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旧約聖書からエンターテイメント!『サムソンとデリラ』。 [before 2005]

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聖書は、キリスト教徒にとって、とても大切なものなのだろうな... という、漠然とした認識がある(我々が、祝詞やら、般若心経について、あまりよく解っていないのとは違い... )。だから、聖書に書かれた筋に手を加えてしまって良いのだろうか?と、心配になってしまったモンテクレールのオペラ『ジェフテ』。そもそも聖書をオペラにしてしまって良いのだろうか?というより、ありがたいお導きは、劇場でのお楽しみに成り得るのだろうか?いや、モンテクレールの『ジェフテ』が証明するように、成り得てしまうのだけれど... ありがたいばかりでない、読み手を引き込む濃密なドラマが展開される聖書であって、作曲家にとってはオペラにせずにいられない引力もあるのか... ロッシーニの『エジプトのモーゼ』(1818)、ヴェルディの『ナヴッコ』(1842)、サン・サーンスの『サムソンとデリラ』(1877)、リヒャルト・シュトラウスの『サロメ』(1905)、聖書を原作とする人気オペラは意外とある。で、それを許容するキリスト教圏の聖書に対する柔軟さに、興味深いものを感じる、今日この頃...
さて、その最たるレパートリーを聴いてみようかなと。コリン・デイヴィスが率いたロンドン交響楽団の演奏、ホセ・クーラ(テノール)、オリガ・ボロディナ(メッゾ・ソプラノ)のタイトルロールで、サン・サーンスのオペラ『サムソンとデリラ』(ERATO/3984 24756 2)を聴く。

『サムソンとデリラ』、今でこそ、オペラハウスには欠かせないフランス・オペラの代表作なわけだけれど、旧約聖書から題材を採っていることから、最初はオラトリオとして構想されたらしい... いや、至極、真っ当なことだと思う。そのあたりは、第1幕(disc.1)から伝わって来る。始まりのヘブライ人たちの荘重なコーラスは、まさにオラトリオの理想的な姿。が、次第に物語は熱を帯び、ペリシテ人の支配下に置かれたヘブライ人たちがサムソンに率いられ立ち上がる!何だか、『レ・ミゼラブル』な展開... その立ち上がる場面(disc.1, track.6)、ヘブライ人のコーラスは革命歌にも聴こえなくもない?キャッチーで、パワフルで、ヘブライ人じゃなくてもテンション上がる!イッスラエール!つい、一緒に歌いたくなってしまう。かと思えば、勝利の後の祈りの歌(disc.1, track.9)の静謐な美しさ... グレゴリオ聖歌を思わせるその深遠な響きに、オラトリオの雰囲気は戻るのか?いや、ダゴンの神殿(ペリシテ人たちの... )の扉が開き、ペリシテ人の乙女たちがヘブライ人の勝利を歌う(disc.1, track.10)。そのブルーミンなコーラスと来たら、もう!そこに、決定的に魅惑的なデリラの「春が来れば恋する心に希望がもえて」(disc.1, track.13)。本当に美しい音楽を当てて来るサン・サーンス、それを幕切れとするのは、客席をも誘惑しているのか?何だかあざと過ぎ?そりゃ、ヘブライ人解放のヒーローも、ころっといくわ...
ヒーローにロマンス、かと思いきや相手はファム・ファタル!で、それらを包むエキゾティシズム。もちろん、バレエ・シーンも!って、見事に19世紀のフランスにおけるヒット要素を網羅。ずるいくらいなのだけれど、舞台に掛けるにあたっては、苦労したサン・サーンス。ワグネリズムに覆われていたパリの音楽シーンが壁となり、第1幕のみを演奏会形式で初演(1875)。その後、ヴァイマルでドイツ語訳された全幕を初演(1877)。結局、フランスでの初演は随分と遅れての1890年。「私の心はあなたの声に開く」(disc.2, track.9)、バッカナール(disc.2, track.13)と、多くの人々を捉える人気曲があり、最後は、怪力、サムソンによるダゴンの神殿の破壊というスペクタキュラーが待っており、最高のエンターテイメントなのだけれど... それぞれの時代、求められるものは違うのだなと... しかし、改めて『サムソンとデリラ』を聴いてみて思い知らされる、そのエンターテイメントっぷり!徹底して聴衆を喜ばせることに力を注いでいるのか?そんなサン・サーンスの音楽を聴いていると、オペラであることを忘れてしまうほど。アカデミズムの気取りをほとんど感じることなく、全てのナンバーがメローでキャッチーで、芸術云々を超えて、純粋な「楽しみ」として響いて来る!で、新鮮!久々に聴いたからだろうか?
そんな、エンターテイメント性を際立たせているのが、デイヴィスの明晰な音楽性から繰り出されるロンドン響のインターナショナルなサウンドだろうか... フランス・オペラを、特段、「フランス」だからと身構えず、サン・サーンスのスコアとのみ向き合う。変に雰囲気たっぷりとなるのではなく、軽快にドラマを運び、"おもしろさ"こそを抽出する。だから、純度の高いエンターテイメントに仕上がるのだろう。そこにまた国際色豊かな歌手たちの個性が光り... アルゼンチン出身のクーラが歌うサムソンは、ラテン的な明るさを放ち、その輝かしさが眩しい!一方で、ロシア出身のボロディナの、深く艶やかな声から紡ぎ出されるデリラの存在感!サムソンでなくとも心を開かざるを得ないか... フランス語で歌いながら、「フランス」を忘れさせる多国籍感?そうして生まれるニュートラルさが絶妙に作用して、ピュアに息衝く音楽はポップですらあって、ワクワクさせられる。その感覚は、クラシックを聴く感覚とちょっと違うのかも... 何だろう、この感覚?

Saint-Saëns . Samson & Dalila
José Cura, Olga Borodina . Sir Colin Davis


サン・サーンス : オペラ 『サムソンとデリラ』

サムソン : ホセ・クーラ(テノール)
デリラ : オリガ・ボロディナ(メッゾ・ソプラノ)
ダゴンの祭司 : ジャン・フィリップ・ラフォン(バリトン)
アビメレク : エルギス・シリンス(バス)
ヘブライの老人 : ロバート・ロイド(バス)
ペリシテ人の使者 : レミ・ガラン(テノール)
第1のペリシテ人 : ジル・ラゴン(バリトン)
第2のペリシテ人 : オリヴィエ・ラルアット(バリトン)

コリン・デイヴィス/ロンドン交響楽団、同合唱団

ERATO/3984 24756 2




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