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ヘンリー8世の気晴らしと、メアリー1世の結婚。 [before 2005]

さて、カール5世の宮廷で奏でられた音楽を聴いて、その子、フェリペ2世と、孫、カルロスを描いたオペラを聴いたのだけれど、次は、カール5世の叔母の嫁ぎ先、イングランド王、ヘンリー8世の宮廷で奏でられた音楽と、その娘、メアリー1世と、フェリペ2世の婚礼の音楽を聴いてみようかなと... しかし、華麗なる縁戚関係に目が回る。そのやんごとなさと、複雑さたるや!カール5世の母親と、メアリー1世の母親が姉妹で、メアリー1世は、従兄の息子と結婚したわけで... それでまた国際政治が動いていたのだから、凄い...
という、16世紀、ダイナスティを飾ったルネサンスの音楽。リコーダー3人組、アンサンブル・ドライクラング・ベルリンが、マルチなルネサンス君主、へンリー8世の作曲家としての側面にスポットを当てる、"PASTYME with GOOD COMPANYE"(CHANDOS/CHAN 0709)と、リチャード・チーザム率いる、オーケストラ・オブ・ザ・ルネサンスの歌と演奏で、メアリー1世とフェリペ2世の婚礼を再現する、"The marrige of England and Spain"(GROSSA/GCD P 31401)を聴く。


"PASTYME with GOOD COMPANYE"、ヘンリー8世の気晴らし!

CHAN0709.jpg
イングランド王、ヘンリー8世(1491-1547)の作品を中心に、その宮廷で活躍したウィリアム・コーニッシュ(ca.1465-1523)、さらに、一昔前の作曲家となる、15世紀、ブルゴーニュ公に仕えたエーヌ・ヴァン・ギゼゲム(ca.1445-ca.1472/97)、16世紀前半、パリにおいて楽譜出版で成功した、ピエール・アテニャン(ca.1480-1551/52)の作品が、リコーダー・コンソート(時折、パーカッションも加わって... )によって軽やかに奏でられる、"PASTYME with GOOD COMPANYE"。「良き仲間との気晴らし」、このアルバムのタイトルは、ヘンリー8世による歌曲からのもので、リコーダー用にアレンジ(track.7)されて取り上げられるのだけれど、そのキャッチーさたるや!パーカッションがパワフルにビートを付け、勇壮でもあり、魅了される!
ヘンリー8世というと、最初の王妃と離婚するために国教会を設立(1534)し、王妃を取っ替え引っ替えしたクソ野郎(そういう強引さがあって、イングランドを中世から近世へと脱皮させ、やがて訪れる、次女、エリザベス1世のゴールデン・エイジの礎を築いたことも忘れるわけには行かない... )なイメージが先行するのだけれど、スポーツ万能で、文章にも長け、作曲もこなしてしまうという、マルチな才能を発揮した典型的なルネサンス君主でもあって... そういうルネサンス的な開明さがふんわりと香り、まさに「良き仲間との気晴らし」といった、気の置け無さに包まれるヘンリー8世の音楽。歌曲がオリジナルの作品は、どれもメロディアスで、コンソートのための作品は、しっかりとポリフォニーを構築して、他の作曲家たちにまったく引けを取らない。で、そんなヘンリー8世の作品が、アルバムの半分以上を占めるから凄い。片手間の作曲でなかったことを示している。
というヘンリー8世を取り上げた、アンサンブル・ドライクラング・ベルリンの演奏が、また何とも言えず魅力的で... 見事なテクニックを駆使して、キレのある演奏を繰り広げるかと思えば、素朴なメロディーをほのぼのと温もりを以って奏で、聴き入るばかり。そこに、メツラーによるパーカッションがアクセントを加えれば、音楽はより活き活きとしたものとなり... 例えば、コーニッシュの"Blow thi horne hunter"(track.9)の、リコーダーとパーカッションが生み出す、カラフルに弾けるリズムのポップさたるや!慇懃な宮廷音楽とは一味違う、「良き仲間との気晴らし」らしい軽快さが心地良く... 映画やドラマで見るヘンリー8世のイメージとは違う、時にかわいらしさすらあるその音楽に、思い掛けなく惹き込まれてしまう。

PASTYME WITH GOOD COMPANYE - Ensemble Dreiklang Berlin

ヘンリー8世 : Whereto should I express
ヘンリー8世 : Taunder naken
エーヌ・ヴァン・ギゼゲム : De tous biens plaine
ヘンリー8世 : コンソート VIII
ヘンリー8世 : Without discord and bothe accorde
ヘンリー8世 : If love now reynyd
ヘンリー8世 : Pastyme with good companye
ウィリアム・コーニッシュ : Adew, adew, my heartis lust
ウィリアム・コーニッシュ : Blow thi horne hunter
ウィリアム・コーニッシュ : A robyn, gentyl robyn
ヘンリー8世 : コンソート XV
ヘンリー8世 : コンソート XIV
ウィリアム・コーニッシュ : My love sche morneth
作曲者不詳 : J'ay pris amours
作曲者不詳 : コンソート IX
作曲者不詳 : Dindirin
ヘンリー8世 : コンソート XII
ヘンリー8世 : コンソート XIII
作曲者不詳 : Si fortune
ヘンリー8世 : Whoso that wyll for grace sew
ヘンリー8世 : コンソート XVI
ヘンリー8世 : コンソート IV
作曲者不詳 : コンソート XIX
ヘンリー8世 : コンソート V
作曲者不詳 : Greensleeves
ピエール・アテニャン : Tourdion

アンサンブル・ドライクラング・ベルリン
イルムヒルト・ベートラー(リコーダー)
マーティン・リッパー(リコーダー)
シルヴィア・C・ロジン(リコーダー)

ミヒャエル・メッツラー(パーカッション)

CHANDOS/CHAN 0709




"The marrige of England and Spain"、メアリー1世の結婚...

GCDP31401
1553年、母が王妃の座を追われて以来、不遇の人生を歩んで来たメアリー1世(1516-58)は即位する。スペインの出身で、カトリックの信仰の厚かった母親の影響で、メアリー1世は熱心なカトリックであり、即位して間もなく、イングランドをカトリックに復帰させ、翌年には、カトリックの盟主、神聖ローマ皇帝、カール5世の息子、スペインの王太子、後のフェリペ2世(1527-98)を夫に迎えた。宗教戦争が蔓延するヨーロッパの複雑な国際情勢と、カトリックとプロテスタントの間を揺れるイングランドの不安定な国内情勢を鑑みての政略結婚... ではあったが、母の出身地、スペインからやって来た新朗は、メアリー1世にとって、救世主とも言える特別な存在だったはず。そんな、メアリー1世の婚礼を再現する、"The marrige of England and Spain"。
ヘンリー8世の時代、国教会の教会音楽で活躍したタヴァーナー(ca.1490-1545)のミサ「なんじ聖三位一体に栄光あれ」(track.5, 8, 10, 13,)を軸に、ローマ教皇に仕えたモラーレス(ca.1500-1553)、カール5世、フェリペ2世のオルガニストを務めたカベソン(1510-1566)ら、スペイン・ルネサンスの大家の作品が並び、まさに、音楽によるイングランドとスペインの結婚!イングランドの音楽に刺激を受け、ルネサンス・ポリフォニーの口火を切ったブルゴーニュ楽派が、やがてフランドル楽派を生み出し、そのフランドルで育ったカール5世が、スペインにルネサンス・ポリフォニーを持ち込み、今、まさに、新朗とともにスペインの音楽がイングランドへと渡り、ここにルネサンスが一巡するような、象徴的なセレブレーション!そうして響く音楽は、婚礼の晴れやかさというより、ルネサンス音楽が熟成されて生まれる落ち着きを感じ、某かの感慨が広がる。
という、イングランドとスペインの結婚を聴かせてくれた、チーザム+オーケストラ・オブ・ザ・ルネサンス。ルネサンス期の宮廷のチャペルの品格を感じさせるコーラスと、アルカイックな古楽器のサウンドが綾なして、どこかノスタルジックなトーンに包まれるよう。それがまた、メアリー1世の人生を物語るようで... フェリペ2世は結婚の2年後、1556年、スペイン王に即位するため、スペインへ帰国。その2年後、1558年、メアリー1世はこの世を去る。そうして幕を開ける輝かしきゴールデン・エイジ、エリザベス1世の時代... チーザム+オーケストラ・オブ・ザ・ルネサンスの歌と演奏は、華々しくは無かったメアリー1世の時代にそっと寄り添うようなやさしさを見せ、何か孤独であったろう女王を癒すかのよう...

TALLIS SCHOLARS OCKEGHEM: DE PLUS EN PLUS AU TRAVAIL SUIS

ベンディネッリ : Fanfare: Levet
モラーレス : Processional: Jubilate Deo omnis terra
グレゴリオ聖歌 Introitus
フィリップ・アプ・リス : Kyrie from Missa In die Sanctae Trinitas
タヴァーナー : ミサ 「なんじ聖三位一体に栄光あれ」 から グローリア
グレゴリオ聖歌 Graduale
グレゴリオ聖歌 Sequentia
タヴァーナー : ミサ 「なんじ聖三位一体に栄光あれ」 から クレド
グレゴリオ聖歌 Prefatio
タヴァーナー : ミサ 「なんじ聖三位一体に栄光あれ」 から サンクトゥス
カベソン : Elevation: Diferencias sobre La dama le demanda
モラーレス : Pater noster
タヴァーナー : ミサ 「なんじ聖三位一体に栄光あれ」 から アニュス・デイ
グレゴリオ聖歌 Communio
モラーレス : O sacrum convivium
グレゴリオ聖歌 Postcommunio
ベンディネッリ : Fanfare: Levet
ゴンベール : Recessional: Jouissance vous donnerai
セルミジ : Tant que vivray

リチャード・チーザム/オーケストラ・オブ・ザ・ルネサンス

GROSSA/GCD P 31401

宗教戦争の16世紀、逃避的なヘブンリーさと、新しい時代の兆し。
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