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ルネサンスの終わりのシャンソン... 新たなフランス音楽の芽吹き... [before 2005]

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ところで、フランス音楽を特徴付けるものとは何だろうか?いや、簡単に説明できるほどフランスの音楽の歩みは単純でない。中世には音楽の中心としてヨーロッパ中に影響を及ぼすも、ルネサンス期にはその中心がフランドルへと移り、バロック期にはすっかりローカル... 一方で、18世紀、パリはヨーロッパ中の音楽家たちに舞台を提供し、繁栄を極め、フランス音楽の担い手は外国人の巨匠たちとなり... 19世紀、ドイツの影響を強く受けるようになってからは、そこから如何に脱するかに苦悩しつつ、独自性を模索。やがてヒントが見え始めた頃、20世紀を迎える。そんな一筋縄では行かないフランス音楽に、ひとつの特徴を見出すことはとても難しいように思うのだけれど、中世から近代まで、漠然と俯瞰して感じられるのが、明朗さ!様々に外からの影響を受けながらも、フランスの音楽DNAには明朗さが組み込まれているように思う。そして、この明朗さに、春を感じて...
さて、生誕150年のニールセンシベリウスに始まり、「北欧」を巡って来たこの冬、そろそろ南下してみる頃かなと。で、春の兆しを求めて、明朗なるフランスへ!ドミニク・ヴィス率いる、アンサンブル・クレマン・ジャヌカンが、フランスのルネサンス期の多声シャンソンを歌う名盤、"FRICASSÉE PARISIENNE"(harmonia mundi FRANCE/HMA 901174)を聴く。

「シャンソン」というと、ピアフとか、美輪大先生がすぐに思い浮かぶ(如何に安直なイメージしか持ち合わせていないかがバレてしまいます... 汗... )。だから、古楽にも登場する「シャンソン」の存在に、えっ?!となる。しかし、"chanson"という語を仏和辞典で引けば、単に「歌」という意味しかないことに気付かされる。歌はみなシャンソンなんだ... つまり古楽にもシャンソンがあってしかるべきなんだ... と、納得。とはいうものの、やっぱり「シャンソン」には、特有の雰囲気を期待してしまうのか、1曲目、ジャヌカンの"Qu’est-ce d’amour ?"から聴こえて来る、慇懃なルネサンス・ポリフォニーには、ちょっと興が削がれてしまう。
いやいやいや、マルレの"Une bergère un jour"(track.2)の、軽やかにリズムが弾ける音楽に、空気は一変!続く、多声シャンソンに新しい波を起こしたセルミジによる"Tant que vivray"(track.3)では、センチメンタルが滲むメローさに大いに魅了される。もちろん、ルネサンスの古雅な雰囲気に包まれてはいるのだけれど、いわゆるルネサンス・ポリフォニーとは一線を画す、メロディーが前面に打ち出される新鮮さ!またそのメロディーの、何とも言えないキャッチーさ!こういうセンス、「シャンソン」だよなァ... と、ルネサンスの昔に遡る、そのセンスの源流に感慨を覚える。何より、ホモフォニーに移行しつつある音楽の流麗さたるや!ジャヌカンの"En m'en venant de veoir"(track.11)では、完全にホモフォニックに歌い上げられ、そうして生まれるメロディーの鮮やかさには目が覚める思い。"chanson"の「歌」としての魅力がクリアにされて、より人間的な表情が音楽に生まれようとする頃の輝きは、春の芽吹きを思わせて、そのフレッシュさに惹き込まれる。
とはいえ、やっぱりルネサンス期、あくまでも多声シャンソンであって、ルネサンス・ポリフォニーから脱する試みがなされていても、それは過渡的なもの... しかし、ポリフォニーに留まっていても、それをリズミカルに処理して、楽しげな音楽を繰り出して来るのが、フランス・ルネサンスか... マルレの"Une bergère un jour"(track.2)、パスローの"Il est bel et bon"(track.5)、クレキヨンの"Un gay berger"(track.7)など、リズムに乗って軽やかに声部が重ねられる小気味良さは、格別!それにしても、ポリフォニーがこんなにもハッピーに弾むとは... ルネサンスにして、ルネサンス・ポリフォニーのイメージを逸脱するような感覚に、大いに魅了される。そして、ルネサンスのメインストリーム、フランドル楽派の壮麗なポリフォニーから外れ、すでにフレンチ・ポップな感覚が紡ぎ出されていたことが興味深い。で、これこそが、フランスの音楽DNAかなと。
という、ルネサンス期のシャンソンを歌う、アンサンブル・クレマン・ジャヌカンがすばらしい!1985年の録音というから、今から30年も前になるのだけれど、久々に聴いてみて、その新鮮さに驚かされる。それでいて、当然ながら、若い!アンサンブルを率いる、ヴィス(カウンターテナー)の声の、癖なくスーっと伸びてゆく高音の美しさは、若さなればこそ(ヴィスにもこんな頃があったんだァ... )。もちろん、ヴィスばかりでなく、メンバーのひとりひとりが、何とも言えず瑞々しい歌声を響かせていて、見事なアンサンブルを織り成す。また、若いからこその柔軟性が、しなやかに豊かな表情を紡ぎ出していて... ジャヌカンの"Un jour Robin"(track.23)では、ダメよォ、ダメダメ... な展開を"声"で見せちゃう!えーっと、モザイク掛けなくて大丈夫っすか?くらいに... そんな歌声にアクセントを加えるのが、デュボーヴのリュート。伴奏ばかりでなく、ソロ(track.6, 10)でもすばらしい演奏を聴かせてくれていて... 訥々と爪弾きながらも、キラリとした輝きを籠め、そよ風のよう。飄々と歌う歌手たちを向こうに、絶妙な存在感を見せる。そうして醸し出されるフランス・ルネサンスの粋!さり気ないようで、ヤリ過ぎでもあって、それでいて明るく朗らかで... 何て魅惑的な!

FRICASSÉE PARISIENNE ENSEMBLE CLEMENT JANEQUIN

クレマン・ジャヌカン : Qu'est ce d'amour ?
ニコラ・ド・マルレ : Une bergière
クローダン・ド・セルミジ : Tant que vivray
クローダン・ド・セルミジ : Le content est riche
ピエール・パスロー : Il est bel et bon
ギヨーム・モレイユ : リュートのためのガリアード
トマ・クレキヨン : Ung gay bergier
トマ・クレキヨン : Petite fleur coincte et jolye
ピエール・クレロー : Comment au départir
ギヨーム・モレイユ : リュートのための幻想曲 第10番
クレマン・ジャヌカン : En m'en venant de veoir
クレスペル : Fricassée
ギヨーム・コストレ : La prise de Calais (Hardis françoys)
ピエール・サンドラン : Doulce mémoire
ピエール・セルトン : Finy le bien (Response de "Doulce mémoire")
ギヨーム・コストレ : Elle craint l'esperon
作曲者不詳 : Fricassée
ジェンシャン : Dieu qui conduictz - Echo
ジェンシャン : Je suis Robert
アルベール・ド・リップ : D'amours me plains
ドゥラフォン : A ce matin
クローダン・ド・セルミジ : Las, je m'y plains
クレマン・ジャヌカン : Ung jour Robin
ニノ・ル・プティ : Mon amy m'avoit promis

ドミニク・ヴィス/アンサンブル・クレマン・ジャヌカン

harmonia mundi FRANCE/HMA 901174




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