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理工系、印象主義の、独特な音楽世界、ケクラン... [before 2005]

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最初は、春の兆しを求めて、明朗なるフランス音楽... 「フランス」という個性が育まれた頃、ルネサンス末からバロックに掛けての音楽を聴き始めたのだけれど、結局、"明朗"であることに限らず、すっかりフランス尽くしとなってしまった、この春。改めてフランス音楽と向き合ってみると、その自由さ、多様さに目を見張り、一方で、通底する「フランス」のエスプリ、精神にも惹かれ... で、切りが無い。ので、そろそろフランスから離れてみようかなと... という前に、フランスの中に在って、何者でもない、特異な作曲家、ケクランを聴いてみる。
ケクランのスペシャリスト、ハインツ・ホリガーの指揮、シュトゥットガルト放送交響楽団による演奏で、ケクランの交響詩「春の歩み」と「燃ゆる茂み」(hänssler/93.045)。2月の末から"春"を謳いつつ、やっと「春」のタイトルを持つ作品を取り上げる!

シャルル・ケクラン(1867-1950)。
アルザスの裕福なブルジョワの一家に生まれたケクランは、その恵まれた生活環境から、音楽はもちろん自然科学にも興味を持ち、やがてフランスの理系エリートの集まる由緒正しい名門校、エコール・ポリテクニーク(防衛大と東大工学部が合わさったような... 何と言うか... ちょっと日本にはない学校... )へと進む(1887)。が、結核となり、療養のため退学を余儀なくされる。そして、この療養が、ケクランを音楽へと向かわせることに... 1890年、パリのコンセルヴァトワールで学び始め、マスネ(1842-1912)、フォーレ(1845-1924)らに師事、作曲家としての第一歩を踏み出す。のだけれど、そうして生み出された音楽は、まったく以って独特... 久々に「春の歩み」(track.1)、「燃ゆる茂み」(track.2, 3)を聴いてみると、戸惑いすら覚える。
キプリングの小説、『ジャングル・ブック』にインスパイアされ、5つの交響詩を作曲したケクラン。その3つ目の作品となる、1925年に完成された「春の歩み」をまず聴くのだけれど... ケクランらしいアンビエントな始まりは、印象主義の範疇でありながら、クラシック離れしたセンスを感じずにはいられない。フランスとも、ドイツとも違う、深く澄んだ響き!冷静に対象を観察し、巧みに響きへと変換する。理系エリートでもあったケクランならではの視点をそこに見出し、ケクランの周辺にいただろうフォーレ(の劇音楽『ペレアス... 』は、ケクランがオーケストレーション... )や、ドビュッシー(のバレエ『カンマ』は、ケクランがオーケストレーション... )の音楽との明確な距離を感じ、まったく興味深い。一方、『ジャングル・ブック』のワイルドさを、近代音楽らしい大胆な動きで表現していて、明確に印象主義の先へと踏み出す。しかし、その近代音楽としての素振りも、一味違うのか?バレエ・リュスが席巻した狂乱の20年代の作品でありながら、もっと先にある感性が浮かび上がるよう。例えば、機能的な映画音楽や、ドライなアメリカのモダニズム、場合によっては、戦後「前衛」の非情緒的な表情も浮かぶのか?
続く、「燃ゆる茂み」は、また少し趣きを変えて... ロランの小説、『ジャン・クリストフ』にインスパイアされ、その第9章を題材に2つに分けて作曲された交響詩は、まず、1938年に第2部(track.3)が、第2次大戦、終結の年、1945年に第1部(track.2)が完成。作曲年代こそ前後するものの、より新しい第1部(track.2)の冒頭に、マーラーの最期の頃を思わせるロマンティックさが漂い、ちょっと驚かされる。ジャン・クリストフ(ベートーヴェンがモデルとも言われる... )がドイツ出身の作曲家という背景からだろうか?どこか後期ロマン派風の気分に包まれ、より深みのある展開を見せる。続く、第2部(track.3)の始まりは、たゆたうようにオンド・マルトノが歌い、完全にニュー・エイジ... 一方で、古き良き印象主義の時代を懐古するようなトーンにも彩られ、ノスタルジーとセンチメンタルが悩ましげに絡み合い、またそれが往年のフランスの映画音楽を思わせるようで、不思議なテイストを生み出す。で、この音楽は何なのか?近代音楽の時代に在って、そういう堅苦しさからするりと抜け出し、過去で香り付けしながら、何物でもない音楽を紡ぎ出す魔法!やっぱり、ケクランは独特だ...
そんなケクランを、ありのままに捉えてゆくホリガー。近現代音楽のスペシャリストとして、また現代を生きる作曲者として(オーボエの巨匠としても忘れるわけには行かないけれど... )、ホリガーのスコアを読む澄んだ眼差しが、ケクランの音楽の孤高の姿を鮮やかに浮かび上がらせる。そして、シュトゥットガルト放送響の演奏もまた、ケクランの音楽に共鳴するところがあるのか。ピュア・トーンで鳴らしたオーケストラならではのクリアな響きが、ケクランの鋭敏な色彩感覚に反応し、瑞々しいサウンドを繰り出す。そこに、アクセントを加えるのが、シモナンの弾くオンド・マルトノ!派手に鳴らすような場面はないものの、ふんわりとした美しい電子音で以って、ケクランの独特な世界に不思議な色を添える。

Charles Koechlin La course de printemps/Le buisson ardent

ケクラン : 交響詩 「春の歩み」 Op.95 〔『ジャングル・ブック』 シリーズ より〕
ケクラン : 交響詩 「燃ゆる茂み」 第1部 Op.203
ケクラン : 交響詩 「燃ゆる茂み」 第2部 Op.171

ハインツ・ホリガー/シュトゥットガルト放送交響楽団
クリスティーヌ・シモナン(オンド・マルトノ)

hänssler/93.045




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