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ヘンデルの過去と未来を乗せるジェット・コースター、『メサイア』! [before 2005]

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旧約聖書はおもしろい!大雑把ながら音楽でその流れを追ってみて、改めて感じる。一方で、旧約聖書って、意外と尻すぼみ?天地創造の壮大さ、ノアの方舟のスペクタクル、モーゼが紅海を渡るミラクルにはワクワクさせられるのだけれど、その後は... ヘブライの民が約束の地を見つけた後に描かれる世界はグっと狭まり、バアルvsエホバのやったやられたな展開(って、随分と乱暴な言い方だけれど... )。これってどこかで見た風景?現代に至るカナンの地の宿命なのか?そんな、ある種の閉塞感を打ち破ってくれるのが、イエスの存在。いや、その存在、ジーザス・クライスト・スーパースターだ!旧約から新約への切り返しは、鮮烈...
ということで、前回、聴いた『エリヤ』の最後で預言された救世主を取り上げるオラトリオの傑作。マルク・ミンコフスキ率いる、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏、コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルのコーラス、マグダレーナ・コジェナー(メッゾ・ソプラノ)ら、ピリオドで活躍する歌手たちによる、ヘンデルのオラトリオ『メサイア』(ARCHIV/471 341-2)を聴く。

今でこそ三大オラトリオのひとつとして、絶大な人気を誇る『メサイア』だけれど、その受容には紆余曲折があり、一筋縄には行かなかった。ロンドンの厳しい音楽シーンに在って、オペラとオラトリオの間を揺れ、苦悩していた頃、ダブリンから招聘を受けたヘンデル。そのダブリンでの演奏会のために作曲されたのが『メサイア』。で、この傑作が初演されたのが、作曲の翌年、ダブリンへ渡り、年を越しての1742年の春... ヘンデルは、ダブリンのための新作を舞台に掛ける踏ん切りをなかなか付けられないでいた。というのは、それがあまりに宗教的な作品だったから... イタリア・オペラに、バラッド・オペラにと、楽しみに事欠かなかったロンドンの音楽シーンにおいては、説教臭い題材を劇場に持ち込むのは無粋?宗教作品を劇場で取り上げるのは不謹慎?ずばり"メサイア"というキリスト教の核心を取り上げるオラトリオには慎重にならざるを得なかったわけだ。が、蓋を開ければダブリンでの初演は、ロンドンの巨匠を熱烈に歓迎したダブリンっ子たちの支持を得て大成功!その翌年のロンドンでの初演は何かと苦戦を強いられることになったものの、チャリティーと結び付けて、毎年、地道に演奏したことが功を奏し、やがてヘンデルの代表作として定着する。そんな過程を改めて振り返ると、実に興味深い。
そんな『メサイア』は、ヘンデルにとって過渡的な作品。『ソロモン』といった晩年のオラトリオに比べると、まだまだ定まっていないものを感じる。が、それまでの様々なスタイルと、それからの方向性が示されて展開される音楽は思い掛けなく盛りだくさん!ローマ時代のような劇的なインパクトに圧倒されるかと思えば、パストラルのような牧歌的な気分に包まれ、ライヴァル、ナポリ楽派流の華麗さにも彩られ... まるでヘンデルの作曲家人生を網羅するようで、改めて聴いてみると、何とも感慨深い。また、ハレルヤ・コーラス(disc.2, track.15)や、アーメン・コーラス(disc.2, track.23)の堂々たる姿には、これぞオラトリオという定まった姿を見る思いがし、その深く大きな音楽の在り様にはやっぱり感動させられる。で、過渡的なればこその盛りだくさんさ... 実は、『メサイア』のおもしろさはここにあるような気がする。ひとつの作品の中に、様々な魅力が散りばめられていて、それぞれが輝きを見せながら、極めて表情に富む音楽を紡ぎ出す。で、これほどまで聴き手を様々に楽しませてくれる音楽もそうないんじゃないか、というくらいに濃い!それはまるで、長大なジェット・コースター!
そんなイメージを際立たせるのが、鬼才、ミンコフスキ!いやー、暴れまくってます。大丈夫なのか?!でもって、心配になるくらいに飛ばす!となると、もう本当にジェット・コースターだぞこれは... あんまりブっ飛ばすものだから、一部、歌手が不安定になるところもチラホラ。だけれども、そうして得られる他には絶対に求められない痛快さがあって、2枚組があっと言う間。もちろん、ただブっ飛ばしているだけではなく、グっとメローになれば、たっぷりと聴かせもする巧さ。ぎゅんぎゅん緩急を付けて来て、否応無しに自分のペースに引きずり込む強引さには、もはや感服するしかない。そんなミンコフスキに、ぴたりと合わせて来るレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏も凄い!鋭いだけではない、息衝くサウンドが生み出す鮮烈さは、とにかく圧巻で、このポテンシャルがあってこそ、ジェット・コースターの加速が可能となる。で、それに負けていないのが、コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルのコーラス!フランスらしい朗らかなハーモニーを聴かせながらも、ミンコフスキのとんでもない要求をさらりと歌いこなし、冴えまくる!いや、彼らの恐るべきコーラスがあってこそ、この驚くべき『メサイア』は成り立っているのかもしれない。そんな彼らが一丸となって生み出す『メサイア』は、18世紀版、ジーザス・クライスト・スーパースター!いや、イエスとは、そういう人物だった気がする。

HANDEL: MESSIAH
MARC MINKOWSKI


ヘンデル : オラトリオ 『メサイア』 HWV 56

リン・ドーソン(ソプラノ)
ニコル・ハーストン(ソプラノ)
マグダレーナ・コジェナー(メッゾ・ソプラノ)
シャルロッテ・ヘレカント(アルト)
ブライアン・アサワ(カウンターテナー)
ジョン・マーク・エインズリー(テノール)
ラッセル・スミス(バリトン)
ブライアン・バンナタイン・スコット(バス)
コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(コーラス)
マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

ARCHIV/471 341-2




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