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テレビの時代のストラヴィンスキー、その冷めたサウンド... [before 2005]

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どこにも行かない予定が、連休初日、うっかり出掛けてしまう。でもって、人間の洪水の中で溺れることに... 考えが甘かったか... けれど、連休ならではの高揚感がそこはかとなく漂う道中。電車の中や駅、街並みを遠目に見ていると、何だかハッピーな心地がして来た。5月の陽気がそうさせるのか?単に能天気なだけなのか?もちろん、家に帰ればグッタリなのだけれど、何だかんだ、「黄金週間」なんだなと... 一方で、家の周囲は静か!この静けさもまた「黄金週間」の醍醐味。留まることで味わう密やかな贅沢かなと...
さて、家で、黄金"音楽"週間。で、旧約聖書!『天地創造』『失楽園』『カイン... 』に続いて、ノア!作曲家にして指揮者、オリヴァー・ナッセンが率いた、イギリスの近現代音楽のスペシャリスト集団、ロンドン・シンフォニエッタによる、ストラヴィンスキーの音楽劇『洪水』(Deutsche Grammophon/447 068-2)を中心に、ストラヴィンスキーの晩年の作品を聴く。

この間、MTT+サンフランシスコ響の『火の鳥』、『春の祭典』、『ペルセフォーヌ』の3枚組を聴いたのだけれど、そこで取り上げられたのは、第2次大戦前のストラヴィンスキーの変遷... そして、ナッセンが取り上げるのは、第2次大戦後、戦後「前衛」の真っ只中に置かれた、モダニスムの巨匠のさらなる変遷... その1曲目が、1961年から翌年に掛けて作曲された音楽劇『洪水』(track.1-7)。テレビのために作曲された作品というから、時代を強く感じさせられる。で、語りと歌によるノアの物語(テレビでは、バランシンの振付によるダンスも... )は、ストラヴィンスキーらしいドライ(題材は洪水だけれど... )なトーンに彩られつつ、戦後「前衛」を意識させるアブストラクト感を漂わせながら、独特な感触を聴く者にもたらす。未曾有の災害と、それを乗り越える驚くべき方舟が登場する、旧約聖書の中でも最高にスペクタキュラーな場面を、奇妙なくらいに冷めた視線で捉える、テレビの時代のストラヴィンスキー。バレエ・リュスの時代、『火の鳥』のエモーショナルさ、『春の祭典』のパワフルさが遠い記憶となったことを思い知らされるサウンドには、どこか痛々しさすら覚えるのだけれど、その痛々しさこそが20世紀後半の世の中を象徴するようでもあり... 近代科学を前にすっかり色褪せてしまった旧約聖書の世界をアイロニカルに描き出すのか?また、そうしたあたりを飄々と音にして生まれる不思議な味わいが後を引く。
そして、『洪水』の後には、バリトンと室内オーケストラのための聖なるバラード『アブラハムとイサク』(track.8-10)、管弦楽のための変奏曲(track.11)、レクイエム・カンティクルス(track.12-20)と、1960年代の作品が年代順に並び、ストラヴィンスキーの晩年の姿が詳らかにされる。時代に取り残されまいと、何にでも喰らえ付くような肉食な姿勢と、それとは裏腹に冷めてゆくサウンドの妙。まるで、近代音楽が砕け散った残骸を見るようで、何とも言えぬカタストロフすら感じる。戦後「前衛」の先端を突っ走っていた、同時代の"ゲンダイオンガク"の担い手たちとは明らかに違う温度感を持った音楽... 戦後「前衛」が前衛ではなくなり、"ゲンダイオンガク"が過去となった今から振り返る晩年のストラヴィンスキーというのは、かえって尖がった印象をもたらすのかもしれない。バレエ・リュスの時代とはまったく異なりながら、負けていない、テレビの時代のストラヴィンスキーの存在感。『洪水』と、それに続く1960年代の作品を改めて聴いてみると、三大バレエ(バレエ・リュスの時代)ばかりではない、カメレオン作曲家、ストラヴィンスキーの、それぞれの時代のおもしろさを噛み締めることに...
さて、ストラヴィンスキーの1960年代の作品の後に取り上げられるのが、ストラヴィンスキーの死の4年後、1975年、ウォリネン(b.1938)により、遺作のスケッチの数々をまとめ、オーケストレーションされたイーゴル・ストラヴィンスキーの聖遺物箱(track.21-26)。それはまるで、ストラヴィンスキーの亡霊に出会うようなおもしろさがあり、亡霊となってなお、同時代への肉食な姿勢を見せるような... それでいて、同時代から解き放たれ、バレエ・リュスの時代のエネルギーを取り戻したかのような力強さを見せ、魅惑的ですらある。いや、ストラヴィンスキーが1970年代まで生きていたなら、90代となったモダニスムの巨人だったなら、こういう境地に至っていたのではないだろうか?と思わせる、ウォリネンの音楽に、感慨が滲む。
という、ストラヴィンスキーの1960年代と、1970年代だったかもしれない音楽を聴かせてくれた、ナッセン... まず、その視点に脱帽!律儀に年代順に並べられたストラヴィンスキーの晩年の作品は、とても新鮮に感じられ、またそこに、20世紀後半の音楽の様子が窺えるようで、おもしろい。そして、作曲家、ナッセンならではのスコアの鋭い読み... パラパラと散らばったかのような音符をしっかりと結び、さらりと息衝かせる。そこに、ロンドン・シンフォニエッタの堂々たる演奏!「室内」という規模を凌駕する聴き応えは、メンバーひとりひとりのポテンシャルの高さ... でもって、ストラヴィンスキーのドライなあたりを瑞々しく響かせ、味わいを生む... 何と魅力的なのだろう!思わず、惹き込まれてしまう。

STRAVINSKY: THE FLOOD, ETC
LONDON SINFONIETTA/KNUSSEN


ストラヴィンスキー : 音楽劇 『洪水』 *

ルシファー/呼び出し役 : ピーター・ホール(テノール/語り)
神/ノアの息子たち : デイヴィッド・ウィルソン・ジョンソン(バス)
神/ノアの息子たち : スティーヴン・リチャードソン(バス)
ナレーター : マイケル・バークリー(語り)
ノア : バーナード・ジェイコブソン(語り)
ノアの妻 : ルーシー・シェルトン(語り)

ストラヴィンスキー :『アブラハムとイサク』 〔バリトンと室内オーケストラのための聖なるバラード〕 *
ストラヴィンスキー : 管弦楽のための変奏曲
ストラヴィンスキー : レクイエム・カンティクルス 〔アルトとバス、コーラスとオーケストラのための〕 ***
ウォリネン : イーゴル・ストラヴィンスキーの聖遺物箱

オリヴァー・ナッセン/ロンドン・シンフォニエッタ
スーザン・ビックリー(アルト) *
デイヴィッド・ウィルソン・ジョンソン(バス) *
ニュー・ロンドン室内合唱団 *

Deutsche Grammophon/447 068-2




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