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"ゲンダイオンガク"、武満から覗く、邦楽の世界の鮮烈... [before 2005]

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11月となりました。秋も深まろうとしております。さて、読書の秋... マイケル・ブース著、『英国一家、日本を食べる』(続編、『英国一家、ますます日本を食べる』も一緒に... )という、絶妙に「食欲の秋」へと誘いつつ、そうしたところに留まらない、イギリスのフード・ライターとその家族が繰り広げる、極めてユニークな日本旅行記を読む。で、ユニークであると同時に、日本の底知れなさを思い知らされる1冊でもあって... 日本人という視点を取っ払って、ニュートラルに見つめられる日本の姿の新鮮さ!何より、自分自身が、日本についてあまりに知らない... 知ろうとして来なかったことを深く認識させられる。でもって、今さらながらに興味を掻き立てられる日本!しかし、日本とは何と不可思議な国なのだろう?!それでいて、何とも愛おしい...
となれば、日本を聴いてみようかなと。それも、今の季節にこその、「秋」を音にした音楽!先日までのイタリア・バロックから一転、武満徹による邦楽器のための作品を集めた1枚、"IN AN AUTUMN GARDEN"(Deutsche Grammophon/471 5902)を聴く。

えーっと、クラシックをずーっと聴き続けて来て触れる雅楽の何と新鮮なこと!1曲目、『秋庭歌』(1973)は、国立劇場の委嘱で武満が作曲した20世紀の雅楽(後に5曲が足され、現在は『秋庭歌一具』として演奏される... )。なのだけれど、そもそも雅楽についてよく知らないのに、武満という特異なレンズを用いてその世界を覗くことが果たして正解なのかどうなのか、若干の戸惑いを覚えるのだけれど... それでも、邦楽器の思い掛けないカラフルさ、特に笙の瑞々しい響きには、知識の有り無しに関係なく、ただただ魅了される!いや、こういう感覚は、異文化との遭遇である外国人の雅楽体験に似ているのかもしれない。振り返れば、現代日本人にとっても、もはや雅楽は異文化(また、雅楽の歴史を紐解けば、そもそも洋楽であったとも言えるわけで... 雅楽と日本の関係は一筋縄では行かないのかも... )。そういう割り切ったところから見つめる雅楽というのもあるように感じる、武満による雅楽でもあったように思う。しかし、邦楽器と"ゲンダイオンガク"の親和性にも驚かされる!
続く、2曲目は、三面の琵琶のための「旅」(track.2)。なのだけれど、いやー、琵琶が発するサウンドの厳しい表情に慄いてしまう... で、この作品を聴くと、雅楽が如何に雅やかであるかを思い知らされる... 途中、声明のようなヴォーカルが浮かべば、平家物語のような雰囲気に包まれ、ドラマティックな盛り上がりを見せるのだけれど、その、西洋とはまったく異なる、水墨画で描かれるようなドラマティシズムに惹き込まれ... 惹き込まれて見えて来る風景もあって、ストイックなサウンドの中に、極めて豊かな詩情を感じ始めると、音楽的なおもしろさも強く感じることに... 三面の琵琶(つまり3つの琵琶... )による演奏は、ある種、琵琶コンソートとも言え... また初演では、独奏琵琶と、テープ(独奏者の左右に置かれたスピーカーから、二面の琵琶の演奏が流されていた... )による演奏だったらしいのだけれど(このアルバムでは多重録音... )、テープという当時の新しい技術が持ち込まれて生まれる感覚というのか、今となってはノスタルジックなテープの、機械的にサウンドが重ねられるドライさもどことなしに感じ、戦後「前衛」の尖がりが、琵琶の味わいの中に落し込まれて不思議な魅力を放つ。
そして、アルバムの後半は、「秋」抄(track.3)、「ノヴェンバー・ステップス」より十段(track.4)、蝕(エクリプス)(track.5)という、尺八と琵琶による作品が続くのだけれど... 尺八の噎び泣くような擦れた音に、まるでパーカッションのように撥を打ちつける琵琶の激しさ... 場合によっては聴き手を遠ざけてしまいそうな厳しいサウンドを発しながらも、そこに深い詩情を呼び覚ますから凄い... 徹底して洗練を極めて行った西洋の楽器には無い、邦楽器の粗削りが生み出す圧倒的な世界は、西洋音楽とは違うベクトルにあるもうひとつの音楽の姿を見せてくれる。そんな邦楽器のサウンドを、巧みに戦後「前衛」に結び付けてしまう武満のフレキシブルさ!これもまた、極めて日本的と言えるのかも... で、そうして生まれる音楽は、シェルシやラッヘンマンのイメージと重なるところがあり、極めて日本的でありながら、"ゲンダイオンガク"でもあり得るからおもしろい。
それにしても、クラシックにどっぷりと浸かった耳で捉える邦楽器の衝撃!その剥き出しのサウンドには中てられもするが、その独特さ... まるで自然そのものを音にしてしまったような在り様(素材重視?的な姿勢は、鮨や刺身にも共通するようで、そうしたあたりに日本文化の性格を見出したり... )を受け入れてしまうと、クラシックでは味わったことの無い、音楽を超越したサウンド・スケープが広がり、魅了されてしまう。いや、もっともっと知りたくなってしまう邦楽の世界... 現代邦楽...

TAKEMITSU: IN AN AUTUMN GARDEN ・ VOYAGE ・ ECLIPSE, ETC.
MUSIC DEPARTMENT, IMPERIAL HOUSEHOLD/TURUTA/YOKOYAMA


武満 徹 : 雅楽 『秋庭歌』 *
武満 徹 : 三面の琵琶のための 「旅」 *
武満 徹 : 「秋」 抄 **
武満 徹 : 「ノヴェンバー・ステップス」 より 十段 **
武満 徹 : 蝕(エクリプス) **

宮内庁式部職楽部 *
横山勝也(尺八) *
鶴田錦史(琵琶) *

Deutsche Grammophon/471 5902




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