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アンリ4世の時代、自由なる音楽、ゲドロン! [before 2005]

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道を歩いていたら、梅の花が咲いているのを見つけて、おぉっ!となる。春は着実に近付いている... そんなことを思うと、足取りも軽くなるよう。そんな、春待つ季節に聴いてみたい音楽... フランドル楽派の壮麗なポリフォニーから、初期バロックの鮮烈なモノディへという時代、その音楽史のメインストリームから少し距離を取って展開される、フレンチ・ローカルな音楽の新たな芽吹きを追ってみようかなと... それは、リュリがフランス音楽を満開にする前、我が道をゆくフランス音楽の、素の姿を垣間見せるアンテルメードか。普段、あまり注目されることのない、狭間の時代ではあるけれど、実は魅力的な音楽が生み出されていた時代。ポリフォニーの霧は晴れ、太陽王の光が降り注ぐ前の気取りの無さは、無邪気に音楽を楽しむようで、思い掛けなく、素敵。
ということで、ルネサンスの後半、新たな時代を予感させた多声シャンソンに続いて、そこからさらなる段階へと踏み入ったフランス音楽... ヴァンサン・デュメストル率いる、フランスの古楽アンサンブル、ル・ポエム・アルモニークの、ゲドロンのバレ・ド・クールからのナンバーと、数々のエール・ド・クールで編んだアルバム、"Le Consert de Consorts"(Alpha/Alpha 019)を聴く。

ピエール・ゲドロン(ca.1565-ca.1620)。
16世紀後半、宗教戦争、王朝交代と、フランスが大きく揺れた時代、ゲドロンは、苛烈に争った新教と旧教の、旧教側、ギーズ枢機卿のシャペル(聖歌隊)の一員として活動を始める。が、宗教戦争は最終局面を迎え、仕えていたギーズ枢機卿が暗殺(1588)、翌年には、ヴァロワ朝、最後の王、アンリ3世(在位 : 1574-89)も暗殺され、新教の旗頭である、ナヴァール王、アンリ・ド・ブルボンが、アンリ4世(在位 : 1589-1610)として王位を継承しブルボン朝が成立。新王は間もなく旧教に改宗し、混乱を極めたフランスに和解と新たな時代を切り拓こうとした。そして、ゲドロンは、アンリ4世のシャンブル(宮廷の世俗音楽を担う音楽家集団... )で活躍。ブルボン朝前半の宮廷文化を彩ったバレ・ド・クール(宮廷バレエ)、エール・ド・クール(宮廷歌曲)の発展に貢献し、ヴァロワ朝末に始まるフレンチ・ローカルな音楽の進化を形にする。やがて、ルイ13世(在位 : 1610-43)の時代となり、1613年、ゲドロンはシャンブルの音楽監督に就任。バレエに熱を上げる若い王(息子、太陽王に負けず、ダンサーとして活躍!演出なども手掛けるこだわりっぷり... )のために、多くのバレ・ド・クールを作曲した。
そんなゲドロンのシャンブルでの活動を俯瞰するような"Le Consert de Consorts"。ゲドロンばかりでなく、ゲドロンの同僚たちの作品も含まれていて。その始まりは、シャンブルのリュート奏者、バラールのリュートのアントレ。何とも言えず寂しげな表情を織り成すリュート・コンソートの響きにまず惹き込まれる。ちょっとフォークロワの臭いが漂うような、そういう気の置け無さが、独特で... そうしたトーンに導かれて、ゲドロンのセンチメンタルなエール・ド・クール、「立ち直れる望みなど」(track.2)が続く。ア・カペラによる鮮烈なアンサンブルの後で、それをヴィオール・コンソートが受け継ぎ、その落ち着いた響きが声と絶妙のコントラストを生み出し、この甘辛感というのか、異質なサウンドが寄り添って生まれる不思議なスパーク感が刺激的。一方で、メロディーはまさに"メロー"であってキャッチー!小難しいことは考えず、歌というものにシンプルに向き合って生まれる素直な歌謡性に、フレンチ・ローカルの魅力をひしひしと感じてしまう。やっぱり「シャンソン」の国だなと... それがまた、後の時代の鎧を着たリュリの音楽とは違って、極めてナチュラルに紡がれるのが印象的。飾らない魅力の底堅さ...
燦然と輝くヴェルサイユの宮廷文化とは違う、まだパリに宮廷があった時代の市井とそう距離を感じることの無い気取りの無さがとにかく魅力的。小粋なリズムが弾ける「海辺の3人のきれいな娘がいて」(track.8)のキャッチーさは、南国っぽくて、フォークっぽくて、あまり古さを感じないからおもしろい。テシエの「おいらは数珠も嫌いじゃないね」(track.12)の調子の良さも癖になる楽しさで... その調子の良さをさらに悪ノリさせたような「パリの小さな橋の上」(track.13)のユーモラスさは猥雑ですらあって、当時の宮廷の砕けた気分を垣間見せてくれるのか。同時代に開発され、発展していたイタリアのモノディを思い起こすと、驚くほど軽やか!
一方で、バレ・ド・クール、『ヴァンドーム公爵殿下のバレ』(1610)からのアルシーヌのレシ「くらき憤怒」(track.10)は、実に荘重で雄弁、リュリのトラジェディ・リリクを予感させ、軽いばかりでないゲドロンの魅力を聴かせてくれる。それから、忘れられないのが、ルジュヌの「この美しい目に何が起こったのか」(track.6)。いきなり半音階で始まり、その半音階がもたらすロマンティックさにおおっ!となるのだけれど、聴き進めて行くと、半音階というより12音技法?ベルクの歌曲を聴いているような感覚を味わい、衝撃的。いや、ルネサンス・ポリフォニーとリュリに挟まれた狭間の時代の自由さたるや、本当に驚かされる。
そして、この狭間の時代を活き活きと紡ぎ出したデュメストル+ル・ポエム・アルモニーク!ある意味、マニアックな時代を扱いながらも、さり気なく歌い奏でて生まれる、得も言えぬ瑞々しさ。肩の力が抜け切ったところから、ありのままのゲドロンとその時代の音楽に向き合うル・ポエム・アルモニークの姿勢は、古楽云々という狭い範囲を越えて、音楽そのものを見出す歓びに充ち満ちている。それが、狭間の時代の"飾らない魅力"をより際立たせ、思い掛けなく現代的な雰囲気も漂い、不思議な魅力を放つ。いやー、今さらながらだけど、ル・ポエム・アルモニークの音楽性に感服するばかり...

GUÉDRON Le Consert de Consorts
Le Poème Harmonique - Vincent Dumestre


バラール : リュートのアントレ
ゲドロン : 立ち直れる望みなど
ゲドロン : 私はまっとうな男です
ゲドロン : コンプラント 「ああ、そもそも生まれてこなければ」
ゲドロン : ダンスのステップを教わりたいなら
ルジュヌ : この美しい目に何が起こったのか
バイー : 痴れ者のパッサカーユ
ゲドロン : 海辺に3人のきれいな娘がいて
ゲドロン : 弦楽合奏によるエール
ゲドロン : アルシーヌのレシ 「くらき憤怒」
ゲドロン : 死すべき者よ、溜息をつくのはおやめなさい
テシエ(伝) : おいらは数珠も嫌いじゃないね
ゲドロン : パリの小さな橋の上
ゲドロン : 愛している、とはもう言わないで

ヴァンサン・デュメストル/ル・ポエム・アルモニーク

Alpha/Alpha 019




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