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ホグウッドとマルティヌー、共鳴から生まれるポップ! [before 2005]

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クリストファー・ホグウッドは、ボフスラフ・マルティヌー(1890-1959)のスペシャリストでもあった。hyperionのヴァイオリンによる協奏曲のシリーズがあって、先日、聴いた、"Klassizistische Modern"のVol.1でも取り上げていて... 振り返れば、マルティヌーと言ったらホグウッド、という状況も... ピリオドの巨匠、イギリスのマエストロが、なぜ20世紀のチェコの作曲家だったのか?ちょっと不思議に思う(実は、プラハに留学しているホグウッド... )。ということで、ホグウッドのもうひとつの顔として、マルティヌーを聴いてみようかなと...
モダニストとして開花する、パリ時代のマルティヌーの音楽... クリストファー・ホグウッドの指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、マルティヌーのバレエ、『驚くべき飛行』、『調理場のレヴュー』、『まわれ!』(SUPRAPHON/SU 3749-2)を聴く。

チェコ、モラヴィア地方の田舎町、ポリチカに生まれたマルティヌーだったが、音楽的な環境には恵まれ、ヴァイオリンを習い、早くから才能を発揮、やがてプラハ音楽院へ... が、どうも不真面目だったようで、授業はさぼりがち、20歳の頃には退学処分... 故郷へ帰り、先生をしつつ、独学で作曲を試みたりと、第1次世界大戦(1914-18)の影響もあって、地味に過ごした20代... が、戦争が終わると、カンタータ「チェコ・ラプソディー」(1919)を発表し大成功!これを切っ掛けに、プラハへと戻り、スークに師事。しかし、時代はモダニズム全盛、ロマン主義に留まる師に飽き足らず、1923年、マルティヌーは、最前衛を目指して、パリへ!ルーセルに師事し、ストラヴィンスキーやフランス6人組の音楽に直に触れ、咲き乱れるモダニズムをたっぷりと吸収... そんなパリに来ての4年目、1927年に作曲されたバレエを聴くのだけれど、これがまた実に個性的でおもしろい!
まずは1曲目、リンドバーグの2週間前、大西洋横断飛行を試み、消息を絶った飛行士、シャルル・ナンジェッセとフランソワ・コリの冒険に強いインスピレーションを受けて作曲された、バレエ・メカニーク『驚くべき飛行』(track.1-5)。何でも、踊り手のいない機械によるバレエ、らしいのだけれど、ウーン... それって、どんなだ?ちょっと想像し難い... しかし、マルティヌーの音楽は、その「飛行」を繊細に描き出していて。2人の飛行士が眺めたであろう雲上での鮮烈な風景、乱気流に巻き込まれるような自然の脅威、計器類が異常を示し、ハラハラさせられるも、その先に大西洋の大海原(track.5)が視界に広がって、感動!が、結局、大西洋横断は達成されること無く、飛行機は静かに海へと呑み込まれるのか... そこに、何とも言えないセンチメンタルを誘い... バレエ・メカニークと、アンタイルの向こうを張るような看板を持ち上げながらも、飛行機に乗った"ジークフリート"とも言いたくなるヒロイズムが核を成し、ロマン主義的な物語性、描写性が巧みに用いられ、そこから映画音楽のような感覚を引き出して印象的。このあたりに、マルティヌーのニュートラルな音楽性、器用さを感じずにはいられない。
続く、2曲目は、一転、軽妙な音楽で綴られたバレエ『調理場のレヴュー』(track.6-15)。20年代を象徴するジャズを盛り込んで、"レヴュー"というだけにキャバレーを思わせる猥雑さ!タンゴ(track.10)あり、チャールストン(track.11)あり、コミカルで、スラップスティックで、その程好い場末感と、マルティヌーならではのお洒落感が絶妙にカクテルされて、ライトで楽しい音楽が繰り広げられる。最後、3曲目は、故郷、ポリチカの人形劇のために作曲されたバレエ『まわれ!』(track.16-23)。タイトルからして楽しそうなのだけれど、アニメーションも用い、かなり凝った舞台だったよう... きっとこどもたちは大喜びしたはず... で、その音楽はまさにアニメーションを想起させてキャッチー。どことなしにディズニーをイメージさせるところ(時折、コープランドにも聴こえるところも... やがて亡命することになるアメリカを予感させるのか?)もあり、こどもでなくともワクワクさせられてしまう。またこれが、思いの外、重厚な仕上がりで、オーケストラ作品としても聴き応えは十分!
そんなマルティヌーの音楽を、活き活きと捉えるマルティヌーのスペシャリスト、ホグウッド... イギリスとチェコ、地図上から見つめれば、両国の関連性は薄く感じるのだけれど、ここに聴く演奏からは、何か共鳴するものを見出せて... ホグウッドの音楽性を丁寧に見つめた時、そこには、ヨーロッパ大陸にはないライトさがあるように感じる。場合によっては、U.K.のポップ・カルチャーをも意識させられるのかもしれない。そして、そのあたりが、フォークロワに根差したチェコの音楽が持つ不思議なポップ感としっくりくるような... いや、両者が共鳴して、マルティヌーのポップ性がよりくっきりと浮かび上がるのか。また、ホグウッドにしっかりと応えるチェコ・フィルの演奏もすばらしく、実に表情豊か!そうして聴くバレエ音楽は、まるで無声映画を見ているようで、強く惹き付けられる。しかし、ホグウッドにしろ、チェコ・フィルにしろ、マルティヌーへの意気込みが凄い... そこから改めて見つめ直すマルティヌーという存在は、何と魅力的なのだろう。

MARTINŮ Ballets / Czech Philharmonic Orchestra & Hogwood

マルティヌー : バレエ・メカニーク 『驚くべき飛行』
マルティヌー : バレエ 『調理場のレヴュー』
マルティヌー : バレエ 『まわれ!』

クリストファー・ホグウッド/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

SUPRAPHON/SU 3749-2




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