SSブログ

21世紀のロマン主義は無重力!ジンマンのシューマン... [before 2005]

82876577432.jpg
何だか雨が続いてしまって、「春」を満喫できない、この春。ならば、音楽で「春」を聴く?「春の歩み」に始まって、春の交響曲『春の祭典』と来ての、モーツァルトの「春」!タイトルからの「春」尽くし... 「春」という文字から想起される、それぞれの作曲家による多様なイメージは、かなりの幅があって、おもしろい。また、その捉え方も、映像的なケクランに、散文的なブリテン、原始を描き出すストラヴィンスキー、存在そのものが春めいているモーツァルトまで、時代性や地域性を反映して、興味深いヴァリエイションを見せる。「春」という切り口から浮かび上がる、クラシックの諸相... これだから、興味が尽きない。そして、もうひとつ、シューマンの「春」!
ベーレンライター版、ベートーヴェンでブレイクし、以後、ドイツ・ロマン主義を屈託無く、爽快と切り捌いて驚かせた、デイヴィッド・ジンマンとチューリヒ・トーンハレ管弦楽団による、シューマンの1番の交響曲、「春」(ARTE NOVA/82876 57743 2)を聴く。

まさに、21世紀的な存在だと思う、ジンマン、チューリヒ・トーンハレ管。歴史の重みがずしりと圧し掛かるクラシックに在って、そういう重みをかわしてしまう身軽さというのか... ニューヨーク生まれのジンマンの、アメリカならではの捉われない明快なセンスが、モダンとピリオドのハイブリットをさらりとやってこなしたチューリヒ・トーンハレ管にケミストリーを起こす... 今となっては、ベーレンライター版はもちろん、モダンとピリオドのハイブリットも、驚くものではないけれど、彼らが切り拓いたシンフォニック・オーケストラの在り様というのは、賛否を巻き起こしつつ、21世紀という新しい世紀を生きるクラシックの新しい形を見せてくれたような気がする。が、そのジンマンも、昨年、チューリヒ・トーンハレ管から離任... 嗚呼、ひとつの時代が終わったんだなと、寂しさを覚える。が、気が付けば21世紀も15年目、もはや「新世紀」の真新しさはなく、21世紀も常態に...
そういうところから振り返る、ジンマン、チューリヒ・トーンハレ管によるシューマン。まずは、その、1番、「春」(disc.1, track.1-4)なのだけれど、いやー、まさに春!なんと軽やかな!ジンマンならではのクリアさと、そこに春の息吹を吹き込むような、活き活きとした音楽作りがあって、全体が、ぱっと明るくなり... すると、ドイツ・ロマン主義がまだ若かった時代の瑞々しさを存分に引き立てて、春の浮き立つような気分をこれ以上なく響かせる。それでいて、ピリオドの不器用なサウンドが絶妙なスパイスを効かせつつ、モダンのハイテクさが淀みなく、というより、まるで風が吹き抜けるように音楽をさーっと運ぶ。何だろう?この感覚... 「シューマン」だとか、「交響曲」だとか、「クラシック」だとか、つまらない理屈は全て落ち切って、ただひたすらに音楽の楽しさが繰り出されるのか。音楽史やアカデミズムという重力から解き放たれて生まれる感覚が、得も言えず心地良い!
で、この心地良さは、1番、「春」の後も続き... シューマンの交響曲、全4曲を2枚組で網羅して、一気に聴かせるジンマン、チューリヒ・トーンハレ管。この"一気"の感覚が、彼らの全集を希有なものとしている。1番、「春」のみならず、何物にも捉われない、飄々とマイペースを貫く演奏は、音楽の楽しみにピュアに向き合うようであり、どこか無心?この独特な境地が"一気"を加速させ... 交響曲、4曲ともなれば、相当にヘヴィーなはずが、あっという間に聴けてしまうからおもしろい。そうした中で、特に印象に残るのが、3番、「ライン」(disc.2, track.1-5)。ドイツの歴史、文化を受けて滔々と流れるはずの大河が、リズミカルに軽快に流れて... まるで、マンガでライン下りを読むようなキャッチーさ!重力から解き放たれたとはいえ、こうもライトに仕上がってしまっていいものだろうか?と、思いつつ、いや、これこそが21世紀流なのだなと... まさに現代っ子感覚!クラシックという仰々しい額縁を外してしまえば、現代人として、より共感できるシューマンの姿を見出せた気がする。
そんな、ジンマン、チューリヒ・トーンハレ管によるシューマンの交響曲全集は、2003年の録音。リリースされた時は、とにかく斬新で、新しいドイツ・ロマン主義の音楽像に強く惹き付けられたのだけれど、ゼロ年代を経て、今、改めて聴いてみると、独特のチープさが漂う... クラシックという高尚な世界から、もっと気安い次元に下りて来て、さくっと響かせてしまう交響曲。ピリオドとモダンのハイブリットによるサウンドも、どっちつかずの中途半端さを覚えなくも無く... けれど、「さくっ」と「中途半端」から繰り出されるチープは、思い掛けない味わい生み、いつの間にやら魅惑的。ふと考えれば、ドイツ・ロマン主義の味わいとは、そういうものだったのでは?18世紀、いとも端正な古典主義を、19世紀、ドレス・ダウンしたものがロマン主義... ならば、ジンマン、チューリヒ・トーンハレ管によるチープなシューマンは、正解なのかも。

Robert Schumann Symphonies 1-4

シューマン : 交響曲 第1番 変ロ長調 Op.38 「春」
シューマン : 交響曲 第2番 ハ長調 Op.61
1010.gif
シューマン : 交響曲 第3番 変ホ長調 Op.97 「ライン」
シューマン : 交響曲 第4番 ニ短調 Op.120

デイヴィッド・ジンマン/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団

ARTE NOVA/82876 57743 2




nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。