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ベートーヴェンがスコットランドと出会って、ケミストリー... [before 2005]

9月18日は、スコットランド独立住民投票の日です。
って、日本人にはまったく関係無い話し... いや、グローバルが叫ばれて久しい昨今、けして遠い遠い国のお話しではありません。その「独立」に籠められた世界情勢への影響は、思いの外、大きい。ポンドはどうなるのか?イングランドはG7の一角としてどれほど力を保てるのか?今やコーンウォールまで独立してみる?なんて言い出してるけど、独立ブームがEUを再び揺さぶるのではないか?で、独立ブームもどき、東ウクライナの状況があって、NATOの存在が大きくなろうという時に、北海に軍事的空白域が生まれたら、どーなる?考え出すと、気が重くなって来る。もちろん、スコットランドの人々の思いこそ、尊重されるべきなのだけれど...
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しかし、スコットランド!かの地がこれほどまでに世界中から注目されたことがこれまでにあっただろうか?そういう風に考えると、スコットランド独立住民投票、その存在を際立って世界に知らしめたのだから、凄い。改めて、「スコットランド」とは何か、興味を掻き立てられるじゃないですか!ということで、かのベートーヴェンがアレンジしたスコットランド民謡、それからアイルランド民謡も含めて、ソフィー・ダヌマン(ソプラノ)、ポール・アグニュー(テノール)、ピーター・ハーヴェイ(バリトン)の3人による歌と、ピリオドで活躍する名手たちの伴奏で、"Beethoven ilish & scottish songs"(ASTRÉE/E 8850)を聴く。

最初にその存在を知った時、とにかくびっくりした。ベートーヴェンがスコットランド民謡?!いや、あるんです... そういうの... それも、1曲や2曲じゃない。軽く、百、超えちゃってます。って、クラシックにおける盲点かも。けど、よくよく見つめてみると、そこには当時の興味深いムーヴメントが浮かび上がって来て... ということで、ベートーヴェンがスコットランド民謡に触れる前日談から始めるのだけれど... 18世紀、ヨーロッパの音楽シーンにおいて、フォークロワの再発見が起こっていた。そうして生まれた音楽は、バロックから古典主義の時代に掛けて、いろいろ見出すことができる。中東欧のフォークロワに刺激を受けたテレマンや、ハイドンのハンガリー風、などなど... フォークロワ=田舎趣味の野趣に富んだ音楽は、ある種のエキゾティシズムと成り得たのか?トルコ風などと並んで、人気を集めることになる。で、そうしたムーヴメントの先に、ベートーヴェンもいた!
1809年、スコットランドで出版業を営むジョージ・トムソン(1757-1851)の依頼を受けて、スコットランドのみならず、アイルランド、ウェールズの民謡もアレンジしたベートーヴェン。民謡なればこそのキャッチーなメロディーを、ベートーヴェン手ずから伴奏パートを付けて補強するのだから、かなり強力。どのナンバーも思い掛けなく雄弁で、民謡でありながらも、民謡の素朴さとは一味違う、独特の風合いを放ち。またそこに、とてもロマンティックなセンスが生まれていて、ベートーヴェンにして、ベートーヴェンとも一味違う瑞々しさを感じ、魅了されてしまう。いい具合にフォークロワの野趣に富む音楽性を、ベートーヴェンのアグレッシヴさに結び付けて、ドラマティックな音楽が繰り広げられれば、ウェーバーに始まるドイツ・ロマン主義のオペラを思わせるようなところもあり、興味深い。いや、そういうケミストリーを引き起こしたベートーヴェンの音楽性に、また新しい一面を見る思い。いい小遣い稼ぎになるとはいえ、民謡のアレンジにも真正面から挑み、後につながる可能性を感じさせる音楽にアレンジしたベートーヴェンの本気度!そこからは、ドイツ・ロマン主義がどこからやって来たのか?ということも考えさせられ、フォークロワの再発見とロマン主義の密接さというものも意識させられ、何気に刺激的だったり。
しかし、民謡のメロディアスさというのは、ただならず魅惑的!12のスコットランド民謡、25のスコットランド民謡、20のアイルランド民謡、25のアイルランド民謡、12のアイルランド民謡、26のウェールズ民謡、12の各国の民謡からのナンバーによる24曲が並べられた"Beethoven ilish & scottish songs"。ソロはもちろん、二重唱、三重唱もあり、ピアノ・トリオによる伴奏が付いて、それは単なる民謡のアレンジを越えているのだけれど、フォークロワならではの感覚ももちろんあり。アイルランド民謡、「いとしの娘よ、汝の唇が残したキスは」(track.3)の温もりを感じつつ切なげな旋律は、心に沁みるものがあり。かと思えば、「アイルランド人の熱血」(track.12)の疾走感の楽しさ!で、おもしろいのは、イギリス国歌、「ゴット・セイヴ・ザ・キング」(track.20)までもあったり... となると、"ユナイテッド・キングダム"そのものを俯瞰するようであり、盛りだくさん!いや、U.K.の音楽の豊かさに感じ入る。そういう多様さ、豊かさが育んだU.K.の文化に感慨深いもの感じる。
そして、その豊かさを歌い上げるすばらしい3人の歌手たち!ダヌマンの落ち着いたソプラノに、明朗なアグニューのテノール、深く澄んだハーヴェイのバリトン... この3人の持つトーンが絶妙に綾なし、二重唱、三重唱ではもちろん、アルバム全体をしっとり歌いつなぎ、クラシックの洗練を以ってして、U.K.のフォークロワが持つ性質をナチュラルに表現し、心に響く歌を繰り出して来る。そんな3人を支える、ピリオドによるピアノ・トリオ!ヴェルツァーのチェロがしっかりと底を支えつつ、フィドルを思わせる雰囲気も纏ったモッキアのヴァイオリンが、歌手たちに負けず歌う!そこに、繊細かつ時に大胆にも鳴り響くジェローム・アンタイのピリオドのピアノ!歌ばかりでなく、表情豊かなピアノ・トリオも聴きどころ。

BEETHOVEN ilish & scottish songs Daneman Agnew Harvey Moccia Verzier Hantaï

ベートーヴェン : 女というもの 〔12のスコットランドの歌 WoO 156 から 第8番〕
ベートーヴェン : ジャミーは私のいいひと 〔25のスコットランド民謡 Op.108 から 第5番〕
ベートーヴェン : いとしの娘よ、汝の唇が残したキスは 〔20のアイルランド民謡 WoO 153 から 第9番〕
ベートーヴェン : さあ、楽しく輪になって 〔25のアイルランド民謡 WoO 152 から 第8番〕
ベートーヴェン : 来たれ、杯を満たせ、わが友よ 〔25のスコットランド民謡 Op.108 から 第13番〕
ベートーヴェン : グレンコウの虐殺に 〔25のアイルランド民謡 WoO 152 から 第5番〕
ベートーヴェン : どんなに愛しているかを示すにはどうしたらよいのだろう 〔25のアイルランド民謡 WoO 152 から 第6番〕
ベートーヴェン : 別れの歌 〔12のアイルランド民謡 WoO 154 から 第3番〕
ベートーヴェン : インヴァネスのかわいい乙女 〔25のスコットランド民謡 Op.108 から 第8番〕
ベートーヴェン : ああ、汝こそわが心の人ウィリー 〔25のスコットランド民謡 Op.108 から 第11番〕
ベートーヴェン : 夢 〔26のウェールズ民謡 WoO 155 から 第14番〕
ベートーヴェン : アイルランド人の熱血 〔12のアイルランド民謡 WoO 154 から 第4番〕
ベートーヴェン : アルスターへの帰郷 〔25のアイルランド民謡 WoO 152 から 第1番〕
ベートーヴェン : 変わらぬ愛 〔26のウェールズ民謡 WoO 155 から 第22番〕
ベートーヴェン : エオリアン・ハープに 〔26のウェールズ民謡 WoO 155 から 第9番〕
ベートーヴェン : 老人たちが予言する 〔20のアイルランド民謡 WoO 153 から 第4番〕
ベートーヴェン : 別れのキス 〔26のウェールズ民謡 WoO 155 から 第25番〕
ベートーヴェン : 女房に子供に友達 〔25のアイルランド民謡 WoO 152 から 第19番〕
ベートーヴェン : 再び歌え、わが竪琴 〔25のスコットランド民謡 Op.108 から 第24番〕
ベートーヴェン : ゴッド・セイヴ・ザ・キング 〔12の各国の民謡 WoO 157 から 第1番〕
ベートーヴェン : クルーイドの谷 〔26のウェールズ民謡 WoO 155 から 第19番〕
ベートーヴェン : バンゴアの修道僧たちの行進 〔26のウェールズ民謡 WoO 155 から 第2番〕
ベートーヴェン : 忠実なジョニー 〔25のスコットランド民謡 Op.108 から 第20番〕
ベートーヴェン : 兵士の夢 〔25のアイルランド民謡 WoO 152 から 第9番〕

ソフィー・ダヌマン(ソプラノ)
ポール・アグニュー(テノール)
ピーター・ハーヴェイ(バリトン)
アレッサンドロ・モッキア(ヴァイオリン)
アリックス・ヴェルツィアー(チェロ)
ジェローム・アンタイ(ピアノ : 1806年製、ブロードウッド)

ASTRÉE/E 8850




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