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バロックの芽吹き、メールラの軽やかなる前衛。 [before 2005]

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2015年のメモリアルを追う、今月... 前々回、ルネサンス・ポリフォニーにギアが入る頃に活躍した、没後500年のブリュメルを聴いたのだけれど、それから時代を下り、ルネサンス・ポリフォニーから如何にして脱するか、試行錯誤を試みた、没後350年のメールラを聴いてみる。で、まさに、初期バロックの時代を生き、時代の最先端を走ったメールラ... 今でこそ、あまり注目されることはないけれど、その当時は前衛の旗手として存在感を示していた。何より、新しい時代を走っていたメールラの音楽の、若々しさ、瑞々しさたるや!初期バロックの作曲家たちは、モンテヴェルディに隠れてしまって、どうも漠然と捉えられがちだけれど、音楽史における彼らの貢献は、計り知れない。そうしたあたりが、この、メールラのメモリアルでクローズアップされたなら... クローズアップされることで、ルネサンスからバロックへの、音楽史の驚くべき飛躍に、より多くの人が気付けたなら、クラシックには、また違ったパノラマが生まれるように思うのだけれど... ウーン、難しいか... もどかしい...
は、ともかく、聴きます、メールラ!で、濱田芳通が率いる、日本の古楽アンサンブル、アントネッロによる歌と演奏で、メールラの歌曲と器楽曲、カンツォンに、カンツォーネに、カンツォネッタ、いろいろ(SYMPHONIA/SY 02201)、多彩な音楽を聴く。

タルクィーニオ・メールラ(1594/95-1665)。
バロックが産声を上げようという頃、オペラが誕生(1597)する2年前、北イタリア、ブッセート(ヴェルディが育った街として知られる... )で生まれたメールラ。その運命が音楽へと向かうターニング・ポイントとなったのが1602年、7歳の時... 父を亡くしたメールラは、ブッセートから北へ20Kmほど行った街、クレモナで司祭をしていた兄に引き取られる。そう、ストラディヴァリら、多くの楽器職人たちが腕を競い、モンテヴェルディ(1567-1643)を生んだクレモナで、音楽に出会い、学び、オルガニストとして、そのキャリアをスタートさせる。その後、ローディの聖母マリア戴冠教会のオルガニスト(1616-21)を経て、ポーランド王のオルガニストとしてワルシャワの宮廷に仕え(1621-26)、再びイタリアへと戻ると、クレモナ、ベルガモの大聖堂の楽長を歴任。何かとトラブルも抱えていたようだけれど、音楽における先進地域、北イタリアで、当時の前衛として活躍した。
ということで、その、当時の"前衛"を聴くのだけれど... 20世紀、筋金入りの「前衛」がノスタルジーを纏って語られるようになった21世紀から聴く初期バロックの"前衛"のシンプルさは、衝撃的なくらいに新鮮!1曲目、ソプラノが歌う「カンツォネッタを聴いておくれ」から、そよ風のように軽やかで、朗らかで、何だか一足先に春がやって来たかのよう。「クラシック」の仰々しいイメージとは一線を画す得も言えずナチュラルな空気感に、ひたすら魅了されてしまう!いや、かえってそうした表情が、今を以ってして"前衛"に思える?小気味良いリズムに、素直なメロディーを乗せて、心の赴くまま、歌い、奏でる... 一方で、そこにはルネサンス期のフロットラを思わせるところもあり、ポスト・ルネサンスの時代、如何にして新しい形を切り拓こうかという試行錯誤もあったか?
で、その試行錯誤の中心にあったのが器楽曲だったかなと... その後のクラシックの重要な要素となる器楽曲が生まれたのが、ルネサンス末から初期バロックに掛けて... その歩みは、歌うことを楽器で真似るところからスタートし... そうした痕跡は、アルバムの前半を彩る、カンツォン、カンツォーネという、イタリア語の「歌」を意味する言葉を用いた器楽曲からも窺える。そうして、第1ソナタ(track.7)が演奏されるのだけれど、「奏でる」という意味のイタリア語、"sonare"から生まれたソナタへと至り、ここに器楽曲の独り立ちを見出すようで... その音楽は、ガンバとテオルボの静かな伴奏を背景に、楚々としたリコーダーが瑞々しく歌う、何気ない1曲ではあるのだけれど、ここに籠められた進化を思えば、感慨も滲む。しかし、まだまだよちよち歩き... そこに物足りなさもある?いや、後のクラシックにはない、未だ固まっていない柔軟性といのか、新しい時代の形式を模索しながらも、旧い時代を脱するための自由さをより感じ、何か音楽として突き抜けた魅力に惹き込まれる!
というメールラの"前衛"を、さらりと引き出すアントネッロ。彼らならではの、クラシック、古楽のステレオタイプに捉われないセンス... より自由に音楽と向き合う姿勢が、いつもながらの活き活きとした音楽を生み出していて、そういう音楽に触れていると、何とも言えない高揚感を味わう。クラシックや、古楽という重力から解き放たれた音楽をよりシンプルに楽しむ喜び!また、そういう感覚があってこそ、メールラの時代に迫れるようにも思えて... アカデミックなクラシック越しに見つめる初期バロックではない、まっさらに見つめるメールラの音楽の瑞々しさ!その時代とダイレクトに向き合うことで得られる真新しさ!それを古楽と呼んでしまうことにはばかりすら覚える。そんなアントネッロのメールラに、ふわっと花を咲かせる鈴木美登里のソプラノ!そのやわらかで愉悦に満ちた歌声に癒される... もちろん、ディレクター、濱田芳通による鮮やかなコルネット、胸空くようなリコーダーの演奏もすばらしく、器楽メンバーの冴え渡るパフォーマンスも最高!そうして、メールラの"前衛"は、没後350年を経ても輝きに充ち、クラシック、古楽の枠を越えて魅力を振り撒く!

TARQUINIO MERULA - toccate, canzoni e canzonette da cantare & sonarj
Anthonello

メールラ : カンツォネッタを聴いておくれ
メールラ : カンツォーネ 「ラ・ビアンカ」
メールラ : 子守歌による宗教的カンツォネッタ 「さあ眠りなさい」
メールラ : カンツォーネ 「ラ・ストラーダ」
メールラ : カンツォン II
メールラ : そう信じるおバカさん
メールラ : 第1 ソナタ
メールラ : 第2旋法によるトッカータ
メールラ : カンツォーネ 「ラ・トレッカ」
メールラ : アリア 「小鳥たちが木靴を履けば」/カンツォーネ 「ラ・ポケティーナ」
メールラ : カンツォーネ・ルッジェーロ
メールラ : カプリッチョ
メールラ : カンツォーネ 「ラ・ガッリーナ」

アントネッロ
濱田芳通(コルネット/リコーダー)
鈴木美登里(ソプラノ)
石川かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
西山まりえ(チェンバロ/バロック・ハープ)
ラファエル・ボナヴィータ(バロック・ギター/テオルボ)
古橋潤一(リコーダー)

SYMPHONIA/SY 02201




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