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華麗なる一族の苦悩と葛藤の物語、『ドン・カルロ』。 [before 2005]

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世界史の教科書には欠かせませんね、神聖ローマ皇帝、カール5世。遠い昔、勉強しました。が、教科書からはみ出して、例えば音楽からとか、いろいろな視点でこの皇帝を見つめると、なかなか興味深いなと... そうか、こんな人物だったかと、感慨深いところもあったり... しかし、改めて見つめて驚かされるのは、その極まったセレブな生まれ!長いヨーロッパの歴史においても、カール5世ほどのセレブは、なかなかいないのでは?ということで、そんなセレブの延長線上に展開する、やはりセレブを極めるオペラを聴いてみようかなと...
リッカルド・ムーティが率いたミラノ・スカラ座、タイトルロールをルチアーノ・パヴァロッティが歌った、懐かしき輝かしきオール・スター・キャストによるライヴ盤、ヴェルディのオペラ『ドン・カルロ』、イタリア語、4幕版(EMI/7 54867 2)を、久々に聴いてみる。

カール5世=カルロス1世の息子、スペイン国王、フェリペ2世(在位 : 1556-98)の宮廷を舞台に繰り広げられる、ヴェルディのオペラ『ドン・カルロ』。フランスからスペインへ嫁いで来た王妃、エリザベッタ(エリザベート・ド・ヴァロワ)を巡り、王、フィリッポ2世(フェリペ2世)と、王太子、ドン・カルロ(アストゥリアス公、カルロス)が対立を深めてゆくストーリーは、王すら威圧する反宗教改革と、混迷を深めるネーデルラント独立戦争が絡み合い、セレブたちの出口無き苦悩と葛藤を描き出す。そして、このオペラを特徴付けるのが、パリ・オペラ座のために、フランス語によるグランド・オペラとして作曲されたこと... 結局、1867年のパリ・オペラ座での初演は失敗に終わり、その後、曲折を経て、イタリア語訳され、スカラ座での上演のために、さらに改訂が重ねられ...
という、1884年に、ミラノ、スカラ座で初演された、イタリア語、4幕版を聴くのだけれど。『ドン・カルロ』は、やっぱりグランド・オペラ!5幕立てから1幕がカットされているとか、バレエ・シーンがカットされているとか、そういう形式的なことはさて置き、「グランド」な、何とも言えない風格を漂わせていて、だからこそ、スペイン・ハプスブルク家を描くセレブ感が圧倒的で。何より、フランス語で作曲された名残りだろうか、イタリア語で歌われても、その旋律からは、独特の流麗さを感じ、そこに、フランス・オペラの伝統たる、トラジェディ・リリクの格調高きドラマティシズムが浮かび、ヴェルディ作品にして、また一味違う雰囲気がある。いや、久々に聴いてみると、より強くそう感じる。また、幕開きのホルンの吹奏はワーグナーを思わせて、随所からドイツのライヴァルを意識させるトーンが聴こえ、スパイスとなっているのがおもしろい!一方で、ドン・カルロとエリザベッタが巡り合う始まりの幕がカットされる4幕版は、物語の展開が速い!そうしたあたりには、グイグイとドラマを前進させるヴェルディらしさも感じる。
という、一筋縄では行かない『ドン・カルロ』... 最初の失敗がもたらした副産物とでも言おうか、改訂を重ねて右往左往しつつ、あらゆるセンスを取り込んで、それがストーリーに活かされてしまう力技?なのか... そういう曲折が、登場人物たちの心象にも重なり、絶妙な音楽に成り得ている気がしてしまう。いや、『ドン・カルロ』は、間違いなくヴェルディにして、ヴェルディのイメージに納まらない魅力を感じ、惹き込まれる。正直に言うと、長大だけれどオリジナルのグランド・オペラとしてのフランス語版の方が良いかなと漠然と思って来たのだけれど、改めて聴き直してみれば、スカラ座のために改訂された版もまた魅力的であり、何より発見が多く、新鮮!
という、スカラ座のための改訂版を取り上げるスカラ座!そうしたあたりに、スカラ座の誇りと自負をビンビンと感じつつ、ムーティの丁寧な音楽作りは、ヴェルディの苦悩の痕というか、普段のヴェルディに留まらない様々なトーンをすくい上げ、より深いドラマを引き出し。スカラ座のオーケストラも、そんなムーティの方向性にしっかりと応え、歴史劇の重みを大切にしながら、じっくりとヴェルディの音楽を鳴らして来る。そして、パヴァロッティのタイトルロールを筆頭に、レイミー(バス)のフィリッポ2世、デッシー(ソプラノ)のエリザベッタと、華麗にして手堅くもある歌手たちを中心にして、コーニ(バリトン)のロドリーゴ、ディンティーノ(メッゾ・ソプラノ)のエボリ公女と、脇役たちもまた存在感を示し、歴史群像劇の醍醐味をしっかりと味合わせてくれる。
それにしても、久々に聴くヴェルディのオペラというのが、何だかたまらなく魅惑的!暑い夏にグイっと冷たいビールをやるような感覚?それでいて、『ドン・カルロ』の味わい深さがその後に続いて、聴き入ってしまう。いや、夏のヴェルディというのは、乙です。

Verdi Don Carlo
Riccardo Muti

ヴェルディ : オペラ 『ドン・カルロ』 〔イタリア語、4幕版〕

フィリッポ2世 : サミエル・レイミー(バス)
ドン・カルロ : ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール)
ポーザ侯爵、ロドリーゴ : パオロ・コーニ(バリトン)
宗教裁判長 : アレクサンダー・アニシモフ(バス)
修道士 : アンドレア・シルヴェストレッリ(バス)
エリザベッタ・ディ・ヴァロワ : ダニエッラ・デッシー(ソプラノ)
エボリ公女 : ルチアナ・ディンティーノ(メッゾ・ソプラノ)
テバルド : マリレーナ・ラウレンツァ(ソプラノ)
レルマ伯爵 : オルフェオ・ザネッティ(テノール)
王の使者 : マリオ・ボロネージ(テノール)
天の声 : ヌッチア・フォチレ(ソプラノ)

リッカルド・ムーティ/スカラ座管弦楽団、同合唱団

EMI/7 54867 2




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