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生誕150年、ニールセンの"戦争交響曲"の生々しさ... [before 2005]

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生誕150年のメモリアル、ニールセンの交響曲を聴いて来たのだけれど... 今さらながらに気になる、「ニールセン」という名前... それが、ドイツ語に基づく表記だというのは、ぼんやりと頭のどこかで認識してはいたのだけれど、このメモリアルを切っ掛けに、ニールセンについてちょこちょこ調べれば、「ネルセン」という見慣れない表記に出くわして、ギョっとする。デンマークを代表する作曲家、ニールセン。デンマーク語に基づく「ネルセン」の方が正しいのかも... 世の中、地名など、ネイティヴな表記に直そうという流れもあるし... けど、一度、頭に刷り込まれてしまった響きといのは、なかなか切り替え難いところもあって... 慣れやら、慣習というのは大きいなと...
いや、今、改めて「ネルセン」としてニールセンの作品を改めて聴いてみると、ちょっとイメージが変わる?聴き慣れない「ネルセン」という響きと、ニールセンの独特な個性、どこかで符合するような... そんなことを感じながら、ユッカ・ペッカ・サラステの指揮、フィランド放送交響楽団の演奏によるニールセンの交響曲のシリーズから、4番、「滅ぼし得ざるもの」と、5番(FINLANDIA/3984-21439-2)を聴く。

ニールセンの4番、「滅ぼし得ざるもの」(track.1-4)と、5番(track.5, 6)は、それぞれ単一楽章、2楽章構成と、伝統的な交響曲の形に捉われない作品となっており、それまで以上に「ニールセン」という個性が強く打ち出され、インパクトを生んでいる。一方で、それまで以上に交響曲らしい重厚さも見せ、交響性と個性が見事に響き合い、希有な音楽へと昇華し、6曲ある交響曲の中でも、この2つの交響曲こそ、ニールセン芸術のハイライトと言えるのかもしれない。そんな2つの交響曲が生まれたのが、第1次大戦中と戦後間もなくの頃... そうした背景を見つめれば、この2つの交響曲は、ニールセンにとっての"戦争交響曲"と言えるのかも...
ということで、まずは、開戦(1914)と合わせるように作曲が始められ、大戦が折り返しを過ぎた1916年に完成し初演された4番(track.1-4)を聴くのだけれど... 列強の対決を前に、小さな王国、デンマークの独立が危機にさらされる中、「滅ぼし得ざるもの」という、願いにも似たタイトルを付けられた交響曲。風雲急を告げるような始まりに、"戦争交響曲"のイメージをより濃くさせられて。その後には、意外にも牧歌的な風景が広がり。が、ふと不安の影が差し、気が付けば不穏な気配に包まれ。直面する困難と、過去の穏やかな情景が錯綜して、力強い音楽を生み出す。そうして、戦争の惨禍だろうか、深い悲しみに覆われる(track.3)も、やがて輝かしい音楽が立ち上がり、「滅ぼし得ざるもの」が姿を現す(track.4)。そうして繰り広げられるバトル!ティンパニーの連打がドラマティックに音楽を盛り上げ、葛藤を描き出すも、最後には嵐の後のような晴れやかさが広がり感動に包まれる。"戦争交響曲"という視点から聴いてみると、何か丁寧に戦時下の状況を捉えているようにも感じられ、ルポルタージュ的な印象も受ける。で、そんな生々しさもまた、「ニールセン」ならではのものに感じられる。
続く、5番(track.5, 6)は、終戦から2年を経た1920年に作曲が始められ、その2年後、1922年に完成し初演された作品。4番が大戦の真っ只中、先がどうなるか見通せない困難な状況下での作品であったならば、5番は戦争が終結し、新しい時代を迎えた中で生み出された作品、大戦全体を俯瞰して捉えることができているのだろう、より冷徹な視点を感じ、より練り上げられた音楽が繰り広げられる。2楽章構成の前半、鋭く小太鼓が叩かれ、荒々しい軍靴が通り過ぎてゆく(少年時代、軍楽隊での経験が活きている?)ような1楽章(track.5)の緊迫感!それを経てのカタルシスは圧巻!一転、明朗に始まる2楽章(track.6)は、ブラームス風のメロディー(ブラームスの3番の交響曲、終楽章のフィナーレらしい... )が聴こえて来たり、そればかりでない、どこかで耳にしたようなフレーズがあちこちから聴こえて来るようで、その闇鍋的な独特な風合いにもまた「ニールセン」を強く感じる。反面、途中、壮大なフーガが渦巻き、鮮やかに対位法が用いられて、交響曲らしさも強調されるから、おもしろい。しかし、5番が放つインパクトは、ただならない。前半(track.5)のダークさ、後半(track.6)の錯綜する感覚、そうして、最後に訪れる力強く壮麗なる感動!それはもう音楽を越えていて、精神浄化装置のよう。
さて、サラステ、フィンランド放送響の演奏... ここまで聴いて来た、1番と2番3番と6番と変わらず、サラステらしいポジティヴな音楽作りに、フィンランド放送響のカラフルな演奏が絶妙に作用して、「ニールセン」という個性を鮮やかに響かせる。そうして浮かび上がる、ニールセンが描き込んだ豊かな表情!そうした表情には、人間臭さというか、独特な温度感が感じられ、仄暗さや、ダークな曲調の中にも、息衝くものがあり、それが交響曲全体を躍動させるようで、感慨深いものを生む。交響曲としての抽象性よりも、第1次大戦を背景に生まれた"戦争交響曲"としての側面を、それとなく強調し、願いを籠めた4番から、総括としての5番へ、戦中から戦後へという流れも生み出して、雄弁に20世紀を描き出す。

NIELSEN ・ FRSO/SARASTE

ニールセン : 交響曲 第4番 「滅ぼし得ざるもの」 Op.29
ニールセン : 交響曲 第5番 Op.50

ユッカ・ペッカ・サラステ/フィンランド放送交響楽団

FINLANDIA/3984-21439-2




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