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夏の夜のファンタジーを巡って、ベルリオーズ... [before 2005]

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いやはや、暑いです。もうね、耐えかねます。39度を越えた?!なんてニュースを聞くと、笑うしかない。そもそも、エル・ニーニョが発生して冷夏になるはずじゃなかったっけ?いえいえ、エル・ニーニョの発生は秋にずれ込むのだとか... 天気予報は悩ましい... というより、夏とは暑いものでして、夏らしい夏は嫌いじゃない(一方で、ここ数日の暑さの小休止にホっと一息... )。遠くの空に入道雲を見つけたり、遠くの蝉の声に気付いたり、夏なればこその情景に触れると、暑さへの不満も少し緩んでしまう。いや、「夏」ってのは、どの季節よりも、魔法めいたものがあるよなぁ。と、つぶやきながら、魔法めいた「夏」の音楽を聴いてみようかなと...
フィリップ・ヘレヴェッヘ率いる、シャンゼリゼ管弦楽団によるベルリオーズ、ブリジット・バレイ(メッゾ・ソプラノ)が歌う歌曲集『夏の夜』と、ミレイユ・ドランシュ(ソプラノ)が歌う抒情的情景『エルミニ』(harmoia mundi FRANCE/HMC 901522)の2作品を聴く。

久々に聴くと、やっぱりフランスの音楽(中世やルネサンスはさて置き... )というのは、独特の薫りがあるなと... ゴーティエの詩に作曲された6曲からなる歌曲集『夏の夜』(track.1-6)には、ドイツ・リートにはない、豊潤さというか、雰囲気がある。始まりの、「ヴィラネル」の、楽しげでありながら、ところどころ魔が差すような、危うげなあたり... 春の森へ出掛けて行く恋人たちの情景を歌ったものなのだけれど、ファンタジーに毒を含むようなその音楽は、狼に見つめられながら赤ずきんちゃんが森を散策するようなドキドキ感がある。詩に描かれたのどやかさにも、不安定な音階がスパイスを効かせて、森の中へ恋人たちが分け入る暗喩を盛り込むベルリオーズのエスプリ。うーん、夏の夜の悩ましげなあたりを味あわせてくれる。続く、「ばらの精」(track.2)は、よりファンタジックで、手折られたばらの精が、香りという亡霊となって、眠る手折った少女に語り掛けるという、ちょっと残酷なストーリーが籠められているのだけれど、それをこの上なく美しい音楽で描き上げるベルリオーズ... 美しくありながらも、パルピテーション(!)な鼓動を聴かせるオーケストレーションの巧さに、スリリングなものも感じ、その耽美的な世界により眩惑されてしまう。こういう大人のファンタジーは、フランスの真骨頂だなと...
という、ファンタジックな『夏の夜』の後で歌われるのが、抒情的情景『エルミニ』(track.7)。ベルリオーズが2度目のローマ賞(1828)に挑んだ時の課題として作曲されたカンタータで、多くのオペラに台本を提供したタッソの『解放されたイェルサレム』から、十字軍の騎士に恋をし、恋に破れるアンティオキアの王女、エルミニを描くのだけれど、いや熱い!ローマ賞の結果は2位で、惜しくもローマ行きは逃すも、血気盛んなベルリオーズ青年の思いの丈が詰まったような熱い音楽は、聴きどころ十分!2つのレシタティフと3つのアリアから繰り出されるドラマティックな情景は、ほとんどモノ・オペラ。エルミニによる迫真のモノローグは、フランス伝統のトラジェディ・リリクの結晶にも感じ、じわりじわりと感情を昂らせ、最後はハイ・テンションな中、高らかに歌い上げるカッコよさと来たら... いや、暑い夏に熱いカンタータというのは、かえって爽快かも。で、この『エルミニ』、幻想交響曲のお馴染みのテーマで始まるあたりも、2年後に代表作が誕生する一端を知るものとなっており、興味深い。
そんなベルリオーズを聴かせてくれた、ヘレヴェッヘ+シャンゼリゼ管。ことさら「ピリオド」であることを強調せず、マイペースに、手堅くまとめて来るあたりがヘレヴェッヘらしい。一方で、メンバーひとりひとりのポテンシャルの高さを感じさせるシャンゼリゼ管。隅々まで神経の行き届いたその演奏は、ベルリオーズが籠めた一音一音を活かし切り、より豊かなイマジネーションを喚起させて来る。すると、ベルリオーズの音楽に、メンデルスゾーンやワーグナーを思わせる表情を見出して... これが、時代のトーンなのだろう、そういうものをさり気なく意識させられるのは、やはりピリオドなればこそ。そして、忘れてならないのが2人の歌手!魅惑的な『夏の夜』を歌うバレイは、軽やかなメッゾ・ソプラノが印象的。この歌曲集のファンタジックなあたりをふわっと香らせて、聴く者を夢見心地にしてくれる。一転、熱い『エルミニ』を歌うドランシュは、彼女ならではの悲劇女優然とした風情を存分に活かし、鮮やかにドラマを繰り広げて来る。気品を保ちながらの激情は、間違いなくクール。
ところで、『夏の夜』は、なぜ、夏の夜なのだろう?6曲とも、その詩に「夏」は出て来ないのだけれど。いや、こういう謎めいた感じも「夏」っぽいのか?そもそも、ベルリオーズの音楽が「夏」っぽく感じる。幻想と情熱... どこかお祭り野郎なノリもあって、夏だよなぁ。

BERLIOZ / NUITS D'ÉTÉ / HERMINIE / HERREWEGHE

ベルリオーズ : 歌曲集 『夏の夜』 Op.7 *
ベルリオーズ : 抒情的情景 『エルミニ』 *

ブリジット・バレイ(メッゾ・ソプラノ) *
ミレイユ・ドランシュ(ソプラノ) *
フィリップ・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ管弦楽団

harmoia mundi FRANCE/HMC 901522




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