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イル・サッソーネ!若きヘンデル、ヴェネツィアを沸かす。 [before 2005]

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16世紀、いち早くルネサンス・ポリフォニーから抜け出す糸口を見つけたヴェネツィア楽派... そこに、オペラという新しい時代を象徴するものが持ち込まれ、ヴェネツィアのバロックが形を成してゆく。やがてその音楽は、ヴェネツィアに留まらず、広くヨーロッパを魅了し、17世紀、ヴェネツィアは、音楽の最新モードの発信地として輝いた。が、コンチェルト形式を生み出したボローニャ楽派、流麗なオペラを紡ぎ出したナポリ楽派など、イタリア各地のライヴァルの興隆がヴェネツィア楽派の勢いを削ぐことになったか... 18世紀、輝かしき国際音楽都市、ヴェネツィアを沸かせた作曲家は、必ずしもヴェネツィアの作曲家に限らなくなる。
そうした時代のうつろいを強く印象付ける作曲家、ヘンデル!ジョン・エリオット・ガーディナー率いるイングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏で、ヴェネツィアで上演され、大評判となったヘンデルのオペラ『アグリッピーナ』(PHILIPS/438 009-2)を聴く。

ルネサンス期の音楽の流れは、北から南へ... フランドル楽派がヨーロッパを席巻したわけだが、バロック期に入ると流れは変わり、南から北へ... ヴェネツィア楽派など、イタリアの音楽がヨーロッパを席巻。そして、我々が知るクラシックの基盤が、ここで完成する。音楽用語にイタリア語を用いられるのが、そのあたりを如実に物語っている。しかし、18世紀になると、また違う流れが現れて... 南の新しい技法を吸収した北が、新しい才能を生み出す!北のヴェネツィアとも言える、ハンブルクのオペラ・シーンに彗星の如く登場した若きヘンデル(1705年、最初のオペラ、『アルミーラ』が、19歳の時の作品!でもって大成功!)。1706年にイタリアへと修行に出て、フィレンツェ、ローマに滞在。そこで、刺激的なイタリア・バロックに触れれば、早速、「バロック」を極める鮮烈な作品を発表。その才能はイタリアでも注目され、帰国の途中、立ち寄ったヴェネツィア... オペラの発展を牽引して来たこの街で、1709年、シーズンの開幕作品の委嘱を受ける。それが、ここで聴く『アグリッピーナ』!
いやー、若い!今、改めて聴く『アグリッピーナ』には、ロンドン時代の独自のスタイルを築いたオペラとは違う、初々しさも含む瑞々しさを端々から感じ... ヘンデル、24歳、若いからこそのキラキラとした輝きが眩しい!それと、若いからこその、何でも吸収してやろうという意欲的な姿勢も感じ... 「ヘンデル」という個性が固まる以前の、より柔軟な姿がそこにあるようで、興味深く。で、若いからこその全力投球というのか、アリアのひとつひとつが、どれもこれも際立って魅惑的。次から次へと繰り出されるアリアに、手を抜くようなところが無く、それどころか、ハッとさせられる瞬間が度々... 何だかもったいなく思えてしまうほど、キラりと光る若いひらめきに充ち満ちていて... 老成したジャンル、クラシックにおける「若さ」とは、ややもすると未熟さとしてネガティヴに捉えられてしまうわけだけれど、これほどに「若さ」が持つ輝きに魅了される音楽もないのでは?もちろん、ロンドン時代の手慣れた感覚、重厚感には欠けるのだけれど、それすら魅力に変え得るのが、若きヘンデルの際立った感性で...
『アグリッピーナ』は、そのタイトルの通り、ローマ皇帝、ネロの母を主役に、ユリウス・クラウディウス朝の帝位争いのゴタゴタを描くのだけれど。グリマーニ枢機卿(若きヘンデルがローマで出会った、ヴェネツィア貴族出身の枢機卿... 『アグリッピーナ』は、グリマーニ家所有のサン・ジョヴァンニ・グリソストモ劇場で初演... )による台本は、宮廷のゴタゴタを風刺劇的に描き出すもので、そのあたりを絶妙にすくい上げるヘンデルの音楽は、一昔前のオペラの悲劇と喜劇が未分化な状態(例えば、このオペラの後日談となるモンテヴェルディの『ポッペアの戴冠』のような... )を振り返りつつ、ライトな仕上がり。このロンドン時代とは一味違うライトさが、ヴェネツィア好みでもあったか、『アグリッピーナ』は大成功!ヘンデルは「イル・サッソーネ(ザクセン人)」と呼ばれ、オペラを育てたヴェネツィアっ子たちを沸かせ、外国人として異例の成功を勝ち取ることに(ちなみに、ヴィヴァルディはまだオペラの世界に進出しておらず、国際的なブレイク前夜、ピエタで教師として忙しくしていた... )。いや、若きヘンデルの音楽には、聴き手を引き込む不思議な引力を感じる。そして、大いに魅了されずにいられない。
そんな若きヘンデルの音楽をしっかりと捉える、ガーディナー+イングリッシュ・バロック・ソロイスツ。ガーディナーならではの端正さと明晰な音楽作りが、ヘンデルの「若さ」を素直に音にし、全3枚組の長丁場を、隙無く、美しく仕上げる。そうして見えて来る、若きヘンデルの才気の迸り!ガーディナーの明晰さを実現する、イングリッシュ・バロック・ソロイスツの磨き抜かれた一音一音が、ひとつひとつのアリアを輝かせ、どれもこれも、まるで結晶のように聴かせてくれるからたまらない。そして、そのアリアを丁寧に歌い綴る、粒揃いの歌手たち!まだ、ヘンデルのオペラが珍しかった1991年の録音ということで、どこかヘンデルのオペラに向き合う姿勢が初々しく、またそれが、若きヘンデルの音楽に絶妙な効果を生むようで、おもしろい。何より、ヘンデルの「若さ」が、見事に引き出されていることに、感心させられるばかり。

Handel Agrippina Jhon Eliot Gardiner

ヘンデル : オペラ 『アグリッピーナ』 HWV 6

クラウディオ : アラステア・マイルズ(バス)
アグリッピーナ : デラ・ジョーンズ(メッゾ・ソプラノ)
ネローネ : デレク・リー・レイギン(カウンターテナー)
ポッペア : ドナ・ブラウン(ソプラノ)
オットーネ : マイケル・チャンス(カウンターテナー)
パッランテ : ジョージ・モスリー(バス・バリトン)
ナルチソ : ジョナサン・ピーター・ケニー(カウンターテナー)
レスボ : ジュリアン・クラークソン(バス)
ジュノー : アンネ・ソフィー・オッター(メッゾ・ソプラノ)

ジョン・エリオット・ガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

PHILIPS/438 009-2




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