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最初のオラトリオの親密感、カリッシミ、『イェフタ』。 [before 2005]

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ここで、オラトリオとは何か、おさらいです。
オーケストラを伴う声楽による規模の大きな劇的な音楽である。よって、オペラと共通点が多い。が、世俗的なオペラに対して、宗教的な題材を扱うのがオラトリオ。一方、オペラとの最も大きな違いは、舞台上で演技をしないこと... ま、今さらの話しかもしれないのだけれど、改めて見つめてみると、そうだったなと、再確認させられる。というのも、ここまで聴いて来た旧約聖書を素材とする音楽は、オペラ的なオラトリオだったり、オラトリオ的なオペラだったり、惑わされることが多くて... そこで、最初のオラトリオに立ち返ってみることに。
コンラート・ユングヘーネル率いる、ドイツの古楽アンサンブル、カントゥス・ケルンの歌と演奏で、厳密な意味での最初の「オラトリオ」だったのではないかと考えられている、カリッシミのオラトリオ『イェフタ』(deutsche harmonia mundi/05472 77322 2)を聴く。

16世紀半ば、対抗宗教改革の時代、フィリッポ・ネーリ(1515-95)が始めた一般信徒のための祈禱会に端を発する「オラトリオ」。その祈禱会で上演されただろう、カヴァリエーリの『魂と肉体の劇』(ネーリが活動の拠点としたローマのサンタ・マリア・イン・ヴァッリチェッラ教会にて、1600年に初演される... )が、最初のオラトリオとされることもあるのだけれど、厳密な意味で「オラトリオ」という形式が確立されるのは、それから半世紀を経た後... 聖書をよりわかり易く信者に読み下す祈禱会において用いられた音楽を、ひとつにまとめたものが「オラトリオ」という形式に辿り着く。つまり、祈禱会というものがあって、初めてオラトリオは存在したわけだ。そう言う点で、ルター派の教会カンタータ(バッハが膨大な数を残した... )と符合するのかも。そして、1645年頃の作曲と思われる、「オラトリオ」という形式による最初の作品、カリッシミ(1605-74)の『イェフタ』(track.1-5)...
旧約聖書の士師記に登場する、アンモン人に勝利した英雄、エフタの、勝利の後に訪れる悲劇を描くのだけれど、どこか『イドメネオ』に似ている?アンモン人に勝利するため、帰郷後、最初に出迎えた人物を神の犠牲に捧げると約束したエフタ、その人物がひとり娘だった... 勝利の喜びに始まって、哀しみへと暗転する物語を、カリッシミは通奏低音と6人の歌手のみでつつましやかに音楽とする。これが祈禱会の雰囲気だったのだろう。後のオラトリオにはない楚々とした佇まいが、思いの外、印象的。で、この楚々とした中に、くっきりと浮かび上がる苦悩、哀しみ...初期バロックならではのレチタール・カンタンド(語りながら歌う... )がインパクトを放ち、ドラマとしての力強さも見せる。一方、最後の美しい哀歌(track.5)では、ルネサンス・ポリフォニーへと立ち返るようなところがあって、アルカイック。哀しくも、そのやわらかな響きに、どこか悲劇は癒されて、やさしさが広がる。
さて、カリッシミの後で取り上げられるのが、カリッシミと同時代にローマで活躍したマラッツォーリ(ca.1608-62)の2つのオラトリオ、『聖トマス』(track.6-12)と、『復活の日のために』(track.13-17)。カリッシミに比べるとよりメロディアスで、初期バロックを脱しつつある音楽が興味深い。規模こそカリッシミと変わりない(場合によってはひとり少ない... )のだけれど、次なる時代のレチタティーヴォとアリアという形が聴こえて来て、音楽的な華麗さが際立つのか。カリッシミが『イェフタ』を生み出してそう時間を経ていないはずの2つのオラトリオは、アルカイックなカリッシミと絶妙なコントラストを描き出す。一方で、ドラマとして進行する『イェフタ』(track.1-5)、『聖トマス』(track.6-12)に対し、復活祭を迎える喜びそのものを歌う『復活祭のために』(track.13-17)の在り方がおもしろい。それは、祈禱会の原点を思わせて、ひとところに集い、みんなで歌う感覚が、何とも言えず微笑ましく、ドラマ性を持たないがゆえの朗らかさが、また一味違う魅力を聴かせてくれる。
そんな、オラトリオの黎明期をナチュラルに聴かせてくれたユングヘーネル+カントゥス・ケルン。まず、歌手、ひとりひとりの、伸びやかな歌声がすばらしく、そうして編まれるアンサンブルは澄み切っていて、爽やか!で、ありながら、温もりも漂い、聴き入ってしまう。そこに、そっと寄り添うユングーネルのリュートを中心に組まれた通奏低音の存在感!あくまで裏方でありながら、声にそこはかとなく絡む響きの美しさ... 歌だけでなく、器楽が加わってこそ、温もりが際立つ絶妙さに感服させられる。いや、これこそがカントゥス・ケルン!彼らならではのトーンが、オラトリオの黎明期の楚々とした雰囲気をふわっと膨らませ、心地良く聴く者を包みこむ。で、この空気感が祈禱会だったのかな?と、思いを馳せる。

CARISSIMI : JEPHTE / MARAZZOLI : SAN TOMASO & PER Il GIORNO DI RESURRETTIONE
KONRAD JUNGHÄNEL ‎・ CANTUS CÖLLN

カリッシミ : オラトリオ 『イェフタ』
マラッツォーリ : オラトリオ 『聖トマス』
マラッツォーリ : オラトリオ 『復活の日のために』

コンラート・ユングヘーネル/カントゥス・ケルン

deutsche harmonia mundi/05472 77322 2




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