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天地を創造することは、ワクワクすること、ハイドン! [before 2005]

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この間、興味本位で、アロノフスキー監督の映画『ノア 約束の方舟』を見る。地球を覆う大洪水に、様々な種を救う巨大な方舟、このSFスペクタキュラーなヴィジュアルをどう描くのか?興味津々じゃあないですか。で、21世紀版、ノアの物語は、やっぱりSFっぽいところが散見され... いや、もうマーベル風なところまであって... ラジー賞にノミネートされたらしいのだけれど、ウンウン、わかる。それ以上に、旧約聖書の一部を改変したことが賛否を呼び、アメリカでは教会を巻き込んで喧々囂々だったらしい。が、興行的には大成功!振り返ると、これほどのスケールの物語、なかなか他に探せない。だからこそ、ハリウッドは旧約聖書が好き!様々な逸話が幾度も映画化されている裏には、アメリカの保守性だけではない、旧約聖書そのもののおもしろさがあるように感じる。そして、クラシックもまた、旧約聖書が好き!ということで、旧約聖書の世界を音楽で冒険してみようかなと...
で、まずは、その全ての始まり。ジョン・エリオット・ガーディナー率いる、イングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏、モンテヴェルディ合唱団、シルヴィア・クマネアー(ソプラノ)らの歌で、ハイドンのオラトリオ『天地創造』(ARCHIV/449 217-2)を聴く。

ビッグバンの痕跡を探そうという時代に、世界が7日でできたなんて、もはやお伽噺だけれど... 逆に、この世界を7日で創り上げ得るならば、それは、まさに、神の御業!恐ろしくSFスペクタキュラーなことだ。そして、この7日間を音楽で描き出そうという行為は、ある意味、創造主の仕事を追体験するものなのかも... 改めてハイドンのオラトリオ『天地創造』を聴いてみると、そんな風に感じる。スコア上で神の御業をなぞったハイドン、その仕事はエキサイティングなものではなかっただろうか?無から世界を生み出す... 現代人がシュミレーション・ゲームに興じるような感覚に似ている?オラトリオ『天地創造』から聴こえて来る音楽は、旧約聖書の重々しさよりも、世界を生み出すワクワクした気分に包まれている。18世紀、啓蒙主義が開明的な世界観を人々にもたらした時代、時代の気分を象徴する古典主義の音楽の明快さが、世界の創造を楽観的に捉えるおもしろさ!
世界の創造、第1日、混沌に光が差す瞬間(disc.1, track.2)の輝かしさは、始まりにしてこのオラトリオの山場... ビッグバンの一撃を捉えるような劇的にして鮮烈な展開は、音楽史上、最も印象的な場面ではないだろうか。しかし、のっけからいきなりのクライマックス!その後は、何とものどかな6日間が続くことに... そして、こののどやかさが、ハイドン流の世界の創造。ひとつひとつのナンバーが、活き活きと歌われ、旧約聖書を特別視しない。神の御業をヒューマン・スケールに落とし込んで、我々が日々生きる世界へのポジティヴな賛歌とするかのよう。そういう音楽を聴いていると、『天地創造』の大成功(1798)から間もなく作曲されるオラトリオ『四季』(1800)への流れが、もの凄くしっくり来る気がする。ずばり宗教の『天地創造』に対し、世俗的な『四季』は、初演当時、賛否を呼び、現在に至っても、『天地創造』の影に隠れがちではあるけれど、『天地創造』をつぶさに聴いてみると、『四季』は『天地創造』に欠かせない作品に思えて来る。『天地創造』の帰結がのどかな農村を描く『四季』... 『天地創造』がハイドンの旧約聖書ならば、『四季』は新約聖書?ここにハイドンが生きた時代の気分を見出すよう。そして、21世紀からその気分を追体験すれば、もの凄く癒されてしまう。シチュエイションこそ異なるものの、昔も今も、生きることへの厳しさはそう変わらないはず... だが、昔の方がその厳しさへの向き合い方がポジティヴだったかもしれない。失楽園以前(『天地創造』)も、以後(『四季』)も、変わらず活き活きと響かせたハイドンの音楽に触れると、ちょっと考えさせられる。それでいて、ハッピーな古典主義の音楽に、改めて魅了されることに...
さて、ガーディナー+イングリッシュ・バロック・ソロイスツによる演奏なのだけれど、いやー、見事に端正!イギリスのピリオドならではというのか、きちっとしたサウンドが、絶妙にハイドンの古典主義にフィットして、気持ちいいくらい。そもそも、イギリスからの委嘱で生まれたオラトリオであり、イギリス贔屓のハイドンであって、両者の親和性が、時代を経て、共感を以って紡ぎ出されるフレッシュさ!そこに、端正でありながらもキャラの立った歌手たちのすばらしい歌声が乗り... 天使、ガブリエルを歌うマクネアー(ソプラノ)のエアリーさは、まさに天使!「光あれ」を厳かに伝える天使、ラファエルを歌うフィンリー(バリトン)の深くも瑞々しい表情、天使、ウリエルを歌うシャーデ(テノール)の明快さは、まさに古典主義で... ギルフリー(バス)のアダムと、ブラウン(ソプラノ)のエヴァが紡ぎ出すラヴリーさは、18世紀のブッファの色合いを滲ませ、素敵。忘れてならないのが、モンテヴェルディ合唱団のクリアかつ活きのいいコーラス!それら全てが相俟って、活き活きと音楽が動き出し、旧約聖書の仰々しさは振り払われ、キャッチーに世界の創造を描き出す大胆さ... 端正であればあるほど、人間味が増すおもしろさ... 久々に聴いてみると、何だかもの凄く楽しい!

HAYDN: DIE SCHÖPFUNG
JOHN ELIOT GARDINER


ハイドン : オラトリオ 『天地創造』 Hob.XXI:2

ガブリエル : シルヴィア・マクネアー(ソプラノ)
エヴァ : ドナ・ブラウン(ソプラノ)
ウリエル : ミヒャエル・シャーデ(テノール)
ラファエル : ジェラルド・フィンリー(バリトン)
アダム : ロドニー・ギルフリー(バス)
モンテヴェルディ合唱団
ジョン・エリオット・ガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

ARCHIV/449 217-2




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