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サーリアホ、鋭敏なる「北欧」エレクトロニックが描き出すポエジー、 [before 2005]

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先鋭的な現代音楽にも、「北欧」は存在するのか?前回、聴いた、エストニアの鬼才、トゥール(b.1959)のヴァイオリン協奏曲には、シベリウスを受け継ぐセンスが間違いなく存在していた。何より、トゥールのロックな感覚が、"ゲンダイオンガク"に触れて生まれるクールさには、「北欧」の自然のマッシヴな姿、そのものを感じる。しかし、よりコアな"ゲンダイオンガク"に踏み込んだならば... 総音列を経て、電子技術を通って来た"ゲンダイオンガク"というサウンドに、「北欧」という地域性が生まれる余地は無いように思うのだけれど...
そこで、フィンランドのバリバリの"ゲンダイオンガク"な作曲家、サーリアホ(b.1952)を聴いてみる。ドーン・アップショウのソプラノ、アンシ・カルットゥネンのチェロ、カミラ・ホイテンガのフルート、フローラン・ジョデレのパーカッションによる、サーリアホの、独唱、独奏楽器とエレクトロニクスによる作品集、"PRIVATE GARDENS"(ONDINE/ODE 906-2)を聴く。

カイヤ・サーリアホ(b.1952)。
エレクトロニクスを多用して、凄い音響を繰り出して来るせいか、いかにもな"ゲンダイオンガク"の作曲家のイメージを持ってしまう... で、以前は苦手意識があったのだけれど... よくよく聴いてみると、そうでもない?というより、その音楽は、狭義の現代音楽に留まらないセンス(エレキなあたりとか?)があって、安易にひとつのジャンルに押し込むことのできない広がりを感じる。大胆なことを言ってしまうならば、サーリアホは本当に現代音楽なのか?ニュー・エイジっぽいし、アヴァン・ポップとすら言えるセンスも感じられる。で、そうしたセンスにはどんな背景があるのだろうか?サーリアホの経歴(東京オペラシティのHPが充実!今年の武満徹作曲賞の審査員、サーリアホなんだァ... )を改めて見つめ直してみると、なかなか興味深いなと...
幼いころから音楽を志していたというサーリアホ、ヘルシンキのシュタイナー学校(神智学のシュタイナーの... より芸術に重きを置くシュタイナー教育... )を経て、ヘルシンキ芸術デザイン大学で美術を学んだ後に、シベリウス音楽院(1976-81)へ... 音楽だけではなく、美術への視点も養って来たサーリアホ、モネの『睡蓮』にインスパイアされた作品などもあるけれど、そればかりでなく、サーリアホの音楽には、「聴く」だけに留まらない「見る」という感覚が籠められているように思う。そして、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)での経験(1982- )!エレクトロニクスの応用と、そこから生まれるめくるめく音響の世界!この色彩的で鮮烈なサウンドが、聴く者の視覚をも刺激するのか... で、ここで聴く、独唱、独奏楽器とエレクトロニクスによる4作品。
1曲目、アップショウが歌う、"Lonh(彼方から)"は、サーリアホの代表作となるオペラ『遥かなる愛』に発展するソプラノとエレクトロニクスによる作品... オペラでは主人公として登場する、中世のトルバドゥール、ジョフレ・リュデル(第二回十字軍に参加、トリポリ伯夫人に恋し... )の詩をベースに、ほんのりとエスニックな色合いも見せるメロディーをエレクトロニクスで包んで、幻想的なイメージを生み出す。それはまるで、ホログラフィーとして映し出されるジョフレの恋人の姿のよう。おぼろげで、切なげで、思い掛けなくSFっぽい。続く、"Près(近くに)"(track.2-4)は、チェロとエレクトロニクス、"NoaNoa(香り)"(track.5)は、フルートとエレクトロニクスによる作品。独奏楽器が放つストイックさを、エレクトロニクスが増幅し、「独奏」というスケールでは考えられないスペイシーさを生み出すおもしろさ!テクノロジーの縦横無尽さを巧みに繰って紡ぎ出されるそのサウンドには、「北欧」を思わせる澄んだトーンも見出せるようで。"ゲンダイオンガク"という、一見、無機質にも感じられる世界にも、「北欧」という地域性は、少なからず作用し得るのか。その研ぎ澄まされた美が、印象深い。
さて、最後の作品が曲者... パーカッションとエレクトロニクスのための、6つの日本庭園(track.6-11)なのだけれど、南禅寺(track.6)、金閣寺(track.7)、龍安寺(track.9)、西芳寺(track.10)と、京都の名刹が盛り込まれて、"ゲンダイオンガク"にして、俄然、親近感が湧いてしまう。しかーし、読経のサンプリング(track.7)には、思わず吹いてしまい、さらには中華風味が混じってしまって(track.8)、日本庭園で蛇踊りやってる?日本人からすれば、ツッコミを入れずにいられない部分も... いやー、このオリエンタリズムが、外から見つめた素直な日本の印象なのだろうなと... ちょっと、がっくり?いや、ウケる!ヨーロッパというフィルター越しに見つめる日本の姿のキッチュさ!一方で、パーカッションの表情の豊かさには聴き入ってしまう。また、虫の音なども取り込むエレクトロニクスが織り込む繊細さに日本的な味わいも生んでいて。第一印象こそズッコケるも、ズッコケて「日本庭園」という既成概念が壊れた後のイマジネーションに富むサウンドに魅了されたり... そこに、サーリアホが感じ入った庭の情景があるのだろう... 様式美としての日本庭園ではなく、庭に漂う湿度や自然が放つ匂いを敏感に感じ取って紡がれる音楽の詩情、瑞々しさたるや!

SAARIAHO: PRIVATE GARDENS
HOITENGA ・ JODELET ・ KARTTUNEN ・ UPSHAW


サーリアホ : Lonh 〔ソプラノとエレクトロニクスのための〕 *
サーリアホ : Près 〔チェロとエレクトロニクスのための〕 *
サーリアホ : NoaNoa 〔フルートとエレクトロニクスのための〕 *
サーリアホ : 6つの日本庭園 〔パーカッションとエレクトロニクスのための〕 *

ドーン・アップショウ(ソプラノ) *
アンシ・カルットゥネン(チェロ) *
カミラ・ホイテンガ(フルート) *
フローラン・ジョデレ(パーカッション) *

ONDINE/ODE 906-2




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