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20世紀の春、モダニスムの祭典、ストラヴィンスキーの道程。 [before 2005]

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ここのところ、「旬」という言葉の存在感が増しているような気がする。季節に抗うことなく、そのうつろいこそを味わう... またそれが最も美味しいという事実... 近代社会が切り捨てて来た感覚だが、そこにこそ本来の日本の姿があるわけで、「旬」を巡る現代日本の変化をつぶさに見つめると、感慨深い。さて、クラシックにも「旬」という感覚を見出せたら(もちろん、第九という強烈な「旬」が存在するのだけれど、それはひとまず置いといて... )、どうだろう?何か、これまでとは違う聴き方、感覚が生まれるような気がして。いや、この春、フランス音楽をたっぷりと聴いてみて、そんなことを考えた。フランスが春の「旬」なのかは、大いに議論の余地があるのだけれど、春として聴いてみたフランス音楽は、また新鮮で、よりその魅力を味わえたように感じた。
で、そんなフランスの「春の歩み」から、イギリスの春の交響曲を経ての、『春の祭典』!マイケル・ティルソン・トーマス率いる、サン・フランシス交響楽団の演奏で、ストラヴィンスキーのバレエ『春の祭典』(RCA RED SEAL/09026-68898-2)聴く。

1913年に初演された『春の祭典』(disc.2)は、第1次大戦(1914-18)を予兆するようなバーバリスティックさと、第1次大戦後にやって来るマシーン・エイジの無機質さを先取りして、まさに近代音楽を象徴する。だからか、「春の祭典」というタイトルが、ちょっとピンと来ないようなところがある。が、マイケル・ティルソン・トーマス(以後、MTT... )+サン・フランシスコ響の演奏は、不思議と春の色合いが見えて来るからおもしろい!MTTならではの明晰さに、サン・フランシスコ響のカラフルさが絶妙に反応して、思い掛けなく匂い立つようなストラヴィンスキーを実現させる。このバレエを生み出した、バレエ・リュスの華やかさを思い起こさせるそのサウンドは、近代音楽の鋭さの先に、ぱぁっと花を咲かせるかのよう。モダニスムならではの怜悧さとともに花々しいという、不思議な感覚... これが、たまらなくクール!ポスト・モダンの『春の祭典』像をさらりと提示して来る。
さて、MTT+サン・フランシスコ響によるストラヴィンスキーは3枚組。となると、ストラヴィンスキーの3大バレエが既定路線か... いや、MTTは、そう安易な路線に走らない!で、あと2枚は、『火の鳥』(disc.1)に、バレエ・リュスで活躍したプリマ、イダ・ルビンシュタインのための作品、メロドラマ『ペルセフォーヌ』(disc.3)を取り上げる。ロシア5人組の音楽からそう遠くない『火の鳥』(1910)、近代音楽のエポック・メーキングとなった『春の祭典』(1913)、そこから擬古典主義へと進んでの『ペルセフォーヌ』(1934)、という流れは、ストラヴィンスキーの作風の変遷を的確に捉え... そうして見事に浮かび上がるストラヴィンスキーのカメレオンっぷり!それぞれが、それぞれの時代の個性を強調する作品だけに、改めて3枚組を聴いてみると、ひとりの作曲家による作品だとは、ちょっと思えないかも。裏を返せば、それだけの変遷を可能とした"幅"が、この作曲家には内在していたわけで... ストラヴィンスキーという作曲家の芸術性の広大さに驚かされる。『春の祭典』ばかりではないなと...
で、興味深いのが、なかなか聴く機会のない『ペルセフォーヌ』(disc.3)!フランス語の語りと歌によるセミ・オペラのようなこの作品(ルビンシュタインがペルセフォーヌとして踊り、語った... )。擬古典主義による音楽、ギリシア神話に題材と、オペラ・オラトリオ『エディプス王』に近い雰囲気を聴かせるのだけれど、ギリシア悲劇の相克とは趣きを変え、よりアルカイック。フランス語の響きも、そんなアルカイックさを引き立て、ストラヴィンスキーにして、フランス風のメローさに彩られ、瑞々しい!また、ペルセポネ(=ペルセフォーヌ)の略奪を描く作品ということで、最後はペルセフォーヌの冥府からの帰還と、それによる春の訪れがアクセントに... 原始の春を抉り出す『春の祭典』(disc.2)の後で、『ペルセフォーヌ』(disc.3)の古典の春のふんわりとした色合いが好対照をなし、MTTのセンスが光る。そして、ここでもMTT+サン・フランシスコ響の音楽性が絶妙に効いていて。クラシックにおけるウェスト・コート・サウンド!西海岸のオプティミスティックが、ケミストリーを起こす!
ということをより強く感じるのが、『火の鳥』(disc.1)。気負うことなく丁寧にスコアを読み解くMTTと、サン・フランシスコ響の明朗な響きが、ロシアの民話からよりロマンティックなトーンを引き出し。それは、近代音楽、『春の祭典』の準備としてではなく、19世紀を懐古する『火の鳥』か?挑戦的であるより、落ち着きを以って、ナチュラルに物語を紡ぎ出すあたりがとても新鮮。また、そういう姿勢を取り得てしまうウェスト・コート・サウンドの屈託の無さ!少し肩の力を抜くことで、スコアから古き良き時代の豊かな薫りを抽出し、聴く者を酔わすようでもあり... そうした雰囲気が、『春の祭典』のモダニスムと、鮮やかなコントラストを織り成して、20世紀前半における音楽の恐るべき飛躍をも際立たせる。『ペルセフォーヌ』も合わせて、MTTの他とは違う視点が、このストラヴィンスキーの3枚組を、よりおもしろいものとしている。

MICHAEL TILSON THOMAS ・ SAN FRANCISCO SYMPHONY
STRAVINSKY ・ L'OISEAU DE FEU/LE SACRE DU PRINTEMPS/PERSÉPHONE

ストラヴィンスキー : バレエ 『火の鳥』
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ストラヴィンスキー : バレエ 『春の祭典』

マイケル・ティルソン・トーマス/サン・フランシスコ交響楽団

ストラヴィンスキー : メロドラマ 『ペルセフォーヌ』

ステファニー・コセラート(語り)
ステュアート・ニール(テノール)
サン・フランシスコ・ガールズ・コーラス
ラガッツィ・ザ・ペニンシュラ・ボーイズ・コーラス
マイケル・ティルソン・トーマス/サン・フランシスコ交響楽団、同合唱団

RCA RED SEAL/09026-68898-2




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