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創意と狂想、17世紀、北イタリア、ヴァイオリン音楽の黎明。 [before 2005]

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さて、ヴェネツィアへ戻ります。いや、この際、ヴェネツィアに留まらず、17世紀、北イタリアの刺激的な音楽シーンを俯瞰してみようかなと... で、改めて、初期バロックから、盛期バロックへの北イタリアの音楽シーンの熱さに、目を見張ってしまう。例えば、ヴァイオリン!この、クラシックには欠かせない花形楽器を、花形へと押し上げたのが17世紀の北イタリア。ストラディヴァリら、伝説の名工たちが活躍し、楽器の洗練にも裏打ちされたヴァイオリン音楽の開花!開花にして、すでに咲き乱れるような様相を呈し...
そんな、17世紀、北イタリアにおけるヴァイオリン音楽に注目した、ピリオド界切っての鬼才ヴァイオリニスト、ファビオ・ビオンディと、彼が率いるエウローパ・ガランテによるアルバム、"INVEZIONI E STRAVAGANZE"(OPUS 111/OPS 30-186)を聴く。

ヴァイオリンの歴史は、16世紀まで遡ることができる(現存最古のヴァイオリンは16世紀後半のものなのだとか... )のだけれど、例えば、ジョヴァンニ・ガブリエリ(ca.1554/57-1612)の器楽作品を思い起こすと、主役はコルネットに、トロンボーン。17世紀初頭、ヴァイオリンは、まだ脇役に過ぎなかった。が、間もなく、ヴァイオリンの名手の出現によって、状況は変わる。さらには、ヴァイオリンという楽器が牽引して、器楽曲というジャンルが大きく発展することにもなる。そして、"INVEZIONI E STRAVAGANZE"、その始まりは、マントヴァの出身の名手で、ドイツ語圏でも活躍したファリーナ(ca.1600-ca.1640)による、1627年に出版されたパヴァーヌとガリアルダ集から、カプリチョ・ストラヴァガンテ。奇想(capriccio)にして狂想(stravagante)というだけに、ヴァイオリンでヴァイオリンではない楽器(ハーディガーディ?カスタネット?ギター?などなど... )のサウンドを作り出し驚かせるかと思えば、動物は鳴くは、楽器は壊れるは、名人芸から繰り出される時にエキセントリックですらある様々な表情が、聴く者を徹底して楽しませる!ヴァイオリン音楽の黎明期、形式がまだ定まらないからこその自由さか?実験精神に溢れ、惜しみなく名人芸を盛り込んだブっ飛んだ音楽は、かえって現代的な印象を受ける。
その後で、モデナ公、パルマ公の楽長を務めたウッチェリーニ(ca.1603-1680)による2つのシンフォニア(track.2, 3)を聴くのだけれど... 「シンフォニア」の登場に、まさに器楽曲の発展を感じずにはいられない!交響曲の故郷は、やっぱり北イタリアだったなと感慨も... もちろん、後の交響曲につながるような形はまだまだ見えず... とはいえ、ヴァイオリンが活き活きとアンサンブルを引っ張り、繰り広げる音楽の活気に充ちた表情は魅了されずにいられない!特に、2つ目のシンフォニア「大戦争」(track.3)の息衝く音楽は、劇画ちっく!いや、こういうテイストこそバロックだなと... そこから一転、ヴェネツィアで活躍したレグレンツィの、1673年に出版されたソナタ集、『ラ・チェトラ』から、6番の4声のソナタ(track.4-6)は、「ソナタ」という形が生まれていて、形式というものをしっかりと感じられるあたりがまた興味深い。そうして生まれるテイストは、後の弦楽四重奏を予感させるようで、落ち着きを漂わせ、そこにヴェネツィアの都会的なセンスを見出すようでもあり、印象的。
しかし、新しい時代の音楽を生み出そうという元気の良さというのか、"INVEZIONI E STRAVAGANZE(創意と狂想)"に詰め込まれた、17世紀、北イタリアの活気に溢れる音楽シーンは、何と魅力的だったのだろう!まさに創意に溢れ、狂想も伴って、刺激的。また、新しい時代の産物としての形式の中に、ルネサンスが呼び覚まされるところがあって。2つのヴァイオリンを並べたソナタには、コーリ・スペッツァーティの作法が聴こえ。ルネサンスのオールド・スタイル(対位法)を再評価し、バロックの動きのあるメロディーをそこに落とし込んで生まれる新しい音楽の興味深さ。こうして21世紀へとつながるクラシック像は生まれたわけだ。
そんな、ヴァイオリン音楽の黎明期を鮮やかに聴かせてくれるビオンディのヴァイオリン!技巧的なあたりはもちろん、明朗で、粋で、味わい深いその音色。そうして響いて来る、表情に富んだ音楽。聴き入って、驚かされて、改めてこのマエストロのヴァイオリンの魅力に惹き込まれてしまう。いや、そういうビオンディを引き立てる音楽であり、ビオンディの見事な演奏があって際立つ音楽でもあり、最高の相性を見せるビオンディと、17世紀、北イタリアのヴァイオリン音楽。また、エウローパ・ガランテもすばらしく、ビオンディとの丁々発止のやり取りが、活きのいい音楽をより息衝いたものとし、魅了される。

INVEZIONI E STRAVAGANZE ・ EUROPA GALANTE ・ BIONDI

ファリーナ : カプリッチョ・ストラヴァガンテ 〔パヴァーヌとガリアルダ集 より〕
ウッチェリーニ : シンフォニア 「ラ・スアヴィッシマ」 〔『シンフォニエ・ボスカレチエ』 より〕
ウッチェリーニ : シンフォニア 「大戦争」 〔『シンフォニエ・ボスカレチエ』 より〕
レグレンツィ : 4声のソナタ 第6番 〔ソナタ集 『ラ・チェトラ』 Op.10 より〕
マッツァフェッラータ : 2つのヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ
ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィターリ : 4声のカプリッチョ Op.5
ファルコニエーリ : ソナタ 「奇抜な女児」 〔2つのヴァイオリンと通奏低音のための〕
レグレンツィ : 4声のソナタ 第5番 〔ソナタ集 『ラ・チェトラ』 Op.10 より〕
マリーニ : 4声のパッサカリア ト短調 Op.22
ロッシ : ソナタ 「ラ・モデルナ」 〔様々なソナタ集 第3巻 より〕

エウローパ・ガランテ
ファビオ・ビオンディ(ヴァイオリン)
エンリコ・ガザッツァ(ヴァイオリン)
ロバート・ブラウン(ヴィオラ)
マウリツィオ・ナッデオ(チェロ)
ティツィアーノ・バニャーディ(テオルボ/ギター)
セルジョ・チョメイ(チェンバロ)

OPUS 111/OPS 30-186




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