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いとも古風なドメニコ・スカルラッティの不思議... [before 2005]

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さて、秋の深まりとともに、イタリアのバロックを眺めて参りました。そうして見えて来る、イタリア・バロックの実りの豊かさ!激烈な革新に端を発しつつも、古いものと新しいものを大胆にカクテルし、大きく飛躍した音楽... 今、改めて"イタリア"のバロックを見つめると、まるでビック・バンのようで、その多様な展開に、驚かされたり、感心させられたり... 何と言ってもワクワクさせられる!漠然と「バロック」の音楽を聴いてしまうと、どれも似たような音楽に聴こえてしまうのかもしれない。けれど、ルネサンスから如何にしてバロックに進化したかをつぶさに見つめると、ヴァラエティに富む音楽、中にはストラヴァガンツァ(奇妙、狂態)なものも含んで、実は音楽史におけるどの時代よりも、アグレッシヴに分化し、刺激に満ちていたのだなと... イタリア・バロック、恐るべし...
ということで、前回、アレッサンドロ・スカルラッティを聴いたので、その愛息子、ドメニコ・スカルラッティも聴いてみようかなと... それも、定番のソナタではなく、教会音楽... で、これがまた、驚かされる!リナルド・アレッサンドリーニ率いる、コンチェルト・イタリァーノの歌と演奏で、ドメニコ・スカルラッティのスターバト・マーテルと4声のミサ(OPUS 111/OP 30248)を聴く。

スターバト・マーテル(track.1-10)の始まりの音を耳にした瞬間、これは一体!?となる。ソプラノが何とも悲しげなメロディーをリュートとテオルボの伴奏で切々と歌い出す姿は、オペラの黎明期へと還る、レチタール・カンタンドを思わせるも、それがやがてポリフォニックに積み重ねられて... 10声と通奏低音が生み出す音楽は、まさにスティレ・アンティコ(スタイル・アンティーク)!バッハ、ヘンデルと同じ、1685年生まれの作曲家の音楽に、未だパレストリーナ様式が生きているとは... ドメニコのお馴染みのソナタの、軽やかでお洒落な雰囲気は、バロックの先を予感させるわけだが、そうした姿に馴染んで聴く、ドメニコの教会音楽のあまりの古風さには、ただただ驚かされる。父、アレッサンドロの音楽に漂うアルカイックさの比ではない。それでいて、その古風さ自体がポリフォニックというか、初期バロックにパレストリーナ様式(ルネサンス・ポリフォニーの多声が整理され、新たな簡潔さに踏み出す... )という、「古風」の中にも新旧が共存していて、ドメニコが生きた時代から1世紀を遡る、ルネサンスの終わりの過渡期的なサウンドを再現するようで、不思議。それでいて、その擬似"ルネサンスの終わり"が、独特の物悲しさを生み出していて、スターバト・マーテルの色合いをより濃くするからおもしろい。
続く、4声のミサ(track.11-16)が、また不思議... スターバト・マーテル以上にスティレ・アンティコ!パレストリーナ様式の伝統を受け継ぐ、無駄の無い真摯なポリフォニーを展開していて、いつの時代の音楽を聴いているのか、まったくわからなくなる。で、ドメニコは、14世紀の合唱作品集(?)にインスパイアされてこのミサを書いたらしいのだけれど... いやー、まさにであって、声部を絞ったパレストリーナ様式と、声部が拡大する前夜、ブルゴーニュ楽派あたりのポリフォニー、どちらをもイメージさせる素朴さを見せつつ、その2つのトーンが、ルネサンスの始まりでも終わりでもない、バロックが最もと盛んだった頃に結ばれて生まれる味わい深さ... かと思えば、ふわっと光が差すクレド(track.13)の明快さには、バッハを思わせるトーンが聴こえて来て、やがてモーツァルトへとつながってゆくような、18世紀の教会音楽の流れを見出し、古風というばかりでない部分も... しかし、ドメニコによる教会音楽は、間違いなくバロック期における偽古典主義。で、それほどまでにスティレ・アンティコにこだわったドメニコの芸術観がとても気になる。華麗なるヴェネツィアのオペラが陰りを見せ、流麗なるナポリのオペラが取って代わろうとしていた時代に在って、こうも滋味に溢れる古き渋さを貫くとは、ウーン。
というドメニコのスティレ・アンティコを見事に歌い上げるコンチェルト・イタリァーノ!モンテヴェルディのマドリガーレでブレイクした彼らだからこそのトーンも効いていて、室内合唱の精緻さがありつつ、歌の国、イタリアを意識させる艶やかな歌声が魅惑的。そうしたあたりから、スティレ・アンティコの渋さに、何とも言えない体温が生まれる。この温度感が、ドメニコの音楽に、もうひとつ旨味のようなものを加えるのか... バロック期における擬古典主義、という奇妙な在り様を、コンチェルト・イタリァーノの肉感的なサウンドが捉えると、どことなしにキッチュに響いて来るからおもしろい。で、そんな音楽に触れていると、これがドメニコ流の、華麗なるイタリア・バロックへのアンチ・テーゼだったのでは?とも思えて、古風な音楽が、俄然、挑戦的に感じられてしまう。渋く古風を決め込むドメニコに、艶っぽさを垣間見せるコンチェルト・イタリァーノ... 極めて素直な音楽のはずなのに、素直になれない作曲家の影が見て取れて、不思議な後味が癖になる。

DOMENICO SCARLATTI Stabat mater Concerto Italiano Rinaldo Alessandrini

ドメニコ・スカルラッティ : スターバト・マーテル 〔10声と通奏低音による〕
ドメニコ・スカルラッティ : 4声のミサ

リナルド・アレッサンドリーニ/コンチェルト・イタリァーノ

OPUS 111/OP 30248




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