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満開のルネサンス!ポリフォニーのユートピアに迷い込む... [before 2005]

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中世からルネサンスへ、音楽史の歩みを改めて見つめてみたこの夏。漠然と捉えていた中世とルネサンスのイメージが、少し明確になって、それでいて、豊かな音楽世界に触れることができたような気がする。それは、普段、耳にしているクラシックの世界とはまた違う世界のようでいて、間違いなく今の音楽の基底にある世界。そのギャップを考えると、音楽の歩んで来た道程に感慨深いものを感じる。しかし、中世からルネサンスへの音楽の進化が実に興味深かった!ヨーロッパの国際情勢が大きく動いたことで、音楽も大きく揺さぶられ、フランス主導から、それぞれの地域性が浮かび上がり... それらを巧みにまとめ、ルネサンス・ポリフォニーを生み出したブルゴーニュ楽派、ルネサンス・ポリフォニーを大きく発展させたフランドル楽派、やがて爛熟期を迎え...
そして、ウルトラ・ポリフォニー!パウル・ファン・ネーヴェル率いる、ウエルガス・アンサンブルのコーラスで、16世紀、ルネサンス・ポリフォニー全盛の時代、その最も輝かしい瞬間を切り取ったアルバム、"Utopia Triumphans"(SONY CLASSICAL/SK 66 261)を聴く。

それはもう、理屈抜きの美しさ!"Utopia Triumphans"、ユートピアの勝利... まさに!である。このアルバムから流れ出すルネサンスの響きに包まれると、まるで天国に迷い込んでしまったような、そんな気分にさせられる。いや、ヘブンリーなルネサンス・ポリフォニーのイメージに違わない、これぞルネサンスな1枚... で、その「ルネサンス」が極まったナンバーが次々に繰り出されるのだから、そのユートピア感は半端無い。そして、その始まりが、ウルトラ・ポリフォニーを代表する傑作、タリスの40声のモテット「我、汝の他に望みなし」。とにかく、40声である。40もの声部が、美しく綾なしながら鳴り響く... それも、ルネサンスならではのやわらかなメロディーをともなって... ふわーっと、まるで棚引くように広がる音響から、時折、美しいメロディーが浮かび上がっては消え、浮かび上がっては消え、しばらくすると、そこから突然、壮麗な大伽藍が立ち現れて、息を呑む。天国を見たことはないけれど、天国ってきっとこんな感じなのだろうと思わせてくれる美しさ。宗教対立が苛烈を極めた16世紀に、こういう音楽が生み出されたかと思うと、とても興味深い。タリス自身も、プロテスタントとカトリックの間を揺れ動く不安定なイングランドを生き抜いた人物であることを考えれば、これはある種の逃避だったのかも?
そんなルネサンス音楽の爛熟期のナンバーが中心の"Utopia Triumphans"に、一味違うスパイスを効かせているのが、15世紀に活躍したフランドル楽派の2人の巨匠、ジョスカンとオケゲム。ジョスカンの詩篇、第90番、「いと高き神の保護のもとに住み」(track.3)は24声、オケゲムのカノン「主に感謝せよ」(track.4)は36声と、16世紀の作曲家たちに負けてはいないのだけれど、爛熟期の作曲家たちにはない素直な運びと、素材の素朴さが、ミニマル・ミュージックを予感させて、おもしろい。一方で、爛熟期の作曲家たちは、どこかでバロックの到来を予感しているのか、ポリフォニーの中にホモフォニックな瞬間を設けて、ドラマティックな表情を生み出すところもあり... 特に、ヴェネツィア楽派の巨匠、ジョヴァンニ・ガブリエリのモテット「主よ、あなたを呼びます」(track.6)は、はっきりとポリフォニーとホモフォニーを行き来し、2つの食感が不思議なテイストを生み出す。そうして、アルバムの最後を締めるのが、ストリッジョによる40声のモテット「見よ、祝福されたる光が」(track.7)。ジョヴァンニ・ガブリエリとまでは行かなくとも、やはりホモフォニックな度合いを増しているウルトラ・ポリフォニーを展開していて。ルネサンスのヘブンリーさに、新しい時代を予感させるエモーショナルさが薄っすらと浮かび、また印象的。
しかし、2声のオルガヌムに始まった多声音楽が、中世、実験を重ねて声部を増やし、ルネサンス、進化を加速させ40声にまで至るのだから、何だか感無量でもある。そして、多声音楽のバブルとも言えるウルトラ・ポリフォニーは、西洋音楽史におけるひとつの頂点だったなと。"Utopia Triumphans"で繰り広げられる音楽は、まさにその頂点で輝く結晶だろうか。またそこに、ルネサンス・ポリフォニーの広がりも籠められていて。イングランドのタリス(track.1)、フランスのマンシクール(track.5)、イタリアのポルタ(track.2)、ストリッジョ(trac.7)、ジョヴァンニ・ガブリエリ(track.6)と、フランドル人ではないフランドル楽派の継承者たちが、より多彩な音楽を紡ぎ出し。どこか似通った印象も受けるルネサンス・ポリフォニーだけれど、いや、けしてそうではないことを丁寧に聴かせる"Utopia Triumphans"。盛期ルネサンスの最高のカタログにも成り得ている。
という"Utopia Triumphans"を聴かせてくれた、ネーヴェル+ウエルガス・アンサンブル。40声ともなれば、単なるコーラスでは難しい、ひとりひとりの技量の高さが求められるのだけれど、見事に歌い上げるウエルガス・アンサンブル!癖の無い伸びやかな声を丁寧に束ね、明朗なハーモニーを響かせながら、力強さも見せる巧みさ... ネーヴェルの鋭敏なバランス感覚が40声を的確に導き、この上ないヘブンリーさを作品から引き出す。しかし、これが、声だけで生み出されているという驚き!人の声に勝る物はないということか... ただただ、ひたすらに美しく、スムーズに、この世のものとは思えない響きで聴く者をやさしく包んでしまう。ここまで来ると、音楽というレベルを越えてしまっているようにすら感じる。

UTOPIA TRIUMPHANS
HUELGAS ENSEMBLE ・ PAUL VAN NEVEL

トマス・タリス : モテット 「我、汝の他に望みなし」
コスタンツォ・ポルタ : ミサ・デュカリス より サンクトゥス/アニュス・デイ
ジョスカン・デ・プレ : 詩篇 第90番 「いと高き神の保護のもとに住み」
ヨハネス・オケゲム : カノン 「主に感謝せよ」
ピエール・ド・マンシクール : モテット 「主をほめ讃えよ」
ジョヴァンニ・ガブリエリ : モテット 「主よ、あなたを呼びます」
アレッサンドロ・ストリッジョ : モテット 「見よ、祝福されたる光が」

パウル・ファン・ネーヴェル/ウエルガス・アンサンブル

SONY CLASSICAL/SK 66 261

宗教戦争の16世紀、逃避的なヘブンリーさと、新しい時代の兆し。
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