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アレッサンドロ・スカルラッティ... カイン、あるいは、最初の殺人... [before 2005]

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気が付いたら5月。でもって連休に突入。とはいえ、何をするでもなく、毎年恒例、家で黄金"音楽"週間なのだけれど... で、今年は旧約聖書特集!ハイドンの『天地創造』に始まり、前回、マルケヴィチの『失楽園』を聴いての、その続き... 天地創造の最後につくられたアダム夫妻が悪魔(マルケヴィチ版は、蛇じゃなくてサタン... )に引っ掛かってしまって楽園から去り、その後のアダムさん一家がどうなったのか、というあたりを追う、アレッサンドロ・スカルラッティの『カイン... 』。古典派、近代音楽からのバロックによる旧約聖書!
ルネ・ヤーコプスの指揮、ベルリン古楽アカデミーの演奏、ベルナルダ・フィンク(アルト)のタイトルロールによる、アレッサンドロ・スカルラッティのオラトリオ『カイン、あるいは、最初の殺人』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901649)を聴く。

オラトリオの源流は、ルネサンスの終わり、ローマにおける対抗宗教改革の一環として、フィリッポ・ネーリ(1515-1595)による一般信徒のための祈禱会に求められる。そもそも「オラトリオ」とは祈禱室の意味で、そこに集い、改めて聖書の言葉をより広く一般信徒に伝えよう、そのために音楽を用いよう、というのが当初の姿だった。が、やがて、初期バロックの時代となり、音楽形式としてのオラトリオ(カリッシミにより1650年頃の作曲された『イェフタ』が厳密な意味での最初のオラトリオと考えられている... )の形が整えられると、次第に祈禱会の枠を越え、音楽として発展。やがて、オペラに対抗するような華麗さを纏い、オペラが禁止されたこともあった聖都、ローマの音楽シーンに欠かせないものとなる。そんなローマで研鑽を積んだ、ナポリ楽派の巨匠、アレッサンドロ・スカルラッティ... 多くのオラトリオをローマのためにも作曲しているのだけれど、ここで聴く『カイン、最初の殺人』は、1707年、ヴェネツィアを訪れていた時の作品(ローマのオットボーニ枢機卿の楽長を務めていたアレッサンドロだったが、枢機卿と関係がこじれ、新たなポストを求めローマを離れる... )。だからか、よりオペラ風?
前奏曲にあたるイントロドゥツィオーネ(disc.1, track.1-3)から劇的... 啓示的なフレーズを奏でるヴァイオリン・ソロに導かれて、ヴィヴァルディ風のアグレッシヴな音楽を繰り出すオーケストラ、もうのっけから惹き込まれる。続く、アダムのレチタティーヴォとアリア(disc.1, track.4, 5)は、オペラと言われればそのまま通ってしまいそうな体温を孕み... カリッシミのストイックな音楽を振り返れば、半世紀でこうも劇的に進化したかと、オラトリオを取り巻くシーンの変化に興味深いものを感じる。その後も、表情豊かなレチタティーヴォ、アリア、重唱が続き、ヴェネツィア流なのか艶っぽさすら漂うところもあり、旧約聖書であることを忘れてしまうほど... こうして、人類史上初の殺人へと至る過程が第1部(disc.1)で描かれ、これがまたオペラ的な展開で、おもしろい。
そして、第2部(disc.2)の始まり、その時がやって来る!アベルを呼び出したカインの憂いに充ちたアリア(disc.2, track.2)から、その前で寝入ってしまうアベルの様子を捉えた美しいレチタティーヴォ(disc.2, track.4)を聴いて、カインが凶行に及ぶ!すると、力強い音楽(disc.2, track.6)が鳴り響き、これぞバロック!というような、荒ぶる展開に目が覚める思い。間もなく、オルガンを伴奏に、神々しく神の声(disc.2, track.7)が聴こえて来て... いやー、神様の登場がカッコいい!しかし、より魅惑的だったりするのが悪魔!カストラート全盛期のバロックらしい、オラトリオ全体が高音に彩られる中(この録音では、カインもアベルも女声により歌われる... )、ひと際渋く、艶っぽくすらあるバスによる悪魔の声に聴き入ってしまう。それでいて、神の声と対を成すような、やはり印象的なその登場(disc.2, track.16)。続く、胸空くようなテンションの高いアリア(disc.2, track.17)があり、神の声よりもカッコよかったりするから刺激的。この捻じれ感が、ヴェネツィアっぽさか?
で、そうしたあたりを引き出すのが巧い、ヤーコプス!硬質にも感じられるバロックだけれど、ベルリン古楽アカデミーを巧みにドライヴし、アレッサンドロの音楽を、そこはかとなく息衝かせる。一方で、バロックならではのコントラストを鋭く浮かび上がらせて、カインとアベルの物語のサスペンスなあたりも盛り上げる。そんなヤーコプスらしいドラマ作りに欠かせないのが、ピリオドで活躍する手堅い歌手陣。特に、カインを歌うフィンク(アルト)の深い歌声、純真無垢の象徴のようなアベルを歌うオッドーネ(ソプラノ)の透き通った歌声は印象的。他にも、クロフト(テノール)の明朗なアダム、アベーテ(バス)の悩ましげな悪魔の声と、キャラも立ち、ドラマの密度を増す。だからこそ、オペラのようなのか?しかし、バロックというフィルターで聴く、旧約聖書のドラマティックなこと!ヤーコプスの音楽性もあって、聴き入ってしまう。

ALESSANDRO SCARLATTI
Il primo omicidio


アレッサンドロ・スカルラッティ : オラトリオ 『カイン、あるいは、最初の殺人』

カイン : ベルナルダ・フィンク(アルト)
アベル : グラシエラ・オッドーネ(ソプラノ)
イヴ : ドロテア・レシュマン(ソプラノ)
アダム : リチャード・クロフト(テノール)
神の声 : ルネ・ヤーコプス(カウンターテナー)
悪魔の声 : アントニオ・アベーテ(バス)
ルネ・ヤーコプス/ベルリン古楽アカデミー

harmonia mundi FRANCE/HMC 901649




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