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ロック?エスニック?「北欧」のヴァイオリン協奏曲のクール。 [before 2005]

えー、一昨日が立春だったとのことですが、いやー、春は遠いです。冬、真っ只中!
というわけで、引き続き、冬、北欧を巡るのだけれど... 北欧の冬は、日本の冬なんてもんじゃないのだろうなと。何たって、高緯度。北極圏に入る地域すらあるのだから。そして、それは、音楽からも感じ取れるほど。しかし、厳寒が生む鋭敏な響きは、他にはない美しさがあって。キーンと冷やされた極地に近い大気の、その緊張感の中に生まれたサウンドのクリアさは、クラシックという、古臭い?時として、野暮ったい?ジャンルにあっても、思い掛けなくクールな印象をもたらしてくれる。そんな、「北欧」のクールを、20世紀に作曲された2つのヴァイオリン協奏曲で追う... エストニアの鬼才、トゥールと、フィンランドの巨匠、シベリウス...
まず、イザベル・ファン・クーレンのヴァイオリン、パーヴォ・ヤルヴィの指揮、バーミンガム市交響楽団の演奏で、トゥールのヴァイオリン協奏曲(ECM NEW SERIES/472 497-2)。クリスティアン・テツラフのヴァイオリン、トーマス・ダウスゴーの指揮、デンマーク国立管弦楽団の演奏で、シベリウスのヴァイオリン協奏曲(Virgin CLASSICS/5 45534 2)の2タイトルを聴く。


1998年、エストニア、「北欧」とロックと"ゲンダイオンガク"、トゥール...

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ロックから現代音楽へ... という異色の経歴(1980年から4年間、In Speというバンドで活躍をしつつ、エストニア音楽アカデミーにて、しっかりと作曲も学ぶ!)を持つ、エストニアの現代の作曲家、鬼才、トゥール(b.1959)。ロックのハードさ、パワフルさを、"ゲンダイオンガク"に落とし込みつつ、フィンランドの巨匠、シベリウスにもインスパイアされ、「北欧」の系譜(ちなみに、フィンランド人とエストニア人は、同じフィン・ウゴル系で、それぞれの国は、フィンランド湾を挿んで、北と南に位置し、兄弟のような関係... )も受け継ぐ、興味深い存在。そして、1998年に作曲されたトゥールのヴァイオリン協奏曲(track.1-3)には、そうした経歴が鮮やかに響く!
印象的な独奏ヴァイオリンのアルペジオで始まる1楽章... その細かな音符による反復が、ミニマルなテイストを生み、同郷の巨匠、ペルト(b.1935)のティンティナブリ様式に通じる感覚も... しかし、ペルトのようなセンチメンタルは皆無。ダイアモンド・ダストが舞うような、厳しい自然の現象を思わせる、鋭い音楽を切り出して来て、進化した「北欧」の音楽を繰り広げる。また、スペクトル楽派にも影響を受けているトゥールだけに、オーケストラによるダイナミックな運動を伴う抽象性も聴きどころ。そこから一転、闇夜にオーロラが舞うようなファンタジックさが広がる2楽章(track.2)。独奏ヴァイオリンが伸びやかに奏でる、20世紀末の緩叙楽章の抽象の美しさ!その後で、ロック風な、キャッチーさも覗かせる終楽章(track.3)と、シベリウス、"ゲンダイオンガク"、ロックが、思い掛けなく絶妙に綾なしてケミストリーを生み、シベリウスのヴァイオリン協奏曲に負けていない。
そんなヴァイオリン協奏曲を、より際立たせるのが、近現代作品を得意とするファン・クーレンのヴァイオリン。冷徹にスコアと向き合って、確信を以って奏でられる独奏ヴァイオリンのシャープさ!その冴え渡る演奏が、トゥールの音楽の「北欧」としての魅力を、鋭敏に捉えていて、聴き入ってしまう。そんな独奏ヴァイオリンに対し、鮮やかに、ダイナミックに繰り広げて来る、パーヴォの指揮、バーミンガム市響の演奏!ひとつひとつの楽器は極めてシャープに響くも、そうした音が束となって織り成される鮮烈は、圧巻。ヴァイオリン協奏曲の後で取り上げられるオーケストラのための作品、アディトゥス(track.4)とエクソダス(track.5)の迫力とスペイシーさは、最高。"ゲンダイオンガク"のおもしろさを余すこと無く鳴らし切る。

ERKKI-SVEN TÜÜR EXODUS

トゥール : ヴァイオリン協奏曲 *
トゥール : アディトゥス
トゥール : エクソダス

イサベル・ファン・クーレン(ヴァイオリン) *
パーヴォ・ヤルヴィ/バーミンガム市交響楽団

ECM NEW SERIES/472 497-2




1903年、フィンランド、ヴァイオリニスト、シベリウスの、もうひとつの一面の魅惑...

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久々に聴く、シベリウスのヴァイオリン協奏曲(track.1-3)は、何だか独特... 1楽章の冒頭の、独奏ヴァイオリンによる悲しげなメロディーは、凍てつく「北欧」の冬景色が容易に浮かんで来る一方で、そこには不思議なエスニックさが差すようなところがあって、おもしろい。どこか、クレズマー(東欧系ユダヤ人、アシュケナジウムの音楽、『屋根の上のヴァイオリン弾き』などで描かれる... )を思わせるオリエンタルさだろうか?フィンランドのフォークロワが持つ臭いなのだろうか?ふと、ラヴェルのツィガーヌを思い出すような瞬間もある。北欧的な透明感と、東方的な野趣が織り成すちょっと他には探せない色合い... この"独特"を改めて見つめると、20世紀音楽の担い手としてのシベリウスをより強く意識させられる。そうして、バルトーク(1881-1945)、シマノフスキ(1882-1937)ら、近代音楽の範疇で国民楽派的な音楽を展開した20世紀の作曲家たちとの近さすら感じ、刺激的。
一転、2楽章(track.2)のリリカルなあたりはベートーヴェン的、終楽章(track.3)の快活さはブラームス的... この、"独特"から巧みに切り返して生まれるキャッチーさ!前半のミステリアスさが晴れて得られる後半の視界の良好さがまた快感だったりする。特に、ティンパニーが刻むリズムに乗って始められる終楽章(track.3)の、活き活きとした表情は、シベリウスのもうひとつの一面を知るようで、興味深く、魅力的。そして、このアルバムのおもしろいところが、シベリウスが独奏ヴァイオリンとオーケストラのために書いた作品の全てが収録されているところ。学生の頃、ヴァイオリニストも目指していただけに、ヴァイオリンはより親密な楽器なのだろう... 縦横無尽にヴァイオリンを用いて、多彩な音楽を繰り広げる、こなれた雰囲気、気の置け無さは、シベリウスのヴァイオリニストとしての一面だろうか。普段、あまりクローズアップされないこの一面が、とても新鮮で魅惑的。
そんな、ヴァイオリニスト、シベリウスに迫る、テツラフのヴァイオリン。繊細かつ芯の通ったそのサウンドは、すっきりとしていながら雄弁。特に、ヴァイオリン協奏曲の後の作品での、豊かな表情が印象深い。もちろん、ヴァイオリン協奏曲もすばらしく... で、そのヴァイリン協奏曲で耳を引くのが、ダウスゴーの指揮、デンマーク国立響の演奏!濃密で、アグレッシヴで、独奏ヴァイオリンに絡みつくようなサウンドは、この作品の"独特"を強調するようで、圧倒的。鬼才、ダウスゴーならでは...

SIBELIUS: VIOLIN CONCERTO
CHRISTIAN TETZLAFF . THOMAS DAUSGAARD

シベリウス : ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op.47
シベリウス : 2つのセレナード Op.69 〔ヴァイオリンとオーケストラのための〕
シベリウス : 2つの小品 Op.77 〔ヴァイオリンとオーケストラのための〕
シベリウス : 2つのユモレスク Op.87 〔ヴァイオリンとオーケストラのための〕
シベリウス : 4つのユモレスク Op.89 〔ヴァイオリンとオーケストラのための〕
シベリウス : 組曲 ニ短調 Op.117 〔ヴァイオリンと弦楽のための〕

クリスティアン・テツラフ(ヴァイオリン)
トーマス・ダウスゴー/デンマーク国立交響楽団

Virgin CLASSICS/5 45534 2




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