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ピアノで、ギターで見つめる、武満徹が描く瑞々しい世界... [before 2005]

図書館からの帰り道、公園を通り抜けたら、すっかり木々が色付いていて(桜の木は早めなのか... )、もう?!と、驚く。知らず知らずの内に、秋は色を濃くしている。いや、季節のうつろいはあっという間で、木々が色付けば、冬はもうすぐそこ... そんなことを思うと、何だか「秋」が沁みて来る。さて、前回、武満徹の雅楽『秋庭歌』を聴いたのだけれど、武満作品には「秋」を題材としたもの(「ア・ストリング・アラウンド・オータム」とか、好きだなァ... )が多い?何か「秋」の音楽はないかと、ちょっと検索掛ければ、出て来るのは武満作品ばかり... おもしろいことに、他の作曲家には「秋」を題材とした作品が少ない。他の季節ならばすぐに見つかるのに... 作曲家にとっての「秋」は、あまり創造を刺激しない季節なのか?そんなことはないと思うのだけれど... 一方で、秋は武満徹の季節?武満徹は、秋の作曲家なのかも... そんなことを思いながら、再び武満作品を聴いてみようかなと...
武満の盟友、ピーター・ゼルキンの演奏による、武満徹、ピアノ作品集(RCA RED SEAL/09026 68595 2)と、武満のギター作品におけるミューズ、荘村清志のギターによる、杜の中で、武満徹へのオマージュ(EASTWORLD/TOCE-9463)の2タイトルを聴く。


ピーター・ゼルキン、ピアノで響かせる武満作品の瑞々しさ...

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邦楽器による武満作品の厳しい表情に触れた後に聴く、ピアノ作品の瑞々しさたるや!同じ作曲家でありながら、こうも違うかと、東洋の楽器の響きと西洋の楽器の響きの違いに愕然とさせられる。そして、西洋音楽の象徴たるピアノの、マシーンとして洗練を極めた美しく確固たる響きに、改めて感服させられ... そんなマシーンの特性を明確に響かせる、ピーターのクラリティの高いタッチにも感心させられ... という、極めて西洋的な場所から、日本の作曲家、武満徹へと焦点を合わせるおもしろさ... 日本の戦後「前衛」の音楽というのが、どうも苦手だった。何かこう、ジメっとしていて、重苦しさを覚えるような... けど、この湿度感が、日本ならではの"ゲンダイオンガク"なのだろうなと(もちろん、安易なイメージで一括りにはできない... )。総音列やら、偶然性やら、欧米のエリートたちの修辞にしっかりと対応できてなお透けて浮かぶ日本の風土が育む性格。苔生した日本庭園の残像が残る日本の"ゲンダイオンガク"。武満作品にもまた、それを強く感じるのだけれど、今、改めてピーターが弾く武満作品の瑞々しさに触れれば、日本人の手から離れて初めて得られる真新しさのようなものを味わう。
始まりの「リタニ」(track.1, 2)は、まるでケクランの音楽を聴くようなアンビエントさに包まれ... 武満の音楽がドビュッシーの延長線上にあることを改めて感じさせるもの。そして、"ゲンダイオンガク"のイメージに留まらない美しさに惹き込まれる。一転、まさに戦後「前衛」、ダルムシュタットの影響下で作曲された「ピアノ・ディスタンス」(track.6)は、その尖がった姿、研ぎ澄まされた緊張感がクール!抽象性を極めて響きの鋭敏さが際立ち、ピアノそのものの響きの美しさが映え、また惹き込まれる。そういう抽象の一方で、ルドンの絵画にインスパイアされたという「閉じた眼」(track.8)では、象徴主義の画家、ルドンの作品が持つおどろおどろしくも神秘的な佇まいを絶妙に音にし、そのミステリアスなあたりはスクリャービンを思わせるところも。
それにしても、武満作品の響きの繊細さ、ポエジーには息を呑む。"ゲンダイオンガク"ならではの抽象であっても、散らばった音たちが創り出す間の豊かな余韻に、俳句や短歌のDNAを感じ... それがまた、ピーターが生み出す澄んだ響きだからこそ、鮮やかに浮かび上がり... 欧米の"ゲンダイオンガク"のドライさとは違う、しっとりとした日本の表情をポジティヴに受け入れることができて、魅了される。「雨の樹、素描」(track.9)の、雨音を集めたような響きのウォータリーさなんて、もう...

PETER SERKIN PLAYS
THE MUSIC OF TORU TAKEMITSU


武満 徹 : リタニ ― マイケル・ヴァイナーの追憶に
武満 徹 : 遮られない休息
武満 徹 : ピアノ・ディスタンス
武満 徹 : フォヘ・アウェイ
武満 徹 : 閉じた眼 ― 滝口修造の追憶に
武満 徹 : 雨の樹 素描
武満 徹 : 閉じた眼 II
武満 徹 : 雨の樹 素描 II ― オリヴィエ・メシアンの追憶に

ピーター・ゼルキン(ピアノ)

RCA RED SEAL/09026 68595 2




荘村清志、ギターで弾かせる武満作品の瑞々しさ...

TOCE9463
ピアノからギターへ、また違う表情を見せる武満作品... そして、武満徹にギター作品を書く切っ掛けを与えたのが荘村清志... その荘村が、1996年、惜しまれて逝った武満にオマージュを捧げるこのアルバムは、武満の死の前年に書かれた「森の中で」(track.1-3)で始まるのだけれど、最初の一音から強く惹き込まれる!晩年の武満ならではの、"ゲンダイオンガク"からは距離を取る甘やかなサウンドに彩られつつ、ギターの素朴な響きから生まれる、まさに森を散策するような雰囲気!ギターのトーンもあるのか、まるで秋の森を、落ち葉を踏みしめながら歩くような、そんな心地がして来て、何か穏やかで心地良いものが心を吹き抜けてゆく。また、荘村清志のギターの、一音一音がヴィヴィットに弾ける感覚がたまらなく... プチっと弾けて、鮮やかな色の果汁がこぼれ出すようなジューシーさ!武満作品の瑞々しさを、より一層、際立たせて、ただならず魅了される。
そこから、これまでとは一味違う武満作品を聴く... "ゲンダイオンガク"ばかりでなかった武満のソング・ライターとしての一面を知る『ギターのための12の歌』。このアルバムでは、そこから6曲、「オーバー・ザ・レインボー」(track.4)、「イエスタデイ」(track.5)、「ラスト・ワルツ」(track.6)、「シークレット・ラヴ」(track.7)、「星の世界」(track.8)、「ロンドン・デリーの歌」(track.9)が取り上げられて... もちろん、武満の作曲ではなく、編曲になるのだけれど... スタンダード・ナンバーの名旋律を、センス良くギターに落とし込む武満のメロディーに対する鋭い感性は、現代音楽というフィールドを離れて自身でも少なからず歌を残してのもの。で、"ゲンダイオンガク"から、するっと肩の力を抜くことができてしまう武満のフレキシブルさに、改めて感心させられる。それにしても、何と魅力的なアレンジだろう... ギターの旨味をさり気なくもきっちりと抽出していて、素敵!
というキャッチーな後で、またおもしろく響くのが、アルト・フルートとギターによる「海へ」(track.10-12)。ふと、尺八と琵琶による作品が頭を過る。出だしのフルートが何か尺八を思わせる表情を見せて、おおっ?!となる。どこかで、尺八と琵琶、フルートとギター、共鳴するものがあるのか... ドビッュシーやブリテンを思わせるヴィヴィットさも放ち、時にメロディアスですらある美しい「海へ」なのだけれど、東洋と西洋という対極を飄々と行き来する武満徹ならではのエッセンスが間違いなく効いている。

荘村清志 森の中で 武満 徹へのオマージュ

武満 徹 : 森の中で 〔ギターのための3つの小品〕
武満 徹 : 『ギターのための12の歌』 から
   オーバー・ザ・レインボー/イエスタデイ/ラスト・ワルツ/シークレット・ラヴ/星の世界/ロンドン・デリーの歌
武満 徹 : 海へ 〔アルト・フルートとギターのための〕 *
武満 徹 : エア 〔フルートのための〕 *
武満 徹 : 不良少年 〔2台のギターのための〕 *

荘村清志(ギター)
金昌国(アルト・フルート/フルート) *
田部井辰雄(ギター) *

EASTWORLD/TOCE-9463




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