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千年共和国、最後の輝きにして足掻き?ラ・ストラヴァガンツァ! [before 2005]

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ヴェネツィア共和国... その始まりはいつだったのか?あまりはっきりしないらしい。が、現在の場所にヴェネツィアの街が築かれ始めたのは8世紀も終わりに近付く頃... すでに共和政体は存在し、北イタリアにあって、ビザンツ帝国の飛び地という、ある種の特区のような存在で、地中海貿易で頭角を見せ始めていた。それから千年、地中海沿海に現れた数々の大国と互角に渡り合い、その盛衰を見つめ、貿易のみならず、外交でも大きな力を発揮。中世から近世に掛けて、千年もの間、ヨーロッパとオリエントを結び、他に例を見ない貿易国家を維持した。そんな千年共和国も、やがて終焉の時を迎える。その直前、貿易国家としてのかつての栄光を失った18世紀、政治的斜陽の中、ヴェネツィアからヨーロッパ中に強い輝きを放った人物がいた、ヴィヴァルディ...
あのバロック・ロックなテイストは、ヴェネツィア共和国の死を前にした、"ヴェネツィアン・スピリット"の足掻きだったのでは?ヴィヴァルディの鋭い感性は、どこかで千年共和国の死を嗅ぎ取っていて、それを追い払うが如く、バロック・ロックを繰り広げたようにも感じる。際立った個性を示したヴィヴァルディの音楽を、今、改めて18世紀のヴェネツィアに落とし込んで聴いてみれば、時にギミックにも思えたその音楽に、また違った意味合いを見出すことができるのかもしれない。そんな、バロック・ロックが炸裂するコンチェルト... レイチェル・ポッジャーのヴァイオリン、アルテ・デイ・スオナトーリの演奏で、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集『ラ・ストラヴァガンツァ』(CHANNEL CLASSICS/CCS 19598)を聴く。

1712年、アムステルダムの出版業者、エティエンヌ・ロジェによって、『調和の霊感』が出版されると、ヴィヴァルディの名は、一躍、ヨーロッパ中に知れ渡ることに... その次回作として期待されていたのが、ここで聴く『ラ・ストラヴァガンツァ』(何でも、『調和の霊感』のスコアに予告されていたらしい... )。『調和の霊感』の出版から間もなく作曲(1712-13)が始められた12のヴァイオリン協奏曲は、1716年、再びロジェによって出版される。さて、『調和の霊感』でヴィヴァルディを知った、18世紀のヨーロッパ中の音楽ファンにとって、『ラ・ストラヴァガンツァ』の印象はどんなだったろう?今、改めて、『調和の霊感』の後で聴く『ラ・ストラヴァガンツァ』は、とにかく刺激的だ。『調和の霊感』の成功を受けて、もっと聴き手を驚かせてやろうというヴィヴァルディの意気込みがビンビン伝わって来る。で、次から次へと湧き上がる楽想の豊かさ!これが凄い!あまりに豊かで、その豊かさに聴き手が追い付けない... つまり先が読めない展開... まるでジェットコースターにでも乗っているかのような気分を味あわせてくれる。駆け上がって、一気に下って、右に左に急旋回、かと思えば、息を呑むような美しい情景が目の前に広がり、打って変わった抒情に包まれれば、無重力状態に放り込まれたような感覚にすらなる。『ラ・ストラヴァガンツァ』というタイトルには、奇妙、狂態という意味があるとのことだけれど、『調和の霊感』の後では、まさに奇妙、狂態... そのやり過ぎ感が、『ラ・ストラヴァガンツァ』の刺激的なバロック・ロックを際立たせている。
で、やり過ぎを巧みに聴かせてしまうのが、ヴィヴァルディの凄いところ。そして、それを実現しているのが、コンチェルトの最新のスタイル。ルネサンス以来の形(対位法を意識させられるような... コーリ・スペッツァーティを思わせるような... )を残していた『調和の霊感』に対して、近代的なコンチェルトの形を提示した『ラ・ストラヴァガンツァ』。複数のヴァイオリンが合奏と掛け合うのではなく、まさにバロック的な形(オペラの出現による... )とも言える、明確な主役(プリマ・ドンナ的な... )をひとり置いて、合奏がそれを盛り立てる、後のヴァイオリン協奏曲を予感させる形。今からすると、当たり前のことなのだけれど、コンチェルトがコンチェルトらしさを持つのは、ヴィヴァルディが活躍し始めた頃で... 恐らく当時の音楽ファンにとって、際立ってソリストが浮かび上がる『ラ・ストラヴァガンツァ』の在り様に、驚いたのではないだろうか?それは、音楽を聴きながらも、オペラを見るような感覚?それでいて、音楽の焦点をソリストに絞ることで生まれる絶大なインパクト!ソリストの名人芸は際立ち、奇妙、狂態が思う存分に繰り広げられて、聴く者を圧倒する。コンチェルトの醍醐味がここに生まれる。
というコンチェルトを聴かせてくれる、ポッジャーのヴァイオリン!彼女ならではの安定感から繰り出される奇妙、狂態は、危なっかしいところが一切なく、そのマエストラ然としたサウンドの力強さに、ただただ感服。もちろん、ヴィヴァルディならではの超絶技巧でもその妙技は冴え渡り、『ラ・ストラヴァガンツァ』ならではの魅力を、しっかりとした聴き応えを以って、見事に鳴らし切る。そうして明らかにされる、ヴィヴァルディによる作り込まれた奇妙、狂態のおもしろさ!単に勢いだけでない、ポッジャーのきちっとした音楽作りがあってこそ聴こえて来るヴィヴァルディの天才性にも舌を巻くことに... そこに、アルテ・デイ・スオナトーリの、これまた確かな、それでいて見事に息衝く演奏が展開されて... ヴィヴァルディによる奇妙、狂態を一音残らず徹底して鳴らそうという彼らの心意気たるや!ポッジャーに負けじと、ひとりひとりがソリスト級の自信を持って響かせる一音一音の雄弁さに、スコアの隅々までが輝き出して、この協奏曲集は、こんなにもおもしろかったのか?!と、目から鱗... いやー、千年共和国、最後の輝き... 何と魅力的にして刺激的な!

ANTONIO VIVALDI
La Stravaganza Rachel Podger


ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲集 『ラ・ストラヴァガンツァ』 Op.4

レイチェル・ポッジャー(ヴァイオリン)
アルテ・デイ・スオナトーリ

CHANNEL CLASSICS/CCS 19598




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