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晩年のヘンデルが辿り着いた音楽的境地、『ソロモン』の端雅。 [before 2005]

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淡路島で銅鐸7個が見つかる!というニュースに、ちょっと興奮してしまう。のは、ちょうど、朝日選書『日本発掘!』を読んでいたから... でもって、もの凄く気になっているのが、銅鐸から"舌"(「ゼツ」、銅鐸の内側に下げられて、音を鳴らす棒... )が見つかったこと!普段は、あまり見つからないようなのだけれど... いや、楽器であることを再認識させられる銅鐸であって、セットで見つかったリアリティにワクワクしてしまう。何より、古代の人たちが耳にしたサウンドとは、どんな感じだったろう?どんな風に鳴らされていたのだろう?聴いてみたい!
さて、旧約聖書に綴られた古代です。音楽で辿って来た旧約聖書だけれど、そろそろ実際の歴史をなぞるあたりに... ポール・マクリーシュ率いる、ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズによる、ヘンデルのオラトリオ『ソロモン』(ARCHIV/459 688-2)を聴く。

ロンドンに君臨したバロックの巨匠、ヘンデル(1685-1759)の、多難の創作活動の集大成を迎える頃、1749年に初演されたオラトリオ『ソロモン』。旧約聖書の列王記から採られた、賢王、ソロモンの人生を描き出すその音楽は、これぞオラトリオ!という、風格に充ち満ちている。まず、序曲の雅やかで荘重な出だし!サン・サーンスの『サムソンとデリラ』を聴いた後だと、何だか心洗われる思いがする。音楽がまだピュアだった頃のサウンドというのか... 古い音楽なればこその澄んだ美しさは、他に替え難いものがある。で、これがソロモンにぴったりで... 数々のオラトリオを作曲したヘンデルだけれど、より風格を漂わせるのか、その堂々たる音楽に何とも言えない充足感を味わう。で、ここに至るまでのヘンデルの道程に感慨深いものを感じる。
ハンブルク、ゲンゼマルクト劇場での駆け出しの頃、ローマでブレイクした頃、ロンドンに進出し、イタリア・オペラで一世を風靡した頃、その後の苦悩の日々と、オラトリオという新たな道を切り拓き、やがて『メサイア』という傑作を生み出し... バロックという時代を生きながら、様々な作風に挑戦し進化し続けて来ての『ソロモン』。蓄積と、取捨選択を経ての、その独特の境地というのは、他には探せないかもしれない。確かな音楽を紡ぎ出しながらも、肩の力が抜け切って、全ての瞬間がすこやかに呼吸するようなナチュラルさを以って繰り出される。そんな音楽に改めて触れると、音楽そのものの偉大さを感じるようで... またそうした音楽は、バロックにしてバロックという枠組みが消失しまっているような感覚があり、どこか浮世離れした印象を受ける。『ソロモン』は、苦悩を経て到達したアルカディアなのかも?目前となった古典主義とは違う、ヘンデルの独自の古典美を見出し、とても興味深く、何よりその達観した美しさに惹き込まれる。そうして湧き上がる、何とも言えない感動!
そこには、マクリーシュ+ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズの、本当に、本当にすばらしいパフォーマンスがあって... もう、何と言ったらいいのだろう... 彼らが紡ぎ出す『ソロモン』は、不思議なくらいにナチュラル!どうしたらこうもナチュラルに音楽と向き合えるのだろう?その演奏は、淡々と進められ、コーラスもまた、特別、インパクトを放つわけでもなく、丁寧に、ひとつひとつのナンバーを歌い上げる。そして、歌手たちもまた、同じで... となると、味気無い音楽になるのでは?と思うのだけれど、そうはならない魔法... 物語を大きく動かして行こう、なんて素振りは一切見せずに、得も言えぬ、古雅な雰囲気で全体を包み、ふわっと輝かせる。全3枚組に及ぶ巨大なオラトリオでありながら、そこから得られる充実感は、オラトリオというスタイルが生まれた頃のカリッシミの親密さに似て、おもしろい。そうしたマクリーシュの音楽性に沿った歌手たちも、タイトルロールを歌うショル(カウンターテナー)の素直な佇まいを筆頭に、それぞれに伸びやかで、瑞々しい歌声を響かせ、どこを切っても美しい表情を見せる。そうして生まれる、独特な一体感と均質さに触れれば、穏やかな心地に...
そんな、マクリーシュ+ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズによる『ソロモン』。とても印象的なのが、最後のコーラス、"The name of the wicked"(disc.3, track.22)。全3枚組、壮大なるオラトリオの締めには軽過ぎると、壮麗なる"Praise the Lord"(disc.3, track.15)と入れ替えられてしまうこともあるのだけれど、ヘンデルが作曲した通りに、軽やかに"The name of the wicked"で締めるマクリーシュ... そうすることで、バロックのお約束のナンバー、シバの女王の入城(disc.3, track.1)の軽快な音楽で幕を開ける3幕の、花やいだ気分を、最後まで持続させ、ほわんとした芳しい余韻すら残すその軽さに、納得。古雅な『ソロモン』をより一層引き立てつつ、慇懃さを巧みに避けて、魅惑的!

HANDEL: SOLOMON
PAUL McCREESH


ヘンデル : オラトリオ 『ソロモン』 HWV 67

ソロモン : アンドレアス・ショル(カウンターテナー)
王妃 : インガー・ダム・イエンセン(ソプラノ)
遊女1 : アリソン・ハグリー(ソプラノ)
遊女2 : スーザン・ビックリー(メッゾ・ソプラノ)
シバの女王 : スーザン・グリットン(ソプラノ)
大祭司、ザドク : ポール・アグニュー(テノール)
レビ人 : ピーター・ハーヴェイ(バリトン)
ポール・マクリーシュ/ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズ

ARCHIV/459 688-2




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