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ジャズの巨匠と音楽の父の対話、 [before 2005]

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最近、ニュースを見終えると、ドっと疲労感を覚える。のは、伝えられるニュースの不毛のせいか... とにかく、世界中のあちこちで、日本で、グローバルにあらゆることがつながったこの地球上に在って、見事に対話が成り立たない!これほどまでに、対話するツールに充ち溢れていながら、対話はできないという愚挙!山積する問題を認識しつつ、他者に対して聞く耳を持たず、ただ主張するだけ。まるで自分だけが世界だと思っているかのように振舞う。当然、衝突しか生まれない。で、前進などあり得ない。今や、グローバルな世界は、地縛霊だらけの呪いに充ちたお化け屋敷のよう。まさか、21世紀がお化け屋敷となるとは... どうすれば浄霊できる?
ということで、バッハを聴いてみようかなと... 旧約聖書を音楽で巡った後で、ピアノの旧約聖書を... キース・ジャレットのピアノで、バッハの平均律クラヴィーア曲集、第1巻(ECM NEW SERIES/835 246-2)。バッハに包まれて、浄化されたい!

キース・ジャレット、ジャズの巨匠と、バッハ、音楽の父という組合せは、イロモノに映るかもしれない。しかし、古典すら惹きこなすキースであって、ジャズ・プレイヤーもすんなり受け入れてしまうバッハの音楽であって、両者のフレキシビリティ、懐の大きさがあってこその、ジャンルを越えた対話がそこに成り立っているように思う。いや、これこそが音楽という言語の偉大さなのかも... そうして紡がれる、ニュートラルなバッハ像の瑞々しさたるや!何だろう、この感覚... ジャズの巨匠が弾くから、バッハがスウィングしている?いやいやいやいや、そんな安っぽいイメージ付けなんてあり得ない、ピアニストとして、真っ直ぐにスコアと向き合うキースの姿勢は、驚くほど淡々としている。で、この淡々としたタッチこそ、キースそのものかなと... そうやってバッハを捉えることは、至極、真っ当なことであって、何ら驚かされる物は無い。のだけれど、やっぱり一味違うのか...
クラシックのアカデミズムから捉えられた平均律は、どこかメカニカルな印象を受ける。それは、この作品が音楽理論を体現した特殊な作品だからだろう。そして、そのメカニカルさに、時代を超越する魅力があって、もの凄くクールに響くこともある。バッハの、ルネサンスの昔に立ち帰るようなオールド・ファッションが、かえって現代的に響き出すケミストリー!そんな平均律を、自らの感覚で、丁寧に綴るキース... ピアノというバッハ後の近代性を象徴するマシーンが持つ詩情を、嫌味にならぬほどすくい上げ、エッセンスとしながら、淡々と24もの前奏曲とフーガを繰り広げる。それは、ある種のモダニズムだろうか?音楽をバッハという存在から切り離し、現代にそっと送り出す。すると、ひとつひとつの前奏曲、フーガがふわっと匂うようで、平均律の晦渋さは薄らぎ、何とも言えず朗らか。いや、平均律であることを忘れさせるような、不思議な感覚。理論が生むメカニカルの硬質さが、思い掛けない柔和な表情を見せ、アンビエントな雰囲気も... バッハであることは間違いないし、バッハとしての魅力もきっちりとありながら、ドビュッシーやサティを思わせるフレーバーを感じさせて、おもしろい。
音楽を理論的に詳らかとしようとする平均律の、音楽としての魅力は何か?作曲者自身がそうしたものを度外視したところもある希有な曲集だけに、平均律との向き合い方というのは悩ましい。下手をすると、お経でも聴かされるような、そんな気持ちにもなる。が、キースの平均律は、音楽としての魅力を取り戻すかのように、心地良い流れを以って繰り広げられる。それは、クラシックというフィールドに在っては得られないニュートラルさが生み出すものだろう... また、バッハをピアノで弾くというニュートラルさもあって... 西洋音楽の核心とすら言える平均律を、「ニュートラル」に奏でる興味深さ。音楽の父と向き合い、ピアノの旧約聖書に臨みながらも、クラシックの中心にはない、つまり何者でもない平均律は、中心から外れることで、ナチュラルに音楽を響かせる。バッハの実直を、キースの素直さが捉える妙... 実直さ、素直さ、これがあってこその、ジャズの巨匠と音楽の父の対話なのかなと... そんな対話がとても素敵に感じる。

J.S.BACH: WOHLTEMPERIERTE KLAVIER BUCH I
KEITH JARRETT

バッハ : 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 BWV 846-869

キース・ジャレット(ピアノ)

ECM NEW SERIES/835 246-2




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