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モーツァルト、弦楽四重奏で紡ぎ出す「春」は、濃密... [before 2005]

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金曜の夜中、何となく録画しておいた、『恋するふたりの文学講座』という映画を見る。で、びっくりするような台詞に遭遇する。「クラシックは私の生活の質を上げたわ... 」、えっ?クラシック?!本当に?ちょっと衝撃的な発言。で、『コジ... 』の有名な三重唱を聴きながら街を歩くと、「なぜか周囲の人がみんな、突然、魅力的に見えるのよ... 」。いや、わかるような気がする。あの三重唱は間違いなく魔法めいているし... というより、我らがクラシック、オハイオの女子大生(エリザベス・オルセン演じるその台詞の主、ビジー... )の生活の質を上げるだなんて!褒められることに慣れていないものだから、もう、嬉しいやら、気恥しいやら。いや、嗜好品としてのクラシックではなく、実際的な音楽としてのクラシックを今こそ考えなくてはいけないように感じた金曜の夜中...
は、さて置き、久々にモーツァルトが聴きたくなってしまう。そこで、今の季節にぴったり、モーツァルトの「春」!ピリオドを代表する弦楽四重奏団、モザイク四重奏団の演奏で、モーツァルトの弦楽四重奏曲、第14番、「春」と、第15番(ASTRÉE/E 8843)を聴く。

20世紀の「春」が続いた後で聴く、18世紀の「春」は、何だか解き放たれるかのよう!近代音楽に比べ、古典主義の音楽の良い意味でのシンプルさが、得も言えぬ軽さを生み、そのふわっとしたエアリーさに、より「春」を感じてしまう。そして、モーツァルトに還って来たァ。と、妙に安堵感を覚えてしまう。振り返ってみると、昨年の3月、オペラ『ポント王のミトリダーテ』を聴いて以来のモーツァルト。だからか、モーツァルトのやさしく、やわらかな表情が、ことさら沁み入るようで、モーツァルトっていいなァ。と、いつも以上に思えるのかも... そんなモーツァルトの弦楽四重奏曲、14番(track.1-4)と15番(track.5-8)を聴くのだけれど...
まずは、14番、「春」!出版(1785)された際の、弦楽四重奏の先駆者、ハイドンへの献辞により「ハイドン・セット」として知られる14番から19番までの6曲の弦楽四重奏曲集の最初の作品。ザルツブルク大司教の下から去り、フリーとしてウィーンで活躍を始めた翌年、1782年に作曲された、26歳の若きモーツァルトの力作。いや、モーツァルトにとっても春だったのだろう、フリーとなった解放感のようなものが端々からこぼれ出す。で、まず耳を奪われるのは、そのメロディアスさ... 古典派らしい軽やかさがありつつも、モーツァルトにしてはより強くメロディーを歌い上げるあたりに、古典派の枠を越えるような感覚も見出せるのか?キャッチーで、時折、フォークロワが滲むようなメロディーにはシューベルトを予感させつつ、そのメロディーを軸に存在感のあるサウンドを編めばベートーヴェンのように雄弁... 「ハイドン・セット」とは言うものの、間違いなくハイドンの先がその視野に捉えられている!改めて14番、「春」(track.1-4)を聴いてみると、もの凄く興味深いものを感じる。
続く、15番(track.5-8)は、14番、「春」の翌年に作曲された作品。で、23番まであるモーツァルトの弦楽四重奏曲の、2つしかない短調による作品のひとつ。で、この短調の仄暗さが、この作品の性格を決定付けている。もちろん、モーツァルトらしく、ただ仄暗いだけではない、明と暗が繊細にうつろい、次々と表情を変え、魅惑的。それがまた推進力となり、古典主義を脱するドラマティックさを見せるのか。場合によっては、ロマン主義的な濃さすら聴こえて来て、はっとさせられもする。特に、終楽章(track.8)の悲しげなテーマが変奏されてゆく姿は、シューベルトを聴くよう。そして、変奏は次第に厭世的な気分を纏い始めると、ベートーヴェンの晩年を聴くよう。いや、ウィーンの音楽の系譜を、こうも明確にモーツァルトから感じるとは!弦楽四重奏という切り詰められたフォーマットから紡ぎ出される音楽だからこそ、浮かび上がるものもあるのかも。
そんなモーツァルトを聴かせてくれた、モザイク四重奏団。ピリオドらしい見通しの良さを確保しながら、ピリオドらしからぬ豊潤さも響かせるおもしろさ!ひとつのひとつの楽器が、思いの外、雄弁に奏でられ、それらが絶妙に綾なし、よりスケールの大きな音楽が紡ぎ出される。弦楽四重奏でありながら、交響曲のような密度を引き出し、2作品とも30分を越える大作ということもあって、その聴き応えが凄い。だからこそ、19世紀の音楽のように聴こえて来るのか... 何か、普段は天使のように浮世離れしているモーツァルトから、人間臭さ(というのが、ロマン主義っぽさかなと... )も引き出して、強く引き込まれる。かと思うと、古典派らしいすっきりとした明朗さも繰り出して、一筋縄では行かない。つまり、モーツァルトの多層性の全てを見事に鳴らし切っている?ひとつの形容詞では表現し切れないサウンドをナチュラルに編んで来る器用さ!改めてモーツァルトのただならなさを再確認しつつ、モザイク四重奏団の演奏にも感服させられる。

MOZART Quatuors K 387 & 421 Quatuor Mosaïques

モーツァルト : 弦楽四重奏曲 第14番 ト長調 K.387 「春」
モーツァルト : 弦楽四重奏曲 第15番 ニ短調 K.421

モザイク四重奏団
エーリッヒ・ヘーバルト(ヴァイオリン)
アンドレア・ビショフ(ヴァイオリン)
アニタ・ミッテラー(ヴィオラ)
クリストフ・コワン(チェロ)

ASTRÉE/E 8843


そうそう、映画『恋するふたりの文学講座』なのだけれど... ザック・エフロンが『コジ... 』のドン・アルフォンソみたいなキャラ、ナットで登場するのが、おもしろい... けど、全体としては、不器用インテリのための無難な道の進め... そんな感じでして、「無難」というのが妙にリアリティを欠くのだよね。ウーン。クラシックに関しての考察は、なかなか新鮮だったけれど...




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