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"SILENCIO"、それはノイズに塗れた現代生活からの離脱装置... [before 2005]

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2月も半ばを過ぎました。何となく陽も伸びたかな?なんて、春の兆しを感じ始めると、ますます春が待ち遠しい!一方で、世界に目を向けると、春がとても遠くに感じられる。戦争に、宗教に、経済に... 主張ばかりがぶつかり合い、軋み続ける2015年、緊張を強いられることが続くのだけれど、そんなニュースにまともに向き合っていると、遣り切れなくなる。交通、通信の発達で、世界はより密になったはずが、あちらこちらで派生する断絶。断絶を境にあらゆることが騒ぎ立てられ、真実が見えて来ないもどかしさ。そんなノイズの嵐を、一時、忘れるために「癒し」としての音楽を聴いてみる。冬、「北欧」を巡ったその先に、春を見出すような1枚...
ヴァイオリン界の鬼才、ギドン・クレーメルと、彼が率いる俊英たち、クレメラータ・バルティカによる、現代音楽にして"難解"の対極、ペルト、グラス、マルティノフの作品で編まれたアルバム、"SILENCIO"(NONESUCH/7559-79582-2)を聴く。

"SILENCIO"、スペイン語で、静かに... という意味。で、まさに、静かに... ノイズに塗れた現代生活から救い出してくれるような1枚は、クラシックを「癒し」として聴くことに抵抗を感じつつも、抗し難い「癒し」に充ち満ちている!それがまた、現代音楽にカテゴライズされる作品で織り成されるから、おもしろい!ティンティナブリ様式のペルト(b.1935)の作品を最初と最後に持って来て、アメリカ、ミニマル・ミュージックの巨匠、グラス(b.1937)と、古楽とミニマル・ミュージックを結び付け希有な音楽を生み出したロシアのマルティノフ(b.1946)を挟む、絶妙な構成。難解な"ゲンダイオンガク"の対極にあるサウンドを集めて綴られる"SILENCIO"は、20世紀後半のメインストリーム、戦後「前衛」のエリート主義に対する静かなる反抗にも感じられて、実は刺激的。
とはいえ、やっぱり癒される!始まりのペルト、タブラ・ラサ(track.1, 2)の、研ぎ澄まされた美しい音の連なりは、「北欧」の大気に表れたダイヤモンド・ダストのようで、ペルトのティンティナブリ様式がこれ以上に無くキラキラと輝く。前回、聴いた、シャハムのヴァイオリン、ネーメ・ヤルヴィの指揮、イェーテボリ響の演奏は、「北欧」の大気に、ソヴィエトの厳しい大地を感じさせる骨太さ、その重みがズシリと胸に響いたのだけれど、ここで聴く、クレーメルのヴァイオリン、クレメラータ・バルティカの演奏では、クレーメルの美音から繰り出される、透明度を極めたティンティナブリ様式の清冽さが印象的。で、より「北欧」を感じさせるのか... そこに続く、グラスのカンパニー(track.3-6)の、アメリカならではと言うべき、オプティミスティックでアグレッシヴなリズムが、絶妙な切り返しとなりつつ、思い掛けないティンティナブリ様式とミニマル・ミュージックの親和性も見せる。東西冷戦の最中、東西の際に在って、それぞれにミニマルな指向を持ち、新しい音楽を切り拓いた2人の類似が極めて興味深い。
そこから、マルティノフの"Come in!"(track.7-12)... 嗚呼、何と言う「癒し」!クレーメルの美し過ぎるヴァイオリンの音に導かれ、ベートーヴェンの、メンデルスゾーンの、ブラームスの、マーラーの緩叙楽章のような、甘美にしてセンチメンタルなメロディーがスローに流れてゆく。どこかで聴いたメロディーのようでいて、その記憶を辿ると、絶対に辿りつかない不思議なニュートラルさ。とてもクラシカルなのだけれど、時代感覚は消失してしまっているようであり、音楽史という重力から解き放たれているのか。そうして生まれる、このヘブンリーさ。この世のものとは思えない浮世離れした美しさ。永遠に続きそうな、そんな音楽。いや、これぞ音楽!マルティノフに触れ、ペルト、グラスを振り返ると、その音楽の抽象性に驚かされる。"ゲンダイオンガク"の対極にあるように思えても、やはり現代音楽としての実験性を孕んでいるのだなと... だからこそ際立つ、現代に極めつけの「音楽」を提示するマルティノフ... 音楽が音楽としての姿を曝け出して生まれる、突き抜けた素直さに包まれれば、何だか涙が溢れて来そう。世界は極めて複雑で、ノイズに塗れている。だからこそ、"Come in !"(track.7-12)の放つ無垢の素直さは力を持つ。これ以上なく優しいのに力強い!そんな音楽が凄いなと感じ入る...
という"SILENCIO"を編んだクレーメルのセンスが秀逸!難解な"ゲンダイオンガク"、というステレオタイプを裏返して、素直な美しさで紡がれた現代音楽を選び、リアルな現代社会へと眼差しを向けるクレーメル。そこには、クラシック、現代音楽という枠組みを超越した姿を見出し、ちょっと他には探せないような揺ぎ無さを感じる。そうしたクレーメルにきっちりと応えるクレメラータ・バルティカの演奏がまたすばらしく... 若いアンサンブルならではの素直な響きが、ペルト、グラス、マルティノフのサウンドに、より透明感をもたらし、瑞々しく、クレーメルの美音はさらに映え、突き抜けた美しさが広がる。

GIDON KREMER / KREMERATA BALTICA SILENCIO

ペルト : タブラ・ラサ 〔2つのヴァイオリン、弦楽オーケストラとプリペアド・ピアノのための〕 *
グラス : カンパニー 〔弦楽オーケストラのための〕
マルティノフ : Come in ! 〔2つのヴァイオリン、弦楽オーケストラのための〕 *
ペルト : Darf ich... 〔独奏ヴァイオリン、ベルと弦楽のための〕

ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)/クレメラータ・バルティカ
タチアナ・グリデンコ(ヴァイオリン) *

NONESUCH/7559-79582-2




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