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ローマのヘンデル、オペラ禁止の聖都こそ音楽シーンが熱い! [before 2005]

バロック期のイタリアを見渡すと、何だかもの凄い。他に類を見ないほど音楽に充たされたヴェネツィアがあって、大学の街という性格からアカデミックな音楽が発達したボローニャがあって、伝統的な音楽の保護者、宮廷のあったマントヴァ、モデナ、パルマに、オペラの発明で知られるフィレンツェは、ピアノも発明... 遅れて来たナポリは、宮廷、学校、劇場の絶妙な連携で、戦略的に最新モードを生み出し... この多様性たるや!いや、だからこそ、イタリアの音楽はヨーロッパを征服したのだなと... で、忘れてならないのが、ローマ!
前回、ヴェネツィアを沸かせたヘンデルを聴いたので、今度は、ローマで活躍したヘンデルを探ってみようかなと... マルク・ミンコフスキ率いるレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏で、ヘンデルのディキシット・ドミヌス(ARCHIV/459 627-2)と、オラトリオ『復活』(ARCHIV/447 767-2)の2タイトル。輝かしきローマのバロック期を、ヘンデルの音楽から垣間見る。


1707年、コロンナ家プレゼンツ、カルメル山の聖母の祝日のヘンデル...

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ローマ教皇領の首都、ローマは、何と言ってもカトリックの首都!バロック期、ヨーロッパ中からセレヴたちが集まり、もちろん古くからのローマのセレヴたちもおり、それぞれが宮廷を構え、他の都市には無いゴージャスな状況が生まれる。でもって、その各宮廷が、芸術へのパトロネージを競うというから、もう... バロック期、ローマは、芸術がバブル!そこにやって来たドイツ青年、ヘンデル。ボローニャ楽派を代表する巨匠、コレッリ(1653-1713)に、ナポリ楽派、最初の巨匠、アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)と、イタリアのみならず、ヨーロッパ中に影響を及ぼすビッグ・ネームが居並ぶ中、ドイツからという珍しい才能は、目敏いセレヴたちにすぐに注目され... そうして生まれた、目が覚めるような鮮やかさを誇る、ヘンデルのイタリア時代(1706-10)の作品!
さて、ミンコフスキが取り上げるのは、ローマ切っての名門、コロンナ家提供によるイヴェント、カルメル山の聖母の祝日、1707年のお祭りのために書かれた音楽。で、その始まりは、マシス(ソプラノ)が歌うモテット「たとえ暴虐の中に地は荒れ狂おうとも」(track.1-6)なのだけれど、まるでファンファーレのような歌い出し!マシスの晴れがましい歌声に一気に惹き付けられる。何より、ヘンデルの音楽の輝かしさ!この得も言えない祝祭感に、ただならずワクワクさせられる。続く、カンタータ「主の僕たちよ、主をほめたたえよ」(track.7-14)も、カルメル山の聖母の祝日で取り上げられただろう作品で、こちらはコジェナー(メッゾ・ソプラノ)の艶やかにして軽やかな歌声と花やかなコーラスがブルーミン!お祭りの楽しさを朗らかに響かせる。で、ヘンデルがお世話になっていたルスポリ候のためのサルヴェ・レジーナ(track.15-18)を挿んで、前半から打って変わってのドラマティック!
ディキシット・ドミヌス(track.19-26)の、このパワフルで劇的な音楽こそ、まさにバロック!一方で、冒頭の衝撃的なコーラスから次々に繰り出される、対位法やら、コーリ・スペッツァーティやら、古いスタイルを巧みに用いて、そこから圧巻のドラマティシズムを生み出す青年ヘンデルの恐るべき器用さ!ルネサンスの巨匠たちがこの音楽を聴いたら腰を抜かしたに違いない... 聖都、ローマならではの伝統の上に、新しい方向性をしっかりと示して生まれるバロックの鮮烈さ!ルネサンス・ポリフォニーに、ヴェネツィア楽派の展開をつぶさに追って来て、改めてディキシット・ドミヌスを聴いてみると、この作品の凄さを思い知らされる。で、これがまたミンコフスキだから、もう... ドラマティックな音楽をより密度の濃いものとして、息つく暇を与えない... コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(コーラス)、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(オーケストラ)が、ミンコフスキの指揮の下、一丸となって突き進む姿は、ある意味、バロック精神の結晶なのかも...

HANDEL: DIXIT DOMINUS ・ SALVE REGINA ETC
LES MUSICIENS DU LOUVRE/MARC MINKOWSKI


ヘンデル : モテット 「たとえ暴虐の中に地は荒れ狂おうとも」 *
ヘンデル : カンタータ 「主の僕たちよ、主をほめたたえよ」 *
ヘンデル : サルヴェ・レジーナ *
ヘンデル : ディキシット・ドミヌス HWV 232

アニック・マシス(ソプラノ) *
マグダレーナ・コジェナー(メッゾ・ソプラノ) *
サラ・フルゴーニ(アルト)
パリック・ヘンケンス(テノール)
ケヴィン・マクリーン・メア(テノール)
マルコス・プジョル(バス)
コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(コーラス)
マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

ARCHIV/459 627-2




1708年、ボネッリ宮にて、ルスポリ候主催、ヘンデルのオラトリオ『復活』!

4477672
ところで、ヘンデルがローマに滞在した頃、ローマではオペラが禁止だった。聖都、ローマならではの悩ましい事情というか、華美なオペラ(時にオペラハウスは風紀紊乱の種でもあり... )を排除しようという原理主義的な教会勢力の思惑がありつつ、聖都に集うセレヴたちは、教皇を頂点に際立って華美なわけで... 何と言っても、ローマにオペラをもたらしたのは、教皇、ウルバヌス8世(在位 : 1623-44)と、その一族、バルベリーニ家(一族の支柱、ウルバヌス8世が世を去ると、ローマを追われてしまう... )。でもって、教皇が替わる度にオペラに対する政策は二転三転... となると、ローマは音楽的に立ち遅れていたのか?いや、けしてそうはさせないセレヴたち、楽しみに抜け目のないローマっ子のしたたかさ!常に法の抜け穴は探られて、オペラ禁止下の教会音楽がオペラティック!バロック期のローマは、かえってオペラ禁止の抑圧下でこそ、盛り上がった観すらある。
そんな作品のひとつ、ヘンデルのオラトリオ『復活』。1708年、ヘンデルが住み込みの作曲家をしていたルスポリ候のローマの邸宅、ボネッリ宮で演奏されたオラトリオで、そのタイトルにある通り、キリストの復活を題材にしている。が、カペーチェ(ポーランドからやって来たセレヴ、ポーランド元王妃、マリア・カジミェラに仕えた詩人... )による台本は、単にキリストの復活を輝かしく描き出すのではなく、復活を巡り天使と悪魔(だけじゃないのだけれど... )が問答をするという、ちょっと神学的な展開... そうした台本を驚くほど活き活きと音楽にした青年ヘンデル!イタリアのヴィヴィットさをたっぷりと吸収して放たれる、イタリア時代ならではの鮮やかな音楽で描き出せば、神学的だろうが何だろうが、もうほとんどオペラ!次々に繰り出されるアリアはどれも魅力的で、印象的なレチタティーヴォ・アッコンパニャート(オーケストラ伴奏のあるレチタティーヴォ... )は迫真に満ちていて。下手すると、この翌年、ヴェネツィアで作曲したオペラ、『アグリッピーナ』よりも、ドラマティックかもしれない?
という『復活』の魅力を、余すことなく響かせるミンコフスキ!描かれるキャラクターの全てを見事に息衝かせ、巧みに動かし... そうして際立つ、歌手たち!明るく軽やかなマシス(ソプラノ)の天使、艶っぽくどこか誘惑的ですらあるナウリ(バリトン)の悪魔。包み込むようなやわらかさが印象的なスミス(ソプラノ)のマグダラのマリア、突き抜けるような明快さを聴かせるエインズリー(テノール)の聖ヨハネ。堂々と真っ直ぐな佇まいが魅力的なマグワイア(メッゾ・メソプラノ)のクロパの妻... ヘンデルのイタリア時代の独特さ、よりバロックを感じさせる劇的な音楽を、鮮やかに繰り広げる最高のアンサンブルに、感服。

HANDEL: LA_RESURREZIONE
MARC MINKOWSKI


ヘンデル : オラトリオ 『復活』 HWV 47

天使 : アニック・マシス(ソプラノ)
マッダレーナ : ジェニファー・スミス(ソプラノ)
クレオフェ : リンダ・マグワイア(メッゾ・メソプラノ)
聖ジョヴァンニ : ジョン・マーク・エインズリー(テノール)
悪魔 : ロラン・ナウリ(バリトン)
マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

ARCHIV/447 767-2




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