SSブログ

「古典」が新しさを導くマジック、擬古典主義を巡って... [before 2005]

音楽史を丁寧に紐解いてみると、そこかしこに「古典」が顔を出す。音楽の進化には、新しさばかりでない、古さもまた重要な要素... 例えば、ルネサンスに遡る様々なスタイルは、バッハを始めとするバロックの作曲家たちの器楽曲の根幹を成し、ハイドンやモーツァルトら古典派の作曲家たちは、交響曲、弦楽四重奏曲という最新のスタイルに、ルネサンス以来の対位法のイディオムをしっかりと組み込んでいて... そうした、バッハ、ハイドン、モーツァルトなどの18世紀の音楽を巧みに咀嚼し自らのスタイルを築いたブラームスは、ロマン主義の時代における新古典主義と呼ばれ... やがて20世紀になれば、アンチ・ロマンティシズとして、"モダニスト"たちによる擬古典主義の音楽が一世を風靡するわけだ。という具合に音楽史を振り返ると、新旧は常に背中合わせで、それがまた小気味良く入れ替わり、新しさと古さの転倒が、次なる時代の音楽を生み出しているからおもしろい。
さて、ホグウッドの擬古典主義のシリーズ、"Klassizistische Modern"、Vol.1を聴いたので、その続き... クリストファー・ホグウッドの指揮、バーゼル室内管弦楽団の演奏で、Vol.2(ARTE NOVA/74321 92650 2)、Vol.3(ARTE NOVA/74321 92765 2)を聴く。


ヴィジュアルで捉える擬古典主義、英国から...

74321926502.jpg
"Klassizistische Modern"のVol.2では、ホグウッドの故国、英国がインスパイアされている。ストラヴィンスキーが、まさに英文学の「古典」にインスパイアされた、ウィリアム・シェイクスピアによる3つの歌曲(track.12-14)に、18世紀、英国の画家、ホガースの版画にインスパイアされた、オペラ『放蕩息子の成り行き』からのアリア(track.16)とカヴァレッタ(track.17)、そこに、ティペット(1905-98)、ブリテン(1913-76)という、20世紀、英国を代表する2人の作曲家の作品を加えて... どことなしに「英国」の雰囲気が広がるのか... ちょっと気取ったところがありつつの、絶妙なライトさを見せるVol.2。ヨーロッパ大陸のトーンとは一味違うものがある。そういう点で、どこか似通った印象も受ける擬古典主義(そりゃ、18世紀リヴァイヴァルなのだもの、似て当然か... )を、Vol.1から巧みに切り返して来るVol.2。ホグウッドのセンスの冴えを感じずにはいられない!
で、気になるのは、普段、あまりスポットを浴びることの無い英国の擬古典主義... ティペットによる、ルネサンス末、バードの「セリンジャーのラウンド」に基づくディヴェルティメント(track.5-9)、ブリテンが独特のオリジナリティを確立する以前、擬古典主義のスタイルで作曲された作品番号、"1"のシンフォニエッタ(track.18-20)が取り上げられるのだけれど、改めて「英国」の擬古典主義として聴いてみると、ヨーロッパ大陸のモダニズムの最先端を行く擬古典主義とは違う、ゆったりとした時間が流れているようで、どこか牧歌的。「古典」をイディオムとしてではなく、ヴィジュアルとして捉えるようで、同じ擬古典主義ではあっても、考え方のズレのようなものを見出して興味深い。とはいえ、けして英国流が劣っているわけではなく、ヴィジュアルとして捉えられた「古典」が放つヴィヴィットさは印象的で、「古典」の古典らしい凛とした佇まいは、ヨーロッパ大陸にはない感覚かも。
さて、Vol.2では、ホグウッドの盟友と言うべき、ピリオド界の大御所、カークビー(ソプラノ)が登場。ストラヴィンスキーを歌う(track.10, 12-14, 16, 17)のだけれど。今や、ピリオド界には、驚異的なテクニックを持ち、驚異的なアリアを鮮やかに復活し得る才能(カークビーらピリオドを切り拓いた第1世代なんて、あっさりと凌駕する... )が次々に登場しているわけだけれど、カークビーのような独特なアルカイックさを持つ存在というのは、なかなかいない... 久々にカークビーのピュアな歌声を聴くと、そんなことを思わされた。そして、カークビーのアルカイックさが擬古典主義に"擬"を越えた「古典」そのものの表情を呼び込むようで、何と瑞々しいことか!ストラヴィンスキーのパストラル(track.10)なんて、特に!

Hogwood ・ kammerorchesterbasel Klassizistische Modern Vol.2

ストラヴィンスキー : 小オーケストラのための組曲 第1番
ティペット : 「セリンジャーのラウンド」に基づくディヴェルティメント
ストラヴィンスキー : パストラル *
ストラヴィンスキー : 2つのファゴットのための 無名歌
ストラヴィンスキー : ウィリアム・シェイクスピアによる3つの歌 *
ストラヴィンスキー : 新しい劇場のためのファンファーレ
ストラヴィンスキー : オペラ 『放蕩息子の成り行き』 から
   レシタティーヴとアリア 「トムからは何の便りもない... 静かに、夜よ」 *
ストラヴィンスキー : オペラ 『放蕩息子の成り行き』 から
   レシタティーヴとカバレッタ 「お父様だ!私はお父様を捨て... あの人のところへ行きましょう」 *
ブリテン : シンフォニエッタ Op.1
ストラヴィンスキー : 小オーケストラのための組曲 第2番

クリストファー・ホグウッド/バーゼル室内管弦楽団
エマ・カークビー(ソプラノ) *

ARTE NOVA/74321 92650 2




イメージに捉われない擬古典主義、イタリアへ...

74321927652
"Klassizistische Modern"のVol.3は、イタリアがフィーチャーされる。いや、英国の後のイタリアというのが、何とも明るく、目の覚める思いすらある。という1曲目、ストラヴィンスキーのバレエ『プルチネッラ』による組曲(track.1-11)... ペルゴレージを中心に、活気に満ちたイタリアのバロック作品を素材に、イタリア伝統のコンメーディア・デッラルテの軽妙な世界を描き出す、バレエ・リュスのために作曲された作品。で、改めて聴いてみると、ストラヴィンスキーが、思いの外、素材を大切に扱っていることに驚かされる。もちろん、モダニスト、ストラヴィンスキーらしい奇天烈な味付けもあるのだけれど、イタリア・バロックの魅力をそのまますくい上げ、素直な輝きに溢れたサウンドを聴かせて来るから、イメージは覆される。あるいは、バロックを知り尽くしたマエストロ、ホグウッドの鋭い視点があってこそ、ストラヴィンスキーという個性も薄まる?いや、これが新鮮!
続く、2曲目は、モンテヴェルディ、ヴィヴァルディの校訂でも知られる、イタリア近代音楽を担ったイタリアの作曲家、マリピエロ(1882-1973)の11の楽器のためのリチェルカーレ(track.12-16)。11の楽器という小さい編成に、「リチェルカーレ」という古風なスタイルが、如何にも擬古典主義的なのだけれど、そこから響き出すサウンドには、もう少し伝統的なイタリアならではの流麗さが広がり、どことなしに印象主義的なトーンも見受けられ、イタリアの擬古典主義の、一味違うテイストを楽しませてくれる。そして、もうひとり、イタリアの作曲家、マリピエロとともにヴィヴァルディ作品の復興に尽力したカゼッラ(1883-1947)の、ドメニコ・スカルラッティのソナタに基づく、スカルラッティアーナ(track.17-21)が、最後に取り上げられるのだけれど、これがまたおもしろい作品で、ピアノとオーケストラによる合奏協奏曲風... で、端々、ロマンティックな色合いも滲み、擬古典主義というセンスだけではない幅も見せるのか。すると18世紀のようで、19世紀のような、20世紀のような... ある種の大雑把さが作り出す味わいに、イタリア流のポエジーを感じてみたり。それがまた魅惑的でおもしろい。
ということで、"Klassizistische Modern"のシリーズ、全3タイトルを聴いて来たのだけれど、改めて振り返って感じるのは、ホグウッドの鮮やかなセンス!擬古典主義という狭い領域を扱いながら、見事に3タイトルとも違うテイストを繰り広げるのだから、凄い。何より、ピリオドというフィールドから捉える擬古典主義の、フレッシュさ!ホグウッドなればこその音楽が詰まっている!

Hogwood ・ kammerorchesterbasel Klassizistische Modern Vol.3

ストラヴィンスキー : 『プルチネッラ』 組曲
マリピエロ : 11の楽器のためのリチェルカーレ
カゼッラ : スカルラッティアーナ 〔ピアノと小オーケストラのためのドメニコ・スカルラッティの音楽に基づくディヴェルティメント〕 *

クリストファー・ホグウッド/バーゼル室内管弦楽団
アントニー・シピリ(ピアノ) *

ARTE NOVA/74321 92765 2




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。