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ヴィヴァルディの実験室?"figlie"の妙なる調和から生まれる霊感... [before 2005]

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さて、再びヴェネツィアへ戻りまして... ピエタ慈善院付属音楽院で演奏された、ヴィヴァルディのオラトリオ『勝利のユディータ』を聴いて、このオラトリオを歌い奏でたピエタの"figlie(娘たち)"の存在が気になり、いくつか本を当たる中、このピエタが舞台となる小説を手に取ってみる。大島真寿美著、その名もズバリ、『ピエタ』。いやー、思い掛けなくはまってしまう。ヴィヴァルディ先生の死の知らせで始まる、ちょっとミステリアスな物語は、都市の孤独を仮面で隠す刹那的なカーニヴァルの喧噪の影で、亡きヴィヴァルディ先生の存在が不思議な縁を結び、やがてそこから立場を越えた愛が溢れ出し、その何とも言えない温もりが現代を生きる読み手に癒しをもたらす。2012年、本屋大賞、第3位となった小説なのだけれど、納得... で、読書の秋、深まる秋の夜長に、お薦めかも... この物語にも登場する、ピエタのためのコンチェルトを集めた『調和の霊感』などを聴きながら...
ということで、ファビオ・ビオンディ率いるエウローパ・ガランテの演奏で、ヴィヴァルディの協奏曲集『調和の霊感』(Virgin CLASSICS/5 45315 2)を聴く。

バロック期、ピエタの"figlie"によるコンサートは、ヴェネツィアの音楽シーンに欠かせないものとなっていた。もちろんそこには、ヴィヴァルディら一流の教師陣が指導する音楽院の高いレヴェルもあっただろう。しかし、"figlie"が女性だけで編成されたオーケストラ、合唱団であったというインパクトもあったはず。何しろ、女性が舞台に立つことを禁止していたところすらあった時代、女性だけ、というのは、かなり特異だったはず。さらには、ピエタという場所が持っていたイノセンスさ(修道院ではないけれど、シスターが取り仕切る寄宿学校のような... "figlie"には、学生ばかりでなく、ベテランOBも多く含まれていたけれど... )は、艶っぽいヴェネツィアの雰囲気の中に在って、独特の存在感を放っていたはず。サン・マルコ大聖堂を筆頭に、各地区の教会が競った聖歌隊と合奏団、複数の劇場がしのぎを削ったオペラと、バロック期のヴェネツィアには、他の都市にはあり得ないような豊かな音楽シーンが存在していた。そうした中、人気を集めた"figlie"によるコンサートは、それだけ際立った個性があったように思う。そして、"figlie"が歌い、演奏したヴィヴァルディ作品もまた人気を集めることになる。
そこに目を付けたのが、アムステルダムの出版業者、エティエンヌ・ロジェ(コレッリ、アレッサンドロ・スカルラッティらを始めとする、イタリア・バロックの大家たちの楽譜を扱い、国際的な音楽マーケットの仕掛け人的存在... )。"figlie"のために作曲されたヴィヴァルディのコンチェルトをセレクションさせ、協奏曲集『調和の霊感』として出版(1712)。これが大ヒットとなり、ヴィヴァルディは国際的にブレイクを果たす。という『調和の霊感』を聴くのだけれど、ピエタ、"figlie"に注目してから聴けば、また違った表情を見せてくれるようで、新鮮... 瑞々しい描写に彩られた『四季』に比べれば、多少、地味にも思える『調和の霊感』も、"figlie"が演奏したことを想像すると、どこか実直な響きに思えて、より音楽としての密度を感じる。またそこには、ブレイクを果たす以前のヴィヴァルディの歩みが綴られているわけで、オペラに軸足を移す前のピエタでの仕事の集大成的な充実感と、「ヴィヴァルディ」という個性が確立される過程のヴァラエティに富むスタイルの数々が興味深く聴こえる。4つのヴァイオリンが居並ぶコンチェルトには、対位法を用いての古風な形が際立つところもあり、2つのヴァイオリンがリードするコンチェルトには、ヴェネツィア楽派のコーリ・スペッツァーティの伝統が浮かび、独奏ヴァイオリンによるコンチェルトでは、より後の時代のコンチェルトの在り様が窺えて、何かコンチェルト史を紐解くような感覚も...
そういう『調和の霊感』を改めて見つめれば、"figlie"がヴィヴァルディにとってある種の実験室だったのでは?とも思えて来る。高いレヴェルにあることはもちろん、ピエタの性格から、まるでひとつの家族(で、娘たちの父親はヴィヴァルディ?)のようであったアンサンブルが生む緊密さは、ヴィヴァルディの創意も刺激したはず。『調和の霊感』という言葉には、"figlie"の性質が籠められているようにすら感じられる。また、ひとつひとつのコンチェルトをじっくり聴いてみれば、それぞれに多彩な表情が描き込まれ、ヴィヴァルディと"figlie"の創造的なつながりを深く印象付けられる。ヴィヴァルディという作曲家は、その名声の一方で、けしてエリート・コースを歩んだわけではない(サン・マルコ大聖堂の楽長になったわけでもなく、有力な宮廷にポストを得たわけでもなかった... )。が、『調和の霊感』を始め、多くの作品を生み出した"figlie"の存在は、極めて興味深い。
さて、ビオンディ+エウローパ・ガランテの演奏なのだけれど、彼らならではの色彩に富むサウンドと、ビオンディのヴァイオリンを筆頭に、切れ味の良さが生む鮮やかさが見事で。そうして紡がれる生気に溢れる音楽は、ピエタが人気を集めた時代、沸き返っていたヴェネツィアの音楽シーンを垣間見せるようで、惹き込まれる。一方で、下手にコントラストのキツいヴィヴァルディを繰り広げるのではなく、長調のコンチェルトには、ヴェネツィアそのものの華やぎを描き出すようなカラフルさがあって。短調のコンチェルトには、ピエタの実直さが漂い、バッハもインスパイアされたヴィヴァルディの音楽の手堅さが強調されるのか。改めて、この『調和の霊感』を聴いてみれば、そのカラフルさと手堅さが、何とも魅力的。

VIVALDI : L’ESTRO ARMONICO
F. BIONDI & EUROPA GALANTE

ヴィヴァルディ : 協奏曲集来 『調和の霊感』 Op.3

ファビオ・ビオンディ(ヴァイオリン)/エウローパ・ガランテ

Virgin CLASSICS/5 45315 2



参考資料。
ポプラ社
発売日 : 2011-02-08




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