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ラモー前夜の充実、モンテクレール、『ジェフテ』。 [before 2005]

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さて、最初のオラトリオ、『イェフタ』に続いて、オペラ『ジェフテ』を聴いてみる。そう、同じ、旧約聖書、士師記に登場する英雄、エフタの物語によるオペラ("イェフテ"はラテン語読み、"ジェフテ"はフランス語読み... )。世俗的なのがオペラで、宗教的なのがオラトリオだったはずだけれど、その棲み分けは意外とアバウト?ちょっぴり困惑を覚えなくもないのだけれど... 一方で、オペラにもオラトリオにもなったエフタの物語の興味深さ... いや、だからこそ、オラトリオで聴くのと、オペラで聴くのでは、その差異も明らかになるかなと... ここに、オペラとオラトリオの違いが浮かび上がったら、おもしろい気がして... って、まあ、例の如くの思い付きなのだけれど...
ということで、最初のオラトリオから半世紀を経た、もうひとつのエフタの物語。ウィリアム・クリスティ率いる、レザール・フロリサンによる、バロック期、パリのオペラ座で活躍したモンテクレールのオペラ『ジェフテ』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901424)を聴く。

ざっとフランス・オペラを見渡すと、旧約聖書を題材にした作品がちらほら見つかる。サン・サーンスの『サムソンとデリラ』はもちろん、メユールの『ジョゼフ(ヨセフ)』、アレヴィの遺作をビゼーが補筆し完成させた『ノエ(ノア)』、時代を遡ると、カリッシミの弟子、シャルパンティエの『ダヴィドとジョナタス(ダビデとヨナタン)』など... こうしたオラトリオの領分へのオペラが侵入は、フランス革命後となると、ヨーロッパの様々な国へ広がるのだけれど... いち早く旧約聖書に手を付けた、リアリズムの国(だからこそ、オペラの導入が遅れた... )、フランスの感性、宗教的なものへの垣根の低さが、とても興味深く感じられる。そして、それを如実に物語る、モンテクレールの『ジョフテ』。そのプロローグ(disc.1, track.1-7)には、何とギリシアの神々が登場してしまう!
古典的なオペラの定番パターン、キリスト以前の神々や寓意的キャラたちが、これから始まる物語について、あーでもないこーでもないと対話(予告編、あるいは王室の広告... )があって本編の幕が上がる。『ジョフテ』もそうした形でのギリシアの神々の登場なのだけれど... しかし、このごたまぜ感には、ちょっと唖然。で、いいのか?!フランス・オペラの伝統であるトラジェディ・リリクの古典性の縛り、オペラはギリシア悲劇の復活という路線を律儀に踏襲したとはいえ、ギリシア悲劇という枠組みの中に、入れ子状態で旧約聖書が存在することに、教会は怒らなかったのだろうか?一方で、それをやってのけた大胆さ!それをやってしまうほどの力強いドラマを孕む旧約聖書の魅力、それを素直に捉えてオペラとしたモンテクレールにも感心させられる。前回も書いたが、エフタの物語はイドメネオの物語によく似ている。戦争の勝利の祈願に我が子を犠牲にせねばならなくなった父の苦悩... が、その結末は、バッド・エンドのエフタ、ハッピー・エンドのイドメネオ。なのだけれど、ギリシア悲劇という大枠の中にある『ジェフテ』には、ギリシア流のデウス・エクス・マキナ(神託)が登場し、ハッピー・エンド!さらに、旧約聖書の物語を大いに膨らませて、敵との許されざる恋やら、複雑な伏線が仕掛けられて、トラジェディ・リリクならではのスリリングなドラマは際立ち、カリッシミの『イェフタ』とは次元の違う、エンターテイメント性が光る。
それを実現するのが、モンテクレールの音楽!ラモーがオペラ・シーンにデビューする前年、1733年、パリ、オペラ座にて初演された『ジェフテ』。トラジェディ・リリクを切り拓いたリュリはすでに過去となり、フランスにはロココの気分が立ち込めつつあった頃、その音楽は古典の端正さとともに、ロココの芳しさ、花々しさが感じられ、思いの外、表情に富み、場合によっては、古典主義を予感させるトーンも聴こえる瞬間もあるのか... バロックとロココが絶妙に織り成されて響く音楽は、どこを切っても魅惑的。この感覚は、間違いなくフランスでしか味わえない。軽やかさと真摯なドラマの両立... そして、フランス・オペラには欠かせないバレエ・シーンの花やぎ!管弦楽曲の輝きは、ラモーに引けを取らず、『ジェフテ』組曲が編まれても良いのでは?で、そう思わせる、巧みなオーケストレーション!今、改めて聴いてみると、同時代において、抜群のセンスを見せるのかも。声やシーンに合わせての楽器のチョイスの鋭さは、感服するばかり。歌ばかりでなく、全てに聴き入ってしまう。
というモンテクレールを聴かせてくれたクリスティ+レザール・フロリサン。さすがはフランス・バロックの専門家集団。全てが手際良く展開されて、そこにふんわりとエスプリが漂い... モンテクレールが活躍した時代、太陽王の威圧的な気分は去り、宮廷から独立した音楽シーンが大きく花開いた頃のサウンドを、品良く、活き活きと響かせる。そして、瑞々しい歌声を織り成す歌手陣... ボナ(バリトン)が歌う深くも艶やかなジョフテ、その妻、アルマジーを歌うブリュア(メッゾ・ソプラノ)の温かな雰囲気、夫妻の娘、イフィーズを歌うダヌマン(ソプラノ)の可憐さ... それぞれのトーンは映え、ドラマがナチュラルに息衝くのが印象的。それから、レザール・フロリサンのコーラス部隊!そのやわらかなハーモニーと、ドラマを引き締める力強さ、巧みに硬軟使い分けて、エフタの物語を盛り上げる... で、全てが相俟って生まれる程好いエンターテイメント感!旧約聖書の重々しさを忘れ、ドラマに入り込めるこの感覚が新鮮で、おもしろい。

Montéclair ・ Jephté ・ William Christie

モンテクレール : オペラ 『ジェフテ』

ジェフテ : ジャック・ボナ(バリトン-バス)
イフィーズ : ソフィー・ダヌマン(ソプラノ)
アルマジー/ヴェニュス : クレール・ブリュア(ソプラノ)
フィネ/アポロン : ニコラ・リヴァンク(バス)
アモン : マーク・パドモア(テノール)
アブドン : ベルナール・ローネン(テノール)
アブネ : ジャン・クロード・サラゴス(バス)
ポリムニ/イスラエル人 : シルヴィアーヌ・ピトゥール(ソプラノ)
テルプシコール : シルヴィ・コラ(ソプラノ)
マスファの住人/羊飼い/真実 : マリ・サン・パレ(ソプラノ)
マスファの住人 : フランソワ・バゾラ(バス)
ヘブライ人 : パトリック・フシェ(テノール)
イスラエル人 : エマニュエル・ガル(ソプラノ)
エリゼ : アンヌ・ピシャール(ソプラノ)

ウィリアム・クリスティ/レザール・フロリサン

harmonia mundi FRANCE/HMC 901424




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