、じっくりと繰り広げるストコフスキーのアレンジ!オルガニストとしてキャリアをスタートしたストコフスキーならではの、パイプ・オルガンを見事にモダン・オーケストラに当てはめるセンス。これには、唸らされる。派手なイメージのあるストコフスキー・サウンドだけれど、そこにはオルガニストとして培ったものがあったか。ストコフスキーが育んだアメリカにおけるモダン・オーケストラの輝かしさには、パイプ・オルガンという存在に裏打ちされたものがあるのかもしれない。そんなことを思わせる、ストコフスキー版、トッカータとフーガ... で、その対極だろうか、斎藤秀雄のシャコンヌ(track.3)が、また興味深い!日本という西洋音楽の辺境でなされたアレンジは、見事にトラディショナル!バッハの実にドラマティックな音楽をオーケストラが捉えると、まるでブラームスの作品を聴くような渋さと深みが広がり、古き良きヨーロッパの伝統が息衝くよう。ヨーロッパから遠く離れた場所なればこその感覚だろうか、何とも言えない音楽への実直さが雄弁に音楽の父を語り出し、圧巻。そもそもが感動的な音楽だけれど、またさらに!
で、そこに、世界のオザワの本質を見た思いもする。ボストン響というアメリカ切っての名門を繰って響かせる20世紀のバッハの実直さたるや!斎藤秀雄版に限らず、ひとつひとつ、どんなスタイルであっても、がっぷり四つに組んで音楽を繰り出すマエストロ... そうか、世界のオザワの音楽はね斎藤秀雄という人が仕込んだものなのだなと、何か腑に落ちるものもある。そして、その実直さがあって掴める音楽のしっかりとした存在感というのか、ヴェーベルン(track.2)にしろ、ストラヴィンスキー(track.4-9)にしろ、それぞれに確かな聴き応えがあって、印象的。今さらながらにして、小澤征爾という指揮者を再認識させられる。で、そのマエストロの実直さをしっかり受け止めて、味わいのあるサウンドを紡ぎ出すボストン響。アメリカを代表するオーケストラではあっても、"アメリカン"な派手さとは一味違う古風さがバッハによく合い、モダン・オーケストラとして如何にバッハを響かせるか、説得力を感じさせる。そうして引き出される「バッハ」らしさの妙。これが、おもしろい...
20世紀という時代から、モダン・オーケストラでトレースしながら、「バッハ」が引き立つのはなぜだろう?飄々としたストラヴィンスキー(track.4-9)に、解体調査をするようなヴェーベルン(track.3)、意外と派手なシェーンベルク(track.10)、ではあっても、それぞれに「バッハ」が魅力を放つ。音楽の父、なればこそか?改めてバッハの凄さに感服させられる。

20th-CENTURY BACH
BOSTON SYMPHONY ORCHESTRA ・ OZAWA

バッハ : トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565 〔オーケストレーション : ストコフスキー〕
バッハ : 『音楽の捧げもの』 BWV 1079 から 6声のリチェルカーレ 〔オーケストレーション : ヴェーベルン〕
バッハ : 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 BWV 1004 から シャコンヌ 〔オーケストレーション : 斎藤秀雄〕
バッハ : 「高き空よりわれは来たり」 による カノン風変奏曲 BWV 769 〔オーケストレーション : ストラヴィンスキー〕 *
バッハ : 前奏曲とフーガ 変ホ長調 BWV 552 〔オーケストレーション : シェーンベルク〕

小澤征爾/ボストン交響楽団
タングルウッド祝祭合唱団 *

PHILIPS/432 092-2




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